お友達から始めましょう3
「…………」
ふと意識が肉体に戻った。
夕方。
少し薄手のジャケットが居る季節。
さっきまでアバターに意識を移していたので、ようやく自身を自身と認識できる。
電子音が鳴った。
無論俺の意識の中でだが。
許可を出す。
すると部屋に取り付けている映写機が立体映像の白雪を構築する。
「よ」
ヒラヒラ手を振ると、
「あう……」
白雪は借りてきた猫みたいに大人しくなった。
「元からだ」
とも言う。
「ここが忍くんの部屋……」
「おう」
「私の部屋の方の……アドレスも送るね……」
「おう」
行く気は無いが。
「お腹空いてる……?」
「まぁそこそこに」
「じゃあ……もう作ろっか……? 御飯……」
「お願いする」
言って俺はベッドに寝転んだ。
「じゃあ少し待っててね?」
「幾らでも」
そしてフツンと映写機が機能を停止する。
「さてさて何が出てくるやら」
まぁ期待しないかと言えば嘘になる。
美少女の手作り料理だ。
まさか漫画よろしくのゲテモノは出てこないだろう。
……多分だが。
しばし読書をしながら時間を潰す。
無心にページをめくっていると、
「忍くん……?」
「ん~?」
「ご飯出来ましたけど……如何致しましょう……?」
「有り難く食べさせて貰うよ」
「ではその通りに」
そして俺は量子変換に許可を出して白雪の手料理を見る。
出てきたのは白米とカレイの煮付け……サラダに味噌汁だった。
「おお……本格的……」
「乙女の嗜みです……」
にゃーと白雪は照れた。
白米を食べる。
少し固め。
カレイの煮付けは良く火が通っており、なおカレイ独特の旨さが舌で踊る。
味噌汁はリクエスト通りで、なお完成度の高さに驚かされる。
「あの……どうでしょう……?」
おどおどする白雪に、
「極上に美味い」
と言ってあげる。
「はやや……!」
赤くなって狼狽するのも今更だ。
テキパキ食べて最後にお茶を飲む。
「ふぅ」
吐息をついて、
「ごっそさん」
と一拍。
「お粗末様でした……」
白雪も嬉しそうだ。
「乙女だねぇ」
「乙女です……」
「ま、いいんだけどさ」
他に良い様もあるまい。
「あの……忍くん……?」
「何でっしゃろ?」
「明日も保健室に……来てくれますか……?」
「白雪が望むなら」
「望みます……」
「うん。なら良かった」
「良かった……?」
「一人でも俺の登校を喜ばしく思ってくれる生徒が居るのは悪くない」
「えへ……」
嬉しそうに笑うよなぁ。
此奴。
そこに白雪独特の美貌と相まって神秘的と言っていい可愛らしさ成分を発散させる。
彼奴も大概だったが白雪も相当だ。
基本的に、
「俺が何かしたかね?」
そう問いたかった。
あまり土足で踏み荒らすのも忍びないので聞かないが。
「あの……忍くん……」
「何でがしょ?」
「また御飯作っても……いいかな……?」
「大歓迎」
諸手を挙げて万歳だ。
「そっか……えへへ……」
嬉しそうだね?
そう言うと、
「はいな……!」
軽やかに肯定された。
「好きな人に褒められるのは……乙女の至福です……」
「でっか」
俺とて恋する気持ちは分からないじゃない。
一応年頃の男の娘ですし。
何か言ってて虚しくなってきたなぁ。
いいんだけどさ。