御剣誾千代5
「あ、忍ちゃん……」
「ども」
私室を出ると母親と会った。
扉を開けた瞬間そこにいたのだから俺に何か話があるのだろう。
「何?」
「今鬼灯先生がいらっしゃってるの」
「うげ」
ベロを出してしまう。
「嫌ならお帰り願うけど」
「適当にあしらって良いよ。俺はシャワーを浴びる」
「忍ちゃんの不登校についてなんだけど」
「今更でしょ」
「そんなこと言わないで」
母親は妙に食い下がっていた。
「何がそこまでさせるのよ?」
問わずにはいられない。
「忍ちゃんにも外に出て欲しい」
「あー……」
親切から言ってくれているのは十分に承知している。
が、元が元だ。
ほとんど俺の引き籠りは、
「なるべくしてなった」
としか言いようがない。
俺は人間ではあれど人類から弾かれた存在。
そんなことさえ思うのだ。
とりあえずあしらって構わない。
再度言う。
「鬼灯先生が嫌いなの?」
「まさか」
もしそうなら保健室登校もしていない。
コーヒーを振る舞ってくれるし、未熟なりにフォローもしてくれる。
「ただ人が苦手」
それは俺のレゾンデートルだ。
そういうと大げさに聞こえるかもしれないが、人間不信が強く俺の心に根ざしているのもまた事実で。
「だから」
俺は言った。
「適当にあしらってね」
と。
そしてシャワーを浴びる。
熱いソレだ。
ザーザーと湯を浴びて考える。
白雪のこと。
誾千代のこと。
俺にいる只二人だけの友達。
保健室では白雪が癒やしだ。
家では誾千代が癒やしだ。
そして尚タチが悪い事に、
「こちらから返せるモノが何もない」
に終始する。
無能で。
クズで。
ゴミで。
雑魚で。
白雪のような一途さも無い。
誾千代のような完璧さも無い。
どこまでも俗で。
どこまでも凡人だ。
唯一顔が整っていることは認めるが、それもマイナスの方にしか向かない。
人生は無理ゲーだ。
セーブもロードも出来ないし電源を切ることも出来ない。
いや、電源を切ることは出来はする。
自殺。
一般的にそう呼ばれる。
が、
「死ぬことがいつでも出来るのなら少し勿体ないかな?」
というのが俺の意見だった。
ともあれシャワーを浴びて綺麗さっぱりになると、俺は鬼灯教諭に捕まった。
「神鳴くん?」
「何でっしゃろ?」
「神鳴くんはそれでいいの?」
「明確に話してくれ」
言いたいことは分かるつもりだが。
「このまま保健室登校で良いの?」
「別段困ってはいないしなぁ……」
一応講義は保健室でも行なわれる。
それを量コンにインプットして学業を成立させる。
その程度は簡単だ。
処理できるかは別として。
「面倒なら並列化してください」
「出来るわけないでしょ」
まぁな。
鬼灯教諭の言うことも全くだ。
便利ではあるが洗脳にも使われる。
であるため脳の並列化は第一級電子犯罪である。
行使すれば大日本量子ちゃんに叱られるレベル。
「あのね。神鳴くんを虐めている生徒については先日判明したでしょ?」
「したな」
保健室で俺に悪意をぶつけた名無し。
「彼を排除すれば少しは学校の居心地も良くなるかなって」
「結果として俺の代わりにソイツが人身御供になるだけでしょ」
結局トントンだ。
「じゃあ神鳴くんはソレで良いの?」
「慣れてます故」
肩をすくめる。
が、事実だ。
俺は元より人に嫌われるタイプの人間だから。