パーフェクトコピー4
「雉ちゃん起きる!」
毎度ながらこの紺青さん家の秋子さんは……。
何回やるんだこのやりとり。
起きられない僕が悪いんだけど。
「んん」
呻いた後、
「今日の御飯は?」
なんて尋ねてみる。
「白米とベーコンと卯の花と中華スープ」
「あう」
ゴロゴロ。
バタン。
寝転がってベッドから落ちた。
アリスの一件の後。
それ以来、僕は公爵に多大な借りを作った形と為り色々と口利きして貰ったりした。
別段こっちは、
「大層なことをした」
覚えは無いのだけど、子ども一人で生きていくのに公爵の力が何かと便利なのも事実は事実で。
とりあえずオドでのチートに目を瞑って貰うという約束だけ取り付けた。
現在のハイドのレベルは七百を超える。
四六時中パーフェクトコピーがプレイしているのだから当然と言えば当然なんだけど。
おかげで最近はレアアイテムをネトオクで捌いて収入としている側面も有る。
閑話休題。
朝食だ。
「相も変わらず美味しいね」
もむもむと秋子の用意した料理を食べながら僕が感嘆すると、
「えへへぇ」
とはにかむ秋子。
秋子は生まれはあんなんだけど手先は器用らしい。
もはや僕の胃袋は秋子に握られている。
こと和食においては完全に僕好みだ。
もむもむ。
「雉ちゃん?」
「なぁに?」
「いつでもお嫁に行けるよ?」
「知ってる」
「結婚ね!」
「ご祝儀を包むよ」
「雉ちゃんと!」
「君は僕が誰を好きか知ってるでしょ……」
もむもむ。
「うぅ……そうだけど……」
かくも憂い無き結論もあるまい。
「でも涼子ちゃんは……」
「知ってるけどどうにもならないのが恋だからなぁ……」
「なら私の気持ちも想像できるよね」
「勘案したりはしないけど」
もむもむ。
「雉ちゃんの意地悪」
「褒め言葉と受け取っておこう」
それから朝食を終えて中学の制服に着替える。
「雉ちゃん?」
「今度は何です?」
「手をつなご?」
「これだけぞんざいに扱われてよくめげないね君は……」
「めげてるよ?」
「そなの?」
「でも雉ちゃんに涙を見せたりしないの」
「何でさ?」
「格好つけたいから」
そう言って秋子は僕の手を取った。
今の僕は中学二年生。
いわゆる中二と呼ばれる存在だ。
まぁ僕の場合馬鹿ではある。
中二特有のソレとは違うけど。
対する秋子は鼻歌を唄いながら僕と握った手をブンブン振っていた。
中学一年の頃。
僕は初恋を経験した。
儚く散る恋だった。
でも、だからこそ、狂おしい。
中学二年となった今でもまだ好きだ。
そして今日もまた病院に通うのだろう。
その程度は規定事項。
秋子には申し訳ないけど僕は秋子を恋愛対象として捉えられない。
こればっかりは業だ。
どうなるものでもない。
口にはしないけど。
「雉ちゃん雉ちゃん愛してる!」
「恐悦至極」
僕は素っ気ない。
「涼子ちゃんにだって負けないんだから!」
「頑張れ」
気持ちを込めない。
「きっと私が一番になってみせる!」
「応援してるよ」
心ない言を紡ぐ。
「うがー!」
と秋子が吠えた。
「雉ちゃん淡泊すぎ!」
「知ってるよ」
自覚的なんだからしょうがないでしょ。
「人間は百億人」
「何ソレ?」
「男が五十億人。年齢でふるいをかけて二十五億人。容姿でふるいをかけて十二億人。その他無視できない欠陥を鑑みて六億人」
「何の話?」
「きっと秋子を好きになってくれる男の人は六億人の中に何人かはいるって事」
「私は雉ちゃんが好きなの!」
知ってる。