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届くあなたに贈る歌5


「小俣」


 場所は僕の家の前。


 僕が玄関を開けて外に出ると夏美が待っていた。


 赤いロングヘアーに赤い瞳……それから大きな胸。


 きょぬー。


 このことからもわかるように現実世界じゃありません。


 現実世界の夏美はペッタンコのスットントンだ。


 着ている服は桜色のドレス。


 それがまた似合っていて……涙が出るね。


「待ってませんよ。時間通りですね」


 夏美はチラリと視線を余所へと振った。


 視界モニタの時間を確認しているのだろう。


 こういうところは現実世界だろうと電子世界だろうと変わらない。


 ましてセカンドアースともなれば。


 で、何故に僕と夏美がセカンドアースで待ち合わせをしているかと云えば公爵の屋敷を訪問するためだ。


 時間と予定を摺合せて予約をとった。


 横紙破りとも言う。


 公爵は朗らかだから一も二も無く頷いてくれたけどこっちとしては借りを作っているみたいで面白くない。


 まぁ夏美のことを思えばこの程度は飲みこめるんだけどね。


 公爵としてもアリスが僕と会いたがっていると言っていたし本当は気にするものではないのかもしれない……。


 その辺の意識の摺合せは後日として、


「じゃ、行きましょか?」


「そうですね」


 僕と夏美はイギリスの公爵の屋敷に飛んだ。


 時間は合わせたから今のイギリスは昼。


 日本とイギリスの時差は九時間である。


 一般的な豪邸より二回り以上大きい豪邸の門を叩いて、


「お晩でやんす」


 と声をかける。


 さもわかっているとばかりに門は開いた。


 開いた門の向こうには一面広がる花畑。


 そして、


「ウィータ!」


 花畑からヒョコッと金髪碧眼の少女が顔を出した。


「ウィータ! ウィータ!」


 何が嬉しいのか少女……アリスは僕に駆け寄って抱き付いてきた。


「久しぶり!」


「ですね」


「もっといっぱい来てよ!」


「畏れ多くて……ね」


「お爺様もいっぱい来てほしいって!」


「恩着せがましいことはしたくないんだ」


「それをウィータが言う?」


 それを言われると痛いなぁ。


「ウィータ。何して遊ぶ?」


 アリスは目をキラキラさせていた。


 そんな喜ばれるほどの存在かね、僕は……。


 ともあれアリスに悪いけど今回は別件だ。


 僕はツンとアリスの額に人差し指の切っ先を当てた。


「それはまた今度」


「あうう~」


「次は純粋に遊びに来てあげるから」


「約束だよ?」


「うん。約束」


「破ったら針五本飲んでね?」


 その具体的な数字はどこから出てきたんでしょう?


 それから僕と夏美とアリスはプレジデントに乗って屋敷を目指す。


 これだけでも一苦労。


「ごめんね春雉」


「何が?」


「こんなことに付き合わせて」


「特に意識してるわけじゃないから大丈夫だよ」


 僕は夏美の赤い髪をポンポンと軽く叩く。


「そっか」


 愛い奴愛い奴。


 屋敷に着くと公爵が待っていた。


「ようこそウィータ。間が開いてしまったね。もっと頻繁に会いに来てほしいよ」


「恐縮です」


「なんなら現実世界の我が家に招待してもいいくらいだ。今は目下夏季休暇中なのだろう? 時間は幾らでもある」


 そうですけど……。


「まぁこうしてセカンドアースで招かれるだけでも畏れ多いですよ」


「何を気にする? アリスの……我が孫の大恩人が」


「それについてじゃありませんよ。単に後ろめたいことをしたくないというだけです」


「気にすることは無いよ。少なくとも私としてはウィータには幸せになってもらいたい。もしも贅沢がウィータの幸福ならばいくらでも享受させてあげたい」


「台所事情について不満はありませんよ。オドのネトオクと量子のサポートで稼がせてもらってますから。元来日本人は貧乏性でして」


「ノーミン……と言ったか」


「です。税を納めてお偉方の機嫌を取る習慣が身についてるんですよ」


 苦笑する。


「何なら我が一族に組み込まれないか? ウィータなら見識も能力も申し分ない。血縁ばかりが縁者では……な」


「恐縮ですが辞退させてもらいます。肩のこることは好きじゃありませんので……」


「謙虚……と日本では言ったかな?」


 そんな大層なモノでもないんですけどね。


「とりあえず馳走を用意しよう。ミス夏美? 中華料理は好きかな?」


 いきなり話を振られて夏美は狼狽え、それからしどろもどろに答えた。


「抵抗はありません」


「よかった。では食事としよう。本来なら直に馳走したいところではあるが何分ウィータが恐縮するのでね」


「量子質量変換では駄目なのですか?」


「私はそうしたいのだが……」


「却下」


 僕は一言で切って捨てた。


「とりあえずマンハンチュエンシーを用意してみた。楽しんでいただければ幸いだ」


 結果だけ言えば美味しゅうございました。


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