御剣誾千代2
「雷遁はオドをプレイしている時が一番輝いてるね」
ソードはそう言った。
皮肉気に。
雷遁。
俺のオドでのアバター名だ。
「そういうお前はどうして参加しないんだよ?」
「元よりゲームに興味は無くてね」
いつも通りの返し。
ソードにとってオドは俺と茶をしばくための場所でしかない。
「にしても久しぶりだね」
ソードは感慨深げに云った。
「まぁ色々あってな」
俺は言葉を濁すが、
「何を隠しているんだい?」
見極められた。
だからコイツとは会話したくない。
というのは冗談としても、
「なんだかね」
という気持ちは本物だ。
「そっちはどうだ?」
俺は話をずらす。
「この前告白されたよ」
「マジ?」
「ああ」
ソードのアバターはコックリ頷いた。
金髪碧眼の美少年の姿だ。
ソードの理想でもあるらしい。
「趣味が悪いな」
「だろう?」
茶を飲んでケラケラ。
笑うソードに一点の曇りも無かった。
「相も変わらずだな」
「ああ」
爽やかに言ってのける。
「そちらはどうだい?」
「不登校」
率直に言うと、
「ぶっ!」
とソードは紅茶を吹き出した。
「不登校?」
「そう言った」
「何でよ?」
「虐められたから」
「むぅ」
ソードは勘案しているようだ。
「ついでに引き籠り」
「なんでまた」
「元より底辺です故」
諸手を挙げて降参。
コイツにはコレが良く利く。
「雷遁はソレで良いのか?」
「良かないがどうしろと?」
虐める側のモラルを再認識したところで意味は無い。
それはソードもよく知るところだ。
「雷遁は変わらないね」
「ソードもな」
「慰めてあげよっか?」
両腕を開くソード。
「バンジージャンプより勇気いるな」
「何でさ?」
「ゲイと思われるだろうが」
「今更気にするのかい?」
まぁ確かにな。
俺はソードの隣に座ると、コトンとソードの肩に頭部を預けた。
「少しだけ……こうさせてくれ……」
「いいとも」
俺の(アバターの)白い髪を撫でながら慈しむソードだった。
「結局何なんだろうね私たちは」
「さてな」
本気で、
「わからない」
ソレに尽きる。
虐められる人間ではある。
だから虐める人間の気持ちは分からない。
惨めだと思う。
けれど虐める側は娯楽の対象とする。
結局、白雪の件から始まったイジメは一週間俺を苛んだ。
結果として今がある。
「私だけは味方だよ?」
「そりゃ重畳だな」
苦笑してしまう。
ソードの気持ちを疑ったことはない。
だから幾らでも吐き出せた。
それを優しくソードは受け止める。
心地よい空間だった。
「久しぶりに私の家に来ないか?」
「お前、寮生活だろ」
「セカンドアースで」
その程度ならいいが。
少なくともデメリットは無い。
「じゃあそういうことで」
そしてソードはログアウトした。
ソードの肩にもたれかかっていた俺はシステム上の重力に従ってスッ転ぶ。
「なんだかなぁ」
それだけ。