あなたは夕立の様で6
それからは流れ作業だ。
量子は、
「仕事があるからここまで」
と現実世界からログアウトした。
これだけ云うとネトゲ廃人みたいだね。
誰のせいって僕のせいだけど。
そして秋子は夕食の準備に入る。
僕と夏美は梅こぶ茶を飲みながら投影機でアニメを見ていた。
「機動戦士Dガソダム」
だ。
ちなみに劇場版。
ロボットアニメにメッセージ性を付け加えただけでもガソダムは特異たりえると思う。
僕としては他人事じゃないんだけど。
閑話休題。
「秋子~」
「なぁに雉ちゃん?」
「お茶のお代わり」
「はいな。夏美ちゃんは?」
「では私も……」
遠慮がちに。
「しばしお待ちを」
そう言って僕と夏美の湯飲みを持ってキッチンへと消える秋子。
梅こぶ茶が再配布される。
そしてまたガソダムの鑑賞。
あるいは干渉。
あるいは感傷。
ロボットアニメと侮るなかれ。
子どもにはわからないメッセージ性に溢れているのだ。
それは先にも言った……というか思ったけど。
そんなこんなでダラダラとガソダムを見ていると、
「雉ちゃん?」
「は~い」
「夏美ちゃん?」
「はいな」
「御飯出来たよ?」
「でっか」
「ですか」
そこでガソダムが打ち切られる。
まぁ途中から再開するのは造作もないんだけど。
「今日は趣向を変えてみたんですけどどうかな?」
おずおずと秋子が問う。
ダイニングテーブルに乗せられたのはパスタだ。
所謂明太パスタ。
バターの匂いが香しい。
「日本食じゃないのは珍しいね」
「私のせい?」
罪悪感を覚える夏美に、
「いえ」
と秋子が否定する。
「先にも言いましたが趣向を変えただけです」
「そっか」
安堵。
それはぼっちの宿業だろう。
僕や秋子にも理解できない感情ではない。
まぁ、
「何を今更」
と言われれば返す言葉は無いのだけど。
「とにかく」
場をもたせる。
「いただきます!」
パンと一拍。
仏教に傾倒しているわけじゃないけど食前の挨拶は未だ変わっていない。
まぁ何時の時代のどんな人間も宗教からは逃れられないってことで一つ。
フォークでパスタを絡め取ってアグリ。
咀嚼。
嚥下。
「どう?」
怯えながら問う秋子に、
「すごく美味しい」
魅力度二十五パーセント増しの笑顔をやる。
「よかった……」
心底安堵して秋子。
「美味しいです」
夏美も満足げだ。
「別に日本食に拘る必要は無いよ?」
僕がそう言うと、
「でも雉ちゃんは日本食が好きでしょ?」
「まぁ乳製品や肉類に比べたらね……」
それっぱかりは譲れない。
「それが理由」
いいお嫁さんになるね。
秋子は。
僕以外の想い人を見つけられればいいんだけど。
今はまだ机上の空論だとわかってはいても……そう願わずにはいられない。
「春雉」
これは夏美。
「何でっしゃろ?」
「夏季休暇の間は一緒に遊ぼうね」
「…………」
この三点リーダは秋子のモノ。
雰囲気が絶対零度。
そしてそれを熱する灼熱のアプローチ。
あのさぁ。
僕、前世で女の人に何かしたの?
他生の縁を信じてしまいそうになる僕だった。