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オーバードライブオンライン  作者: 揚羽常時
外伝:量子の場合
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パーフェクトコピー2


 そんなわけでイギリスに来てしまった。


 パスポートを持っているわけでもないのに空港はシャンシャンで通り、違法行為としてイギリスの地を踏む僕こと土井春雉。


 案内人は校長室にいた紳士では無く、オフィスレディ姿の大人の女性だった。


「ミスター。何かご入り用はあるでしょうか?」


「特にないかなぁ」


 ぼんやりと答える。


 異国の地を踏んだのは初めての経験だったけど、どうやら断るわけにはいかなかったらしい。


 公爵と呼ばれる存在に招かれたのだから。


 イギリス……というか世界最大の財閥で、ありとあらゆるところに権力の枝葉が伸びていると先導役の淑女さんから聞いた。


 それでそのお偉いさんが何の用?


 口にはしないけど。


「公爵は何でもミスターを欲しているとか」


「特に提供できる物は無いんだけど……」


 やはしガシガシと頭を掻いてしまう。


 それからリムジンの迎えに乗って、公爵の邸宅へ。


『豪邸』


 と聞いて思い浮かぶ一般的な豪邸の十数倍の規模を想像して貰えれば幸い。


 公爵の豪邸は下手をすれば並みの城より規模がでかかった。


「お金持ちなんですね……」


 気圧されて言うと、


「世界のトップです」


 淑女は誇りと共にそう告げた。


 ますます僕の中の疑問は膨らむばかりだ。


 そんな命さえ金で買えてしまえそうな世界のトップが僕に何の用でっしゃろ?


 口にはしないんだけど。


 荘厳な扉に出迎えられ、重々しく開いた先には完璧に手入れされた庭。


 その中をリムジンが進む。


 しばしの時間、手入れされた庭を見ながら僕はリムジンに揺られていた。


 玄関から本邸まで車で数十分かかるというのだから敷地の広さが窺える。


 ベタな金持ちの邸宅例とも言える。


 で、屋敷に着くと僕はリムジンを降りる。


 淑女さんに導かれて屋敷に入ると、多数の使用人の列に出迎えられた。


「いらっしゃいませミスター」


 声を揃えて慇懃に頭を下げられる。


 練習したんだろうか?


 そんなことを思ってしまうほど一糸乱れぬ統率だ。


「ああ、ども」


 緊張して逆に不敬な返事になってしまう。


 というか小学六年生になんていう経験をさせるんだ……。


「公爵がお待ちです。どうかご面会くださるよう」


 流暢な日本語を話す使用人がそう言った。


「はあ」


 他にどう答えろと?


 それから客間に通されて公爵と面会する。


「土井様はお飲み物にリクエストはございますか?」


「チョコレート」


「承りました」


 そして使用人は去って行く。


 残されたのは僕と公爵。


「初めまして。土井春雉っていいます」


 緊張のあまりペコペコと頭を何度も下げる。


「急に呼びつけて済まなかったねミスター。本来なら私が出向くのが筋なのだろうけどどうにもこうにもこればかりは」


「恐縮です」


 一礼。


「ミスター土井春雉。春雉と呼んでも?」


「構いませんが……」


 そして公爵に指示されて円テーブルの対面に座る。


 公爵は柔和に目を細めて、


「来てくれて幸いだ。私は春雉に用があった」


 まぁ小学生を無理矢理イギリスまで拉致って何もなしではそっちの方が問題だけど。


 使用人が現れて僕と公爵にチョコレートを振る舞うと退室した。


「あの……。で、僕に何の用でしょう?」


「春雉はオーバードライブオンラインをプレイしているね?」


「です。それが何か?」


「君の素性は失礼にならない範囲で調べさせて貰った。結論として君のオーバードライブオンラインのプレイ時間と君の生活サイクルとは矛盾する」


「…………なんでバレてる?」


「私の資本……その会社の子会社の子会社がオーバードライブオンラインの運営に一枚噛んでいてね」


 持ち株会社の子会社の子会社ですか……。


 壮大なことで。


「君はチートを使っているだろう」


「あら、バレてます?」


「運営は問題にしてないよ。ただし君のプレイ時間は日本の小学生にしてはありえない」


 ま、実際その通りだしね。


「君は君の……つまり土井春雉のコピー人格を作ってオーバードライブオンラインのプレイを肩代わりさせているだろう。しかも運営さえ欺いて」


 そうですけど。


「私は土井春雉に接触してフォークトカンプフテストを試した。結果、人間と判定した」


「えーと……つまり……?」


「率直に聞く。誤魔化しは不要だ。君はクオリアを持った人工知能を構築できるね?」


「あ、はい」


 チョコレートを飲みながらあっさり肯定。


 というか否定してどうなるものでもないのが事実だ。


「そんな春雉にお願いがある」


 深々と公爵は礼をする。


「あ、頭を上げてください公爵……!」


 あわあわと慌てる僕……ヘタレだ。


「それで何をしろと?」


「私の孫と会って欲しい」


「お孫さんと?」


「ああ」


 公爵の目は真剣その物だった。


 孫ねぇ。


 それが僕とどう繋がるのだろう?


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