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あなたは夕立の様で5


 カラオケを出る。


 ちなみに代金は僕負担。


 散財散財。


 外に出ようとして、


「おや」


「まぁ」


「ほう」


「はや」


 僕らは刹那の瞬間だけ言葉を失った。


 夕立。


 積乱雲が雷雲と化して激しい雨がアスファルトを叩く。


「あなたはまるで夕立の様。恵みの雨と理解は出来るけどどうしても気落ちさせられる」


 夏美がそんなことをポツリとつぶやいた。


「…………」


 この沈黙は僕の物。


 たしかにこれは夕立だけど。


「天の恵み。即ち神意ですね」


 皮肉かな?


 だろうね。


 他に考えられないし。


 とりあえず後は量子に任せた。


 ランドアークシステムの発展によって天候に関係なく足は確保できる。


 そしてアークに乗る。


 僕と秋子と夏美と量子とで。


「夕立は迷惑だね!」


 快活に量子。


 さっきまで『あなたはまるで』を歌っていた君がそれを言う?


 言葉にはしないけどさ。


「でもその通りです」


 しみじみと夏美。


「そうかな」


 これは秋子。


「…………」


 やっぱり僕は沈黙する。


 他に対処の術を見出せなかったが故だ。


「あなたはまるで夕立の様。恵みの雨と理解は出来るけどどうしても気落ちさせられる」


 雨は恵み。


 雨は苦み。


 雨は幸福。


 雨は不幸。


 止むとわかっていても病まざるを得ない。


 雨は不思議だ。


 女心と夏の空。


 そう云う意味では大日本量子ちゃんの『あなたはまるで』は決して的を外したものだとは思えない。


 結局、


「僕がどうするかだよね」


 口の中でだけ完結させる。


 それは言霊。


 多分量子の全てが悪意ではないのだろう。


 それはわかる。


 悪意が九分九厘でも一厘は善意が関わっている。


 完全なる善が無いように。


 完全なる悪が無いように。


 どうしたって誤差は混じるモノだ。


 現実世界はとかく。


 電子世界でも根絶は不可能だけどね。


 かっこわらいかっことじ。


 この両面性は非常に興味深い。


 夏美と云うイレギュラーを量子が引っ張ってきたのだ。


 完全なる善も。


 完全なる悪も。


 どちらも存在しない以上世界は均衡を求める。


 そしてそれを破壊することが出来るのは自意識だけだ。


 あるいは管理か。


 あるいは選択か。


 あるいは決定か。


 あるいは妥協か。


 とまれ、


「均衡は崩すためのモノ」


 と量子は宣言しているのだ。


 僕のために。


 自分のために。


 秋子のために。


 そして………………多分……夏美のために。


 ならば僕は道化だろうか?


 メイクは得意じゃないなぁ。


 なんて誤魔化すことも出来ない。


「…………」


 一人至高の渦に飲みこまれていると、


「夏美ちゃん」


 と量子が言葉を発した。


「何でしょう?」


「秋子ちゃんの料理を食べていくよね?」


「いいんですか?」


 これは秋子への質問。


「吝かではありませんよ」


「ではそういうことで」


 そういうことになっちゃったらしい。


 量子らしいと言えばらしいけどさ。


 くつくつと笑う。


「何かおかしなことでも?」


 心底わかっていない夏美の頓珍漢。


「なんでもないよ」


 少なくとも君にとっては。


 相も変わらず言葉が足りないけど道化にはこれが相応しい。


 外はザーザーと雨が降る。


 バシバシとアークの窓を水滴が叩く。


 ちなみに空気抵抗が無い場合雨は凶悪な弾丸となるらしいけど。


 そう云う意味ではどこが恵みだって話だよね。


 そしてアークは土井さん家に車体を横付けするのだった。


 帰宅。


 やっぱり我が家は落ち着く。


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