儚い夢の痕5
そんなわけでオドにログイン。
マイルームを通じてフリーフィールドに出る。
今回は墓場エリア。
その非戦闘区域で茶を飲む僕らだった。
ホラーを全面的に押し出した形のエリアだ。
給仕はスケルトンからミイラからグールまでよりどりみどり。
僕とコキアとシリョーはコーヒーや紅茶を飲んで泰然としていたけど……一人ミツナだけが完全に狼狽していた。
給仕が通るたびに、
「きゃっ」
とか、
「はわわ」
などとビビる。
どこまで可愛いんだこの子。
基本的に精神が純朴なのだろう。
「大丈夫」
僕はポンとミツナの頭に手を乗せる。
「怖くない怖くない」
「あう……」
ミツナの頬が羞恥で朱に染まる。
「なるほど」
とシリョー。
「ですね」
とコキア。
「何なのさ?」
ミツナの頭を優しく撫でながら憮然として問う。
「ハイドは守ってあげたくなる女の子が好きなんだね」
「私からも同意見」
……そうかもね。
それは秋子と量子の過去にも通ずる。
二人の絶望を受け止めた僕だから夏美にも優しくできるのだろう。
朱い髪を撫ぜていると、
「ん……あ……っ」
ミツナはポーッとのぼせていた。
いかん。
やりすぎた。
トリップするミツナにチョップをしてトランス状態から解放する。
「ハイドちゃん?」
「ハイドちゃん!」
わかっちゃいるけど、
「何でしょう?」
「私の頭も撫でて」
「以下同文!」
「一撫で一万」
サクリと幼馴染の嫉妬を回避。
「うぐ……!」
言葉に詰まるコキアと、
「買った!」
物怖じしないシリョー。
……シリョーは確かに五桁程度で揺らぐ経済状況ではないか。
ので、
「米ドルで」
「うぐ……!」
さっくり封殺してあげた。
「ふんだ。ミツナちゃんにばっかり構っちゃってさっ」
「だって恋人だもん」
平然と答える僕に、
「あう……」
茹だるミツナ。
「私の方がおっぱい大きいもん」
データ上の人格が何を言ってるんだろう?
「何ならちっぱいになってみる?」
モデリング弄れば可能なんだけど……。
「うぐぐ……」
シリョーはそれ以上言葉を紡げなかった。
シリョーはレアオブジェクト「大日本量子ちゃんアバター」を使っているため当人になりきりだ。
炭水化物オンザ炭水化物と云うか何と云うか。
当人そのものなのだけど、なんでも大日本量子アバターの実装に伴ってシリョーに一つ譲渡されたらしい。
とはいえシリョーが大日本量子ちゃんだとバレることはない。
単に、
「ああ、大日本量子ちゃんのアバターだ。羨ましいなぁ。売ってくれないかなぁ」
という視線を浴びるのみ。
アバターと云えばミツナとコキアは一部変化していた。
二人とも残念なくらいの貧乳なのである。
ミツナはリアルに沿って。
コキアはリアルに反して。
というのもスミスの視線がいやらしいからと云う理由に尽きる。
ついでにコキアは、
「重たいモノをぶら下げてない方が動きやすい」
との事情もある。
そんなこんなで貧乳と相成る二人だった。
「ハイドがあれならおっぱい大きくしますけど?」
電子世界ならでは、だ。
「別に必要ないかなぁ」
コーヒーを飲んでホッと吐息をつく僕。
「胸に貴賤は無いしね」
それだけは誓って本当だ。