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ライブラブ6


 そして僕と量子は清水の舞台から風景を見ていた。


 スタッフ一同によるライブ成功の打ち上げも、秋子と夏美との時間も、双方無視して。


 ライブ後は僕こと土井春雉とデートするのが量子にとっての打ち上げだ。


 僕にしてみれば今更だ。


「うーん。京都って感じだね」


「飛び降りてみる?」


「禁則くらうから無理だよ」


「さいでっか」


 まぁ常識で考えてそうだろうけど。


「えーと……たしか御本尊は……」


「千手観音!」


 よく知ってらっしゃる。


 まぁ常識の範疇だけど。


 ちなみにセカンドアースでは御本尊の開帳は常時なされている。


 データ上のものだからどれだけご利益があるかは首を傾げざるを得ないけど。


 サハスラブジャ。


 千手千眼観音。


 多くの持物を持ち、その多様な手であまねくを救う仏。


 量子は目をキラキラさせて御本尊を見ていた。


 そんなに有難がるものかなぁ?


 と思うのは無神論者故の思考なのかもしれない。


 まだ科学が無かった時代。


 人にとって宇宙とは夜空で星とは明かりで自然とは不可解なモノだった。


 故に地球は平面で、それ故に理解の及ばないことに恐怖を覚える。


 それ故に信仰が生まれた。


 死してなお肉体を持つ六道の輪。


 いくら死んでも死にきれない輪廻の輪。


 そこから解脱と称して仏を敬った。


 であれば過去人にとって千手観音は希望だったのだろう。


 そう云えばイザナミがイザナギに、


「一日に千人の人間を殺す」


 と言っていたけど、その千人は千手観音に救われていたのだろうか?


 宗教が違いますね。


 はい。


「雉ちゃん雉ちゃん!」


「はいはい?」


「ダイショ撮って!」


 御本尊の隣でピースサインをする量子。


 神も仏も畏れない野郎だ。


 この場合は女郎なのでしょうか?


 ともあれ視界モニタに映る量子と御本尊を二次元データに映し変える。


 それからイメージコンソールを意識で操作して量子に渡す。


「ありがと雉ちゃん」


 いえいえ。


 それからあらかた清水寺一帯を見て回った後、


「じゃあお茶にしよっか」


 と健全な提案が量子からなされた。


 僕としても異存はない。


 前のライブ後の打ち上げにも来た茶屋に顔を出す。


 白玉と抹茶を頼んで乾杯。


「お疲れ様」


「ありがと」


 はにかむ量子。


 本心から嬉しそうだ。


 愛い奴め。


「そういえば聞いてなかったね。『届かないあなたに贈る歌』……どうだった?」


「あれ。僕に向けて歌ったでしょ?」


「やっぱりわかる?」


 わからいでか。


「だって結局私はデータ上の存在だから。雉ちゃんの子を生すことは出来ないし」


「まぁその辺の話は置いておき。秋子と夏美も感じ入ってたみたいだね」


「雉ちゃんわかってる?」


「わかってることはね」


「きっと夏美ちゃんは雉ちゃんのこと好きだよ?」


「うん。まぁ。だろうね」


 抹茶を飲む。


「わかってて接してるの?」


「他にどう対応を取れと」


「それは……たしかにそうだけど……」


 ほれみろ。


「雉ちゃん……ゲイじゃないよね?」


「やめて。本気で鳥肌立つから」


「でもさぁ。なんか女の子に対して淡白だよね」


「まぁ元が恵まれてたからね。鈍感にもなるさ」


「私は雉ちゃんが好き」


「知ってる」


「きっと秋子ちゃんと夏美ちゃんも雉ちゃんが好き」


「知ってる」


 抹茶を飲む。


「雉ちゃんは誰を選ぶの?」


「だいたい察しはついてるんじゃないの?」


「雉ちゃんの口から聞きたいのっ」


「ノーコメントで」


 白玉を口に含んで嚥下。


 抹茶を飲む。


「私じゃ駄目……?」


「決定的な言葉を言ってもいいの?」


「あう」


 泣くかな?


 そんなことを思ったけど、


「雉ちゃんなんか幸せになればいいんだぃ!」


 ベーッとベロを出して吐き捨てる量子だった。


 いい女だね君は。


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