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オーバードライブオンライン  作者: 揚羽常時
外伝:量子の場合
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零と一の間の初恋1


「ぐしゅぐしゅ……」


 秋子は泣きじゃくっていた。


 原因は僕。


 中学生になりたての春頃。


 桜も散ってしまい、中間テストが目の前の時系列。


 とりあえず利き腕じゃなくて良かった。


 何がかって?


 骨折。


 元がVRオタクですので現実ではもやしっ子だ。


 体の動きを操る能力には長けるけど、それに肉体能力が付いてこない。


 結果、体育の時間に無理をして腕を骨折。


 近場の医大付属病院に連れて行かれた。


 秋子もソレに付き合った。


 僕に秋子は心を仮託しているので、僕がちょっとでも傷を負えばそれだけで秋子が涙するには必要十分条件だ。


「はいはい。泣かない泣かない」


 僕は利き腕で秋子の頭を撫でる。


 とりあえず投薬と骨の固定と痛み止めで様子見となった。


 全世界を見れば今日も何処かでデビルマン……じゃなくて今日も何処かで骨折した人が多数いるだろう。


 そういう広い視野を持てば僕の骨折程度で滅ぶ世界では無い。


「ぐしゅぐしゅ」


 秋子は泣き止まなかった。


「雉ちゃん痛い?」


「痛み止め打って貰ったから平気だよ」


 ポンポンと軽く秋子の頭を叩いて安心させる。


「でも日常に支障をきたすよね?」


「そりゃまぁ」


 でも心配はしてない。


「雉ちゃんのフォローは私がするから」


「頼りにしてるよ」


 苦笑した。


 とはいえ有り難い申し出を袖にする余裕も無い。


 片腕を封じられれば食事はともあれ風呂が問題だ。


 ちなみにVRゲームに影響しない。


 そのためたまにヴァーチャルリアリティはリハビリに使われる事もある。


 運動認識を脳にさせるための訓練だ。


 基本的に筋肉は電気信号に反応するだけだから、ヴァーチャルリアリティは結構有意義なツールとなる。


 閑話休題。


「食事も私が食べさせてあげるね?」


「それは自分で出来ます」


 わくわく顔の秋子の提案をすげなく却下。


 とかく僕の役に立ちたいという気質で秋子は溢れている。


 ワンコに懐かれた気分だ。


 これで女子だったら言う事無いんだけど……。


 まぁ宿業について言えば僕も五十歩百歩なので秋子にだけケチをつけるのはあきらかに間違ってはいるんだけどねん。


 ともあれ、


「シャワーで体洗うの手伝ってくれる?」


「うん!」


 朗らかな笑顔と共に頷いてくれた。


 感性は女の子だけど僕的に言えば、


「男の娘」


 という観念だ。


 その道の人たちには垂涎の的なんだろうけど、


「何だかなぁ」


 が僕の感想。


 別段同性愛に何かしらの感情を覚えるほどでも無いけど自身には遠い認識である。


 それからサクサクと必要事項を終えてお金を払い、外に出る。


 春の終わりを感じさせるまろやかな日差し。


 まろやかかどうかこの際置いといて、


「こっちが近いよ」


 という秋子に連れられて広い中庭に出た。


 ベンチが複数置いてあり、日当たりも良く、観葉植物もよく手入れがされている。


「へぇ」


 と唸った。


 無論公爵の屋敷ほどではないけど、観賞するに値する風景だ。


 主に爺婆じじばばがベンチに座って寿命を数えていたけど、そんな中で一つのATフィールドを見た。


 女の子だ。


 それも容姿があり得ないレベルの。


 黒髪黒眼の日本人的な少女には違いないけどパーツの組み方があり得ない。


 絶妙な左右対称で静謐な彫像を思わせる。


 黒い髪はセミロングでツインテールにしている。


 肌は日本人にしては白い方で、桃色の唇が花を添えている。


 着ている服は入院患者様のソレだ。


 ベンチに座って本を読んでいた。


 そっちに近づいていく。


「…………」


 向こうもこっちに気づいたのか本から顔を上げてくれた。


 視線が交錯する。


 なんでもない僕の瞳が黒真珠にも例えられる女の子の瞳に映る。


 合わせ鏡のように連鎖する視線の交わり。


「あー……」


 近づいたは良いけど特にコミュニケーションについては思考から欠如していた。


「何か用ですか?」


 丁寧な口調で女の子は問うた。


「あー……」


 再度繰り返し。


「ふむ」


 と唸って女子を見やり、一つの結論に辿り着いた。


「僕と付き合ってください」


「……………………は?」


 女子はポカンとした。


 それが僕の初恋だった。


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