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あなたは夕立の様で1


「ふっ!」


「ちぃ!」


 僕ことハイドの短刀とスミスの両手剣が鍔迫り合う。


 データ上とはいえ鋼同士の衝突だ。


 ギギギギチギチと刃物が鳴く。


「おおっ!」


 力に任せて押し込んでくるのはスミス。


 金髪に虎威が、碧眼には気迫が、それぞれに漲っていた。


 ちなみにスミスのソレはアバターであるため現実では金髪碧眼ではない。


 念のため。


 それを言ったら僕ことハイドの白髪赤眼の美少年もアバターであるため現実とは百七十二度違うのだけど。


 残り八度はって?


 美少年であることだけは共通してるから。


 なんちゃって。


 冗談です。


 言ってて悲しくなってきました。


 実際はどこにでもいる平々凡々なもやしっ子。


 運動は大の苦手。


 正確には、


「運動するための肉体動作の最適化は類を見ないんだけど、それを可能とするための体力がついてこない」


 能力だ。


 先にも言ったけどもやしっ子。


 いいもん。


 運動できなくたって今の社会はやっていける。


 ちょっと体育の成績が悪いってだけで全てを決められるのは癪に障るけど足の速い……そうだね、目の前の金髪碧眼アバターたるスミスの様に運動が出来れば友達も女子も寄ってくるんだろう。


 羨む感情が無いかと云えば嘘になるけど、まぁ世界に一つだけの花ってことで一つ。


 スミスにしてみればコキアを独占している僕にこそ羨んでいるだろう。


 なんで世の中ってこう皮肉気に歪んでいるんだろうね?


 世の中って言うか人類意識が、だけど。


 閑話休題。


 両手剣とプレッシャーを押し込んでくるスミス。


 僕は短刀で受けていたけど力比べに興ずる気は微塵もない。


 一つは片手の短刀と両手のツーハンデッドソードでは鍔迫り合いで不利だということ。


 もう一つはいちいち相手にするのが馬鹿らしいってだけ。


 力に緩急をつける。


 間一髪の分だけ力を抜いて鍔迫り合いを終えると、


「…………」


 無言で半身を引く。


 そのすぐ傍の空間を両手剣が切り裂いた。


 シーフであるハイドは両手剣を装備できない。


 幾つか装備できるものは有るけど最もポピュラーなのは短刀……ナイフだろう。


 オーバードライブオンラインは無双ゲーであるため範囲の広い攻撃手段が特に求められる。


 である以上、両手剣の方が短刀より有利なのは言わずもがな。


 でも、こういう時は場合によりけりだ。


 こういう時とはつまり一対一。


 ゲームにおけるボス戦や模擬バトルという限定条件下で……ということ。


 再度閑話休題。


 スルリとスミスの剣閃を躱すと、僕は回し蹴りを放った。


「まだ遅い」


 その蹴りはスミスを吹っ飛ばす。


 吹っ飛ばされて転がって立ち上がった瞬間、


「フォトンブレード」


「……っ!」


 スミスの喉元に短刀グラムの固有スキル『フォトンブレード』の刃が突きつけられていた。


 目算三メートル。


 少なくともこういった計算においては常人より遥かに正確な僕の演算能力。


 自慢にもならないけど。


 それからフォトンブレードを解いて仕切り直し。


「いつでもどうぞ」


「……しっ!」


 スミスが加速。


 オド特有のアシスト……超過疾走システムの恩恵は三倍強と云ったところ。


「ギルガメスラッシュ!」


 超過疾走システムに攻撃スキルのアシストも加わって認識の範囲外の連撃が繰り出される……けど、


「まだ遅い」


 僕は短刀でそれらを全て弾いてみせた。


「もっと早く! もっと速く! もっと疾く! もっと迅く!」


「言われずとも!」


 速度が欲しい。


 加速が欲しい。


 時間が欲しい。


 刹那が欲しい。


 その渇望が即ち超過疾走システムを底上げする。


 三倍強の加速なぞ取るに足りない。


 オドでは最大で十倍の加速が約束されている。


 そしてイレイザーズの僕ことハイドとコキアとミツナとシリョーは既に十倍速を手に入れている。


 コキアとミツナについてはちょっと法に触れるやり方で覚えさせたんだけど……。


 つまりイレイザーズ唯一の十倍速が顕現できないキャラがスミスと云うわけだ。


 スミスは片想いしているコキアに超過疾走システムの手ほどきを頼んだけど無下にされた。


 というか脳の並列化で十倍速を身につけたのにどう解説しろと云うのか?


 無茶ぶりと云うものだ。


 で僕にお鉢が回ってきた。


 オドで一対一の模擬戦を行い、少しずつ加速に慣れさせていく。


 どっちかってーとこういうやり方の方が正しいオドの遊び方だ。


「ギルガメスラッシュ!」


「やれやれ」


 高速の二十連撃を四倍速であしらう僕。


「まだまだぁ!」


 我武者羅は尊ぶべきことだけど熱意の空回りともとれる。


「僕の速度に追いついてないよ?」


 結局そこに終始するのだった。


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