調べ物は図書室で
後半は王子視点にしてみました
本日は図書室で調べ物だ。
先日、疑問に思った点を調べようと思う。
花火のことだ。
先生達の話方から、どうやらこの国には花火が無いようだ。
この世界自体、花火が存在しないのか知りたかったのだが、
「ここには無いか・・・」
学園内の図書室。前世での学校の図書室を想像していたら、驚いた。公立図書館並みの広さだった。
この世界、製紙技術と印刷・製本技術は意外と発達しているようだ。
この図書室で見つからなかったとなると、行く場所はもう一箇所の図書室。
ドアを押してみる。鍵はかかっていなかった。
「失礼します・・・」
「ああ、アイリスいらっしゃい」
ここの図書室の管理人(司書ではない)のウィルさんがいた。
先ほどの図書室は、本を借りることが出来る一般的な図書室。
こちらの図書室は、閲覧のみ。貴重な本があるので、生徒が立ち入ることは出来ない場所なのだが、偶然、ウィルさんと知り合ったことで、特別に入ることが出来るようになった。
「今日はどんな本を探しているのかい?」
「えーと、この国以外の歴史や文化が書いてある本って無いですか?」
「向こうには無かったの?」
「私が探しているのとはちょっと違いました」
旅行用のガイドブックのような本はあった。
「詳しく書いてある本が無かったんです」
「それなら、ここの棚かな。現地の言葉で書かれているけど、大丈夫?」
「はい、辞書を持ってきましたので」
本当は、辞書無しでも読めるのだが、あまりにも不自然なので、人前では辞書を調べるフリをしながら読んでいる。ちなみにこの辞書、冒険者さん達が使うもので、この世界の共通語から、各国の言語を調べることが出来る。
「じゃあ、僕は向こうにいるから、ゆっくり探すといいよ」
「いつもありがとうございます」
ウィルさんが、図書室の奥のスペースに行ったのを確認した後、本を探し始めた。
とりあえず、一冊を手に取りパラパラとめくってみる。
章ごとには分けられているけど、細かい目次のようなものが無いのよね。探し辛い・・・。
文化や風習で探せばいいのかな?
そもそも、花火ってどうして発展したんだっけ。
前世だったら、ネットで簡単に調べられるのに・・・。
魔法で調べられないかな・・・。調べたい単語とかを思い浮かべて本を開く、と、そこにほしい情報が・・・。こんな、占い無かったっけ・・・。
まあ、試しにやってみる。何事も挑戦だ!
無難な単語・・・、肉料理?
とりあえず、思いついたのがコレだったので、念じながら本を開く。
地方ごとの肉料理についての記述があった。
もしかして、成功?
他の国の本でも同じように試してみる。
見事、肉料理についてのページを開くことが出来た。
さっきから、肉料理ばかり探してしまっていた。
おかげで、ハンバーグや、から揚げ、照り焼きなどに似た料理の調理法を見つけることが出来た。
私が思い浮かべた単語は、それぞれの国の言葉に自動翻訳され、その単語のページを探し当てることが出来る魔法を使えるようになったらしい。
では、『花火』を探してみよう。
・・・・・・見つからない・・・・・・。
『花』とか『火』とか、そんなページを開いてしまう。
『花火』はやはり存在しないのか・・・?
それとも、別の方向から探したほうがいいのか・・・?
「アイリス、ちょっといい?」
「ひぇっ!」
急に後ろから声を掛けられて、変な声が出てしまった。
「ごめん。驚かせてしまったようだね」
ウィルさんがすまなそうに言う。
「ここの棚の資料は、古い物だった。最近の物や、新しい国の物は別の棚だった」
「そうなんですか。新しい国とは、どんな国ですか?」
「ああ、国自体は歴史があるんだが、交通手段の関係で、交流があまり無かった国だよ。交流が盛んになったのは、ここ、十年ぐらいかな」
この国がある大陸からは船でしか行けなかったらしい。
「では、その国の本をお願いします」
最近の本だけあって、共通語で書かれている。
『花火』をイメージしながら、本を開いた。
「・・・あった・・・」
そこには、ちゃんと花火の挿絵があった。私が覚えているのと比べて、地味だけど、まさしく花火だ!
花火は湿気に弱く、船での輸送が難しいため、輸出されていない。だから、この国の人達は花火を知らないんだ。
交流が盛んになって十年らしいが、私が苦し紛れに先生に説明した時期と偶然だが一致する。
えーと、国の名前は・・・
『リュウグウ国』
本には文化・風習が詳しく書かれていたが、明治から大正の日本に似ている。文明開化あたりかな?
この発見は、私にとってラッキーなことだ。
だって、私の日本的な考え方を説明するときに使える。『リュウグウ国』の旅人の話に影響されたことに出来る。
「探したい本は見つかった?」
「はい、この新しい国のことでした。明日もこの本を読みに来てもいいですか?」
「ああ、構わないよ。明日もここに居るから」
明日はノートを持ってこよう。
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「この作業も単純で、つまらないですね。アーサー様。さっさと実戦魔法の授業をすればいいのに」
そう、言ったのは侯爵家の長男、ジェイクだった。
「だが、先日の講義で、それを失敗したのはいったい誰だ?」
「うっ・・・」
ジェイクは、教師に言われた『ファイア ボール』の実戦魔法を披露しようとして、見事に失敗した。
彼の掌の上で、ボフッという音がしただけだったのだ。あれは無様だった・・・。
対して、Eクラスの三人はどうだ?ちゃんと火球が出来ていたぞ。うち、男子二人はわずかだが飛ばすことにも成功していた。
彼らは、詠唱魔法を取得していた。
儀式魔法の簡易版だと思っていた詠唱魔法が、実は儀式魔法よりも魔力の消費が少なく、威力が大きいと見せ付けられた時はショックだった。
彼らの詠唱魔法を見た後に、見た光景はさらに衝撃的だった。
他の実践場の上空に上がる火球。今までに見たことの無い魔法だった。
実戦魔法の応用だと聞かされた。
そこで、ジェイクが実戦魔法を使いたいと言い出す。そして玉砕。
Eクラスの三人を見て、詠唱魔法を習得しなければ、実戦魔法を使えないことを実感した。
現在、彼らが詠唱魔法を習得するためにやっていた作業、子供の頃から魔法の講義で使われていた儀式魔法の呪文集を詠唱魔法に書き換える作業をしている。
呪文を紙に書き写し、必要な言葉以外を消していく。
確かに、単純作業だ。
だが、効果があるのは分かった。
呪文をシンプルにすればするほど、発動を判定する道具の反応が良いのだ。
教師から提示された期限は一ヶ月。
それまでには、詠唱魔法を習得したい。
そういえば、能力テストでAグループになっていた女子は、いったいどこだ?
王子の名前はアーサーです。
前回、先生が言っていた『一部の馬鹿』は、ジェイクです。