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オーバードライブオンライン  作者: 揚羽常時
外伝:秋子の場合
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きっと始まりが間違っていた3


 で、湯豆腐を食べ終わると秋子と夏美が片付けて、それからまた電子世界にダイブ。


 オドではなくセカンドアースだ。


 場所はパリ。


 さすがに芸術の都。


 多くの人がログインしていた。


 僕ら四人もその範疇。


 セーヌ川を眺めやりながら愛を語り合うアベック。


 橋で似顔絵描きをしている下積みの画家さん。


 オートクチュールを身に纏って颯爽と歩くモデル系美女さん。


 などなど色んな人がいた。


 こと芸術の集中する都だ。


 天下を取るために……そしてそれを観賞するために……世界中の人間が集まる。


「まずはオルセーからかな?」


「はいな」


 そんなわけでそんなことになった。


 時間が時間ではあれど基本的にセカンドアースは年中無休。


 パリは朝方だったけど特に支障が出るわけでもない。


 ところで僕は絵画に詳しくないためルノワールと言われてもネットで見聞した程度の情報しか持っていない。


 夏美が、


「すごいすごい」


 と言ってるけど、ルノワールの絵よりも夏美の方が素敵だ。


 敵を作りそうな言葉だけど本音でもある。


 というか裸婦画が多いのだけどどんな頼み方をすれば女性にヌードモデルをしてもらえるんだろうか?


 女性の体に美を見つけるのは神話の時代から有り得ているためとやかく言える事でもないんだけど、ルノワールは女性の裸が好きだったのだろうか?


 チラリズム萌えも理解してほしかった。


 とはいえ絵を描けない身としては素直に称賛にも値する。


 後に病気にかかるも命を削って絵を描き続けた男の生涯。


 その遺産と思えば有難い気になるから不思議だ。


「好きじゃなきゃ絵なんて描かない」


 師に、


「絵を描くのが好きなんだね」


 と問われてルノワールが返した言葉がソレだ。


 好きだから絵を描く。


 そして後世にまで伝えられる傑作を生みだす。


 中々に極道だ。


 だからこそ歴史に名が残ったのかもしれないね。


 ちょっと歴史上の画家を美少女にしてプロデュースするゲームのコンセプトが頭に浮かんでしまった。


 諸葛孔明しかりアーサー王然り。


 うっかり歴史に名を残すと後世の娯楽屋に好き勝手解釈されてしまうから恐ろしい。


 いつかルノワールも美少女になることだろう。


 あらゆるものに仏性が宿るというし、美少女化も似たようなものかもしれない。


 目をキラキラさせてルノワールの絵に見入っている夏美を見れただけでもオルセーに来た価値はあった。


 喜んでもらえたなら恋人冥利に尽きるというものだ。


 そんなこんなでオルセーを後にする僕ら。


 次は量子の提案で香水の専門店の戸を叩いた。


 ブランド店ではあるけど格としては下の上と云ったところ。


 というか僕にしろ夏美にしろ秋子にしろ一流ブランド店をまたげるようなスーパーセレブではない。


 そんなわけで、


「ちょっとお高い香水のお店」


 と云った様子の店を自然と選んだのだ。


 量子がね。


 僕と夏美は香水には興味なし。


 僕はVRオタクだし夏美はサブカルオタクだ。


 そも香水に関心を寄せられるような性格をしているなら夏美がぼっちになることもなかったろう。


 今時の話題を持ち合わせていないから女子グループから弾かれた夏美であるのだから。


 秋子は真摯に量子に話を聞いて香水を選んでいた。


 まぁ語弊を承知で乙女だから身なり気になるのも致し方なし、か。


「ほら。夏美ちゃんも」


 クイクイと量子が手招きする。


「私はこういったことに疎いモノで……」


 遠慮がちな夏美に、


「じゃあ私が選んであげる」


 量子は爽やかに笑ってのけた。


 そんなわけでかしまし娘はやいのやいのと姦しく香水を選んでいた。


 若いっていいね。


 振り向かないことなんだろうけど。


 ちなみに愛は躊躇わないことだ。


 いかん。


 夏美の影響を受けすぎてる気がする。


 懊悩する僕の視界で量子と夏美が香水を色々と品定めしていた。


「この香りはすごく好きです」


「ラベンダーだね。香りの弱い奴がおススメかな」


「そうなんですか?」


「日本人は体臭が薄いからね。あんまり濃い物をつけるとかえって逆効果。ほのかに香るくらいでちょうどいいんだよ」


「ふわぁ」


 量子の博識に驚いているご様子。


「量子ちゃん」


 とこっちは秋子。


「これとかどうかな?」


「湖の香り。秋子ちゃんなら似合うかも。気に入った?」


「うん。良い香りがするよね」


「別に……」


 と云った後、声を潜める量子。


「高級ブランドじゃないんだから自分の気に入った匂いを選べばいいよ。善し悪しはこの際自分の主観で選んで構わないから」


 それでもパリで売っている香水だからそこそこの値段はするんだけどね。


 もちろん出費は僕持ちだけど。


 夏美にも秋子にもお世話になっているからこの程度の返礼は当然だ。


 というかおにゃのこから良い匂いがすると、それだけで男はクラクラするものなんですけど。


 僕も例外じゃない。


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