儚い夢の痕4
そんなこんなで朝食開始。
今日の朝食はお茶漬けとキュウリの浅漬けと豆腐の味噌汁。
「いただきます」
と僕と夏美と秋子。
食事を開始すると、
「どうでしょう?」
とおずおず夏美が問うてくる。
「美味しいよ」
忌憚のない意見に、
「……っ」
パァッとほころぶ夏美の笑顔。
「光栄です!」
可愛いにゃあこの子。
だから好きなんだけど。
心の有り様が擦れてなくて擦れすぎている僕には眩しく映る。
嬉しかったら笑う。
悲しかったら泣く。
僕には出来ないことだ。
秋子と量子も泣いたり笑ったりは出来るけど、あくまで僕ありきだ。
純情と言う意味ではニアリーイコールだけど、やっぱり夏美には敵わない。
「きーじーちゃーんっ!」
相変わらず思念言語が鬱陶しい。
しょうがないから我が家の機能回復。
投影機から量子が姿を現した。
「わ」
と驚く夏美。
「…………」
淡々とお茶漬けをすする秋子。
「はぁ」
疲労の溜め息をつく僕。
「だから好きよ?」
猫なで声の量子。
結局のところ幼馴染の我が儘を一定まで許容してしまうのは僕の業だ。
秋子に対する後ろめたさと突き放さない態度もこれに起因する。
「私の朝食は?」
さも当然とでも言わんばかりだ。
「自分で準備なさい」
秋子がつっけんどんに言った。
まぁ手作りしてデータに変更すれば振る舞えはするけど、ぶっちゃけ一食分損するのみだ。
だいたいデータ上の量子には新陳代謝が無いからアイドルとしては完璧だけど人間としては不完全だ。
それでもご飯を強請るのは過去の残滓。
そして僕の業。
これ以上は語っても辛いだけなので中略。
「今日は何処でデートするの?」
「オド」
オーバードライブオンラインの略称だ。
「私もオドです」
「私もね」
「じゃあ皆オドかぁ……」
苦悩する量子に、
「墨洲総一郎もね」
空気をあえて読まない僕。
というかここで立場を決していないと余計面倒くさくなるだけだからなんだけど。
「イレイザーズねぇ……。解散しない?」
「ギルドは五人からだよ?」
僕、夏美、秋子、量子、総一郎で五人だ。
「じゃあ私の友達を見繕うから」
平然と量子。
「量子ちゃんの友達となると……」
正解です夏美。
「例えば凛ちゃんとか?」
凛ちゃん。
テキストワークシステム株式会社が電子世界に送り出した電子アイドルだ。
量子ほどではないけどそこそこ有名で人気もある。
「スケジュールどうするの?」
「登校や出勤が無いだけ一般人より暇だけど」
そ~だけどさ~。
「めんどいからパス」
「むぅ」
「他に友達を知ってる人は?」
「私は雉ちゃんしか知らない」
「私も春雉と秋子ちゃんと量子ちゃんだけ……」
「言われても見ると僕もそうか」
なんて狭い人間関係だ。
お茶漬けをすする。
アリスは人見知りするため呼ぶに呼べないし……。
ダイニングテーブルを囲む人数で友達の輪が閉じているというのはどういう事態なのだろう?
まぁ元より僕と秋子は他を寄せ付けていなかったし、夏美は深刻なサブカルオープンオタクだったからぼっちだったのだ。
目から汗が止まりません。
とまぁ事情の深刻さゆえに思考を切り替える。
「とりあえずイレイザーズは続行と言うことで」
「…………」
ジト目の秋子。
「言葉で主張しないと伝わらないよ」
「私、あの人嫌いです」
きっぱりぱりぱり。
「実は僕もそこまで好意的じゃない」
僕もぶっちゃけた。
「私は……」
言葉に詰まる夏美。
「私はまぁどうでもいいかなぁ」
量子はぼんやりと仮想体験の茶を飲みながら。
イレイザーズでシリョーが大日本量子だと知らないのは総一郎だけだ。
面倒だから今後も話す予定もないのだけど。
「あのいやらしい視線が何とも……」
「それについては自業自得でしょ」
「まったくだ」
量子と僕の皮肉に、
「だってさぁ……」
途方に暮れる秋子。
わはは。
残念だったね。
夏美は自身の平たい胸をふにふにと揉む。
「私……豊胸手術をした方が良いでしょうか?」
「それはやめて」