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彼女の事情3


 そして授業内容を聞き流して昼休み。


 僕は例によって例の如く、


「…………」


 もむもむと秋子の作った弁当を食べていた。


 今日はヅケ丼。


 浸けているのは醤油ではなく秋子特性の出汁なんだけど。


 白米もつやつや。


 総じて美味。


「美味しい?」


「いつも通りね。ヅケ丼は僕の好物だし」


「えへへ」


 この照れ笑いを他の人間に出来れば問題は解決したも同然なんだけど……。


「褒めて遣わす」


 とまれ、よしよしと秋子の頭を撫でる。


 それから双方ヅケ丼を食べ終わると、秋子が残った丼を量子変換してデータ箱に収納するのだった。


 ビバ量子変換。


「ご馳走様でした」


「お粗末様でした」


 満足そうに秋子は笑う。


 秋子曰く、


「雉ちゃんが美味しく食べてくれるのが一番の幸せ。そのことだけで私はいくらでも雉ちゃんに料理を作ってあげるモチベーションを得られる」


 とのこと。


 ともあれ、


「くあ……」


 と欠伸をする。


「寝る。昼休み終わったら起こして」


 秋子にそう言って僕は学生机に突っ伏した。


「わかったよ」


 秋子にしてみれば僕の寝顔を見られるだけでも眼福らしい。


 幸せな奴。


 安い奴とも言う。


「…………」


 そして寝るふりをして量コンを意識操作。


 昇降口の靴箱に示された仮想ルームのアドレスに飛ぶ。


 ちなみに学内エリアネットではアバターは本人そのものを写したモノしか使用できないため僕は僕のままだ。


 まぁ裏技もあるけど別に今は必要ないだろう。


 仮説ルームには既に人がいた。


 僕をこのルームに呼んだ張本人だ。


 赤いショートカット。


 赤い双眸。


 何より秋子にも負けない美貌は気にしないわけにもいかない。


 入学早々新入生内の人気を秋子と二分する双璧のもう一人。


 信濃夏美さんだ。


 赤い髪と瞳の美少女。


 アバターとはいえ着ているものは瀬野三の制服。


「おや……まぁ……」


 他にアクセスしている人間はいない。


 外側から監視している人間も。


 つまりここには僕こと土井春雉と信濃夏美さんしかいないというわけだ。


 あくまでアバターでの密会だけど。


「来てくれてありがと」


 それが信濃さんの開幕パンチだった。


「まぁ何かしら悪意があるわけじゃなかろうしね」


 僕は肩をすくめてみせる。


「で? 何の用?」


「お願いがあるの……」


「僕に応えられることならね」


「土井さんは……」


「待った」


 僕は信濃さんの言葉を切り刻む。


「春雉でいいよ。というかそう呼んで。苗字読みでさん付けなんて背中が痒くなる」


「じゃあ私のことも夏美で」


「オーケィ夏美。で?」


「春雉はオーバードライブオンラインをやってるんだよね?」


「まぁね」


 先日のやりとりを思い出す。


 そう言えば僕がオドをやっていることに反応してたっけ。


「お願いっていうのはそれのこと」


 というと?


「師匠になってください」


「何の?」


「オーバードライブオンラインの……」


 はあ。


 なして?


「…………」


 クネリと首を傾げる。


 その意図が伝わったのだろう。


「私は……オドが下手で」


「で、なんで僕に白羽の矢が立ったの?」


 そこが意味不明だ。


「だって春雉はこういうの得意なんでしょ?」


「何を以て?」


「レベル52って言ってたから」


「あー……」


 レベル52でも誇張だったか。


 そこまでは考えが及ばなんだ。


「だからオーバードライブオンラインの師匠になってください」


「んー」


 意味が無いとわかっていてもアバターで腕を組むことは避けられなかった。


 基本的に僕はソロプレイだ。


 これに関しては秋子も介入してこない。


 しばし思案した後、


「まぁ僕でよければ」


 そんな風に言葉を返していた。


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