部屋の中から愛を込めて6
「あの……私は……地祇白雪と申します」
さいですか。
「…………」
チラリと教諭を見やる。
「…………」
コクコクと頷かれる。
何やら期待されているらしい。
「何の冗談だ?」
瞳でそう問いかける。
「っ!」
グッとサムズアップされた。
「あう……あうう……」
ちなみに地祇の白雪さんはアバターなのに涙をボロボロこぼしている。
そこまで演出することに何の意味があるだろう?
そんなことを思っていると、
「ごめんなさい……」
そんな謝罪。
「何が?」
そんな疑問。
「私が……追い詰めました……」
「だから何を?」
「神鳴くんを……」
「俺を?」
初対面で?
「ううっ」
泣き続ける地祇の白雪さん。
「とりあえず」
俺は教諭に鋭い視線を送った。
「コーヒー」
「はいな」
そういうことになった。
俺がコーヒーを飲む。
教諭がコーヒーを飲む。
地祇の白雪さんがコーヒーを飲む。
空気がまったりしたところで俺は切り込んだ。
「で、お前誰よ?」
「ええと……」
「名前は知った」
「あの……神鳴さんの……イジメの原因……です……」
「…………」
しばし熟考した。
「つまり地祇さんが策謀したと?」
「あう。結果論で言えば」
「釈然としないね」
そもそもこの心敏感な乙女が人を虐めて楽しめるとは思えない。
「あの……私のことは……白雪と……呼んでほしいです……」
「OK。白雪。こっちも忍でいいから」
「では忍さん……と」
はにかみ笑いの白雪は大層可愛らしかった。
「あの……私のことは……鬼灯先生と……呼んでほしいです……」
「で、鬼灯教諭」
「死のっかな……」
「そこまで追い詰められんでも」
真摯な言葉が俺には通じない。
「白雪は有名なのか?」
「一応瀬野四のアイドルだからね」
今時学校のアイドルって……。
何時の時代のギャルゲだ。
「ともあれソレとコレとがどう繋がる?」
「そもそも神鳴くんが何で虐められ出したかわかる?」
「イジメに理由がいるのか?」
「まぁそういう場合もあるけど、今回においては地祇さんの不注意なの」
「?」
となる。
「まぁそこまで難しい事でも無いけどね」
教諭はコーヒーを飲んだ。
「地祇さんは異性によくモテるのよ」
「だろうな」
少なくともアバターが当人を現わしているのなら、この美少女は本物というわけだ。
「で、ちょっと調子に乗った男子に告白されて」
教諭は言葉を続ける。
「神鳴くんが好きだから付き合えません……って言ったらしいの」
「ああ、なるほど」
「ごめん……なさい……」
ボロボロと白雪(アバター)は泣いていた。
「要するにとばっちりか」
「だね」
教諭も否定しなかった。
「ごめん……なさい……」
「気にするな」
俺はポンポンと白雪の頭を優しく叩く。
「虐めたのは当人の責任だ。腹いせは俺の階級の低さだ。お前が苦慮する理由は無い」
「あう……」
白雪は俺に抱きついておいおい泣いた。
感情が溢れているらしい。
俺はソレを受け止めながら教諭に言葉を差し向ける。
「で? 何で白雪までアバター保健室登校?」
「地祇さんに告白した男子が地祇さんのグループ……別の女子の想い人だったみたい」
「つまり俺と同じように好きな人を寝取られた腹いせを受けた……と?」
「そゆことね」
教諭はコーヒーを飲む。
「で、何で俺が人身御供?」
「純粋に地祇さんが神鳴くんを好きだからでしょ」
「…………」
俺はそうとう間の抜けた顔をしていることだろう。
「……はぁ?」
困惑する俺に、
「忍くん……」
グシュグシュと泣き顔の白雪が告白してくる。
「私と……付き合って……ください……」