御剣誾千代6
「愛されてるね」
私室に戻るなり皮肉を言われた。
当然誾千代だ。
「まぁな」
俺は苦虫を……な顔をする。
「イジメが発覚したのなら任せてしまえば良いじゃないか」
「元から俺に価値は無いし」
「皮肉かい?」
「経験則です」
「君が敬語を使うのは皮肉る時だけだよ」
「…………」
その、
「さも分かっている」
の弁論はどうにかしてほしい。
「どうせ今の虐めっ子を排除しても次が現れるだけだ」
「男子はそうだろうね」
「…………」
なんだかね。
この友達は。
「で、何処に行くんだ?」
「カイラス山」
「捕まるぞ」
「だね」
とりあえずジャブだったらしい。
「じゃあとりあえず」
とりあえず?
「近場のショッピングモールでも」
「妥当だな」
「それじゃ私は先に行ってるよ」
「ああ」
そして投影機が作動を止める。
誾千代のアバターは消えさった。
俺は私室のベッドに寝転んで、
「リンクスタート」
ぼんやりと呟いた。
アクセス先はセカンドアース。
その近場のモール。
金髪碧眼の少年がいた。
誾千代のアバターだ。
ちなみに俺は白髪赤眼の美少年。
現実でも顔は整っているが、どちらかと云えば中性的(というか女性的)であるためアバターは鮮烈な美少年だ。
どっちもシャツにダメージジーンズ。
「はは」
俺が笑った。
「あはは」
誾千代も笑った。
それから二人でブラブラ。
モールということで店も充実している。
特に多いのは女性服の売り場。
どこそこのブランドがどーの。
セレクトショップがどーの。
そんな感じ。
「ふむ」
「まぁ」
などと服を見聞していると、
「忍」
と誾千代が呼んだ。
「何だ?」
「そっちは秋の文化祭などしないのかい?」
「するが?」
「是非とも私を呼んでくれ」
「構わんぞ?」
「ああ、光栄だ」
はにかむ誾千代だった。
完璧さは損なわれていなかったが。
「代わりに君には我が校の文化祭に招こう」
「楽しみだな」
「というわけでホイ」
誾千代はチケットを差し出した。
「何か?」
「私の学園……その文化祭のチケット」
「もう発行してるのか?」
「まぁね」
「ふーん?」
疑わしげに誾千代を見やると、
「とりあえずデートはしようね」
「今もしてるだろ」
「でも恋人じゃない」
「そりゃあ……」
否定は出来ないが。
「終わったことを蒸し返すな」
「忍は可愛くないなぁ」
「性分でな」
さもあらん。
「そんな忍だから好きなんだけど」
「あのなぁ」
「まぁ良いでしょ? 愛を語るくらい」
「お前が言うと洒落になってねぇ」
「それはつまり脈有りってことかい?」
「何で俺がお前と……」
「その先は聞きたくない」
「っ!」
少し唾を飲んで、
「さいか」
そう答えた。
「ままならないな」
「ままならないね」
少なくとも苦笑する程度の余裕はあるらしい。