きっと始まりが間違っていた2
いったんオドをログアウト。
時間は午後の三時を指していたけど少し早めの夕食と相成った。
日が昇っているうちは皆でセカンドアースのパリ観光だけど、日が暮れれば夏美と二人きりの時間だ。
パリでの食事……リストランテは三ツ星店の予約を済ませている。
とはいえセカンドアースは電子世界。
いくら食べても胃はふくれない。
ので、事前に食事をとるのは自然な流れだ。
「…………」
アイスコーヒーを飲む。
夏美と秋子が夕食の準備をして僕は量子と駄弁っていた。
「パリかぁ……」
「えへへ。楽しみだね雉ちゃん」
「君は幸せだね」
少し皮肉っぽくなってしまった。
「私だけじゃないよ。秋子ちゃんも夏美ちゃんも幸せ」
「ついでに僕もね」
「ハーレム創ろうよ。私と秋子ちゃんと夏美ちゃんを囲ってさ」
「君は事情知ってるでしょ」
「そ~だけど~……」
なら言わないで。
嘆息。
基本的に純粋に僕が好きになれる他人は夏美だけだ。
秋子と量子は……近すぎる。
悪いというつもりは無い。
秋子は秋子なりに。
量子は量子なりに。
それぞれ僕を想っての事なのだろうけど、好きになることと甘やかすことは違うと僕は思う。
自分は咎人だ。
恥の多い人生を送ってきました。
秋子の時も涼子の時も、僕はその都度甘やかしてきた。
その結果がこれだ。
であるから夏美の慕情は貴重だ。
皮肉にも秋子と量子の想いがソレを浮き彫りにする。
ままならないなぁ……。
「雉ちゃん?」
「何?」
「失礼なこと考えてたでしょ?」
「思想の自由は憲法で認められているはずだけど?」
「何考えてた?」
「ナツミン可愛いよナツミン……みたいな?」
「私の方が可愛いもん」
「顔だけならね」
それはしょうがない。
一度は惚れた相手だ。
なお日本国民のお茶の間に浸透してしまったアイドルの頂点。
そりゃ美少女でなければ嘘だ。
「私の方が大きいもん」
「おっぱいだけならね」
「お尻も」
「はいはい」
データ上の存在にスリーサイズ聞いても意味ないと思うんだけどその辺どうだろう?
「本当に夜は夏美ちゃんと二人きりデートするの?」
「いけない?」
「嫉妬するよ」
「謝らないよ」
「別に求めてないけどね」
でっか。
「量子は男子アイドルと付き合おうとか思わないわけ?」
いわゆる男子アイドルも電子アイドルには多数存在する。
名を言うのは空恐ろしいから口を噤むんだけど男子アイドルプロダクションの最大手も電子アイドルでユニット組ませて歌わせたり躍らせたりさせているらしい。
特に興味を引く話でもないので噂程度の知識だけど。
で、
「なんでゾンビと恋愛しなきゃいけないのよ」
量子は淡々と言ってのけた。
ごもっとも。
僕はアイスコーヒーを飲む。
「雉ちゃん。ご飯出来たよ?」
キッチンから秋子の声。
ダイニングに顔を出す。
夕食(重ね重ね午後三時の早めのソレだ)は湯豆腐だった。
「時間的に考えてあっさりしたものが良いかなって」
「良か事良か事」
「ちなみに出汁は夏美ちゃんがとったんだよ?」
「秋子ちゃんの監修が入っているからほとんど秋子ちゃんの功績ですけどね」
「いや。嬉しいよ」
クシャッと夏美の赤い髪を撫ぜて、僕はダイニングの席に着く。
そして早めの夕餉が始まった。
「どう……ですか……?」
「美味しいよ。本当に」
「わぁ……わぁ……」
ポヤンと恥じらう夏美だった。
「男の子に料理を褒められるとこんなにも嬉しいんですね……」
可愛いな此奴。
「私が雉ちゃんに毎回食事の感想を聞く気分がわかった?」
「はい!」
破顔して同意する夏美だった。
僕ははふはふと湯豆腐を食べる。
話変わるけど白菜は僕の大好物だ。
冬の白菜が好きだけどこの際贅沢も言えないだろう。
ちなみに一部をよそってデータ化した湯豆腐を量子も食べていた。
「よく出来てますねぇ」
味覚再生エンジンは正常に作動しているらしい。
実際美味しかったのだ。
「夏美は良いお嫁さんになれるね」
ルンと僕は声が弾んだ。
「ふぇあわわ!」
真っ赤になる夏美はひどく趣があった。