部屋の中から愛を込めて4
次の日。
「くあ……」
欠伸をして起きる。
時間は正午。
ほとんど空腹で起きたようなものだ。
とりあえず量子変換器で昼食を頼んで食べる。
今日は海苔弁当。
日本に生まれて良かった。
なんとはなしにそんなことを思う。
人類百億人。
対する日本人一億人。
日本に生まれるには百分の一に賭けなければならない。
ちなみに三分の一の確率でブリックスに生まれるのだからタチが悪い。
メッセを見やる。
当然視界上のイメージパネルだ。
視線ポインタで操作する。
「起きてる?」
「起きてる~?」
「起きてますか?」
「起きてますか~?」
ウザい。
それが俺の感想だった。
メッセの主は養護教諭である。
いわゆる一つの「保健室の先生」という奴。
昨日アバター保健室登校をすると言ったので待っているのだろう。
もりもり海苔弁当を食べる。
別段、絶賛引き籠り中だ。
何処にいようと構わないのが事実。
であるので焦ってはいなかった。
「ん~……」
海苔弁当を食べて腹をくちくすると俺は部屋を出た。
とりあえずシャワーを浴びる。
残暑厳しい季節。
温めのシャワーが心地よい。
ボーッとシャワーを浴びながら、
「学校ね」
そんなことを考える。
特別な場所ではある。
大人と言えば教師ばかり。
生徒によるヒエラルキーがあって、踏みにじり、踏みにじられる。
なお始末が悪いのが、イジメは刑法の対象にならないということだ。
学校側も体裁を気にして、
「調査しました」
ばかり。
そんなやりとりに疲れた。
そういう気持ちも確かにある。
「せめて誰かが味方してくれれば」
そうも思う。
けれど結局誰も助けてはくれなかった。
理由は簡単。
虐めっ子の方が虐められっ子よりヒエラルキーが高いから。
絶対の真理だ。
覆しようがない。
当然空気を読むことに敏感な愛するクラスメイトどもは虐めっ子に迎合する。
結果、
「今こうやってシャワー浴びてるんだよな」
そういう事になる。
シャワーを浴び終えると、また部屋へ。
量子変換でアイスコーヒーを頼む。
瞬時に現れる。
手にとって飲む。
「さてどうしたものか……」
正直行きたくはない。
心が出血しないから致命的でないだけで心情は深刻だ。
またあの冷笑と暴力と嫌がらせを受けるのかと考えれば憂鬱になる。
メッセが来た。
養護教諭だ。
「待ってるよ!」
一生待ってろ。
ついそんな文面を送ってしまいそうになる。
忍びないので送らないのだが。
コーヒーを飲む。
シャワーを浴びた時点で目は覚ましていたが、この苦みが更に現状を把握させる。
だいたいアバター保健室登校して問題が解決するのならいいのだが、そこまで養護教諭に期待するのは無理筋だろう。
講義は幾らでも受けられるだろうが、
「なんだかね」
が基本だ。
「とりあえず学校に行く」
「とりあえず高校に行く」
「とりあえず大学に行く」
「とりあえず社会に出る」
そんなことを思っていた。
実際イジメが無かったらその通りの空気に馴染んでいただろう。
イジメに遭って引き籠もって、そして思うこともある。
「むしろ社会人の方が意志薄弱ではないのか?」
と。
根拠はない。
生産性も引き籠りよりずっと有る。
が、義務教育を振り返って思う。
「与えられた学業に熱中して何が楽しかったんだろう」
なんてさ。
「神鳴く~ん」
また新たにメッセが来る。
どうしても面を突きつけ合わせたいらしい。
「渡世の義理……か」
因果なものだ。
養護教諭の暇さに呆れかえるほどだった。
コーヒーをグイと飲み干す。