探検 魔の森
前回の話で、砦から見た森の説明に【ただ、靄のようなものに覆われていて、森の詳しい様子は砦からは分からない。】との文章を追加してあります。
本日の私の認定試験には、レオンハルトさん、ベルさん、クロード先生のほかに砦の兵士さん5人が同行することになった。
「本日の見回り当番なんですよ」
現在は森が落ち着いているので、週に2回、交代で森に入っているそうだ。
通常なら、兵士5人、砦所属の魔術師2人の組み合わせらしいのだが、
「今回は、レオンハルト師がいますので」
と、苦笑しながら説明してくれた。
だけど、私は知っている。
10人ほど砦に配属されている魔術師さん達、昨日、レオンハルトさんにしごかれてダウンしていることを。その後、レオンハルトさんがベルさんにこっぴどく叱られていたことも・・・。
そのベルさんだが、今日の装いは魔術師のローブ姿ではなく、女性騎士団の新しい制服の試作品とのことだった。機能性のテストをお願いされたらしい。
試作品のため色はモスグリーンで装飾類も無く地味ではあるが、生地は正規品と同じものだそうだ。
特徴は、女性らしいラインと魔物シルク70%の裏地を使用していること。
これによって、鎧を着ているのと大差ない防護ができるのだ。
私の冒険者仕様の服にも使われている。
兵士さん達とクロード先生は、胸当てと背当てだけが金属製であとは革製の鎧だった。
革製と言っても、使用している素材が魔物由来なので強度はある。
森が落ち着いているから可能な軽装備らしい。
森が落ち着いている状態とは、数時間の散策で魔物と遭遇する回数が数回、且つ、魔物の強さがCランク以下の場合である。
以前、魔物が大量発生した時は、徐徐に遭遇回数が増えていき、Bランク以上の魔物が姿を現し始めたそうだ。その一ヵ月後には森の外にまで魔物が姿を現すようになったそう。
現在、Cランク以下の魔物しか現れないと分かっていても、一応それなりの装備は私もしているわけで・・・。
見た目は普通の服の様に見えるけど、魔物素材を使った特別製。今後、冒険者や軍関係者に販売する予定の試作品でもあるためか、ミライさんや職人さんたちが色々と工夫してくれている。
多分、このメンバーの中で一番重装備かも。あと、かかっている費用も・・・。
で、私と対極にいるのがレオンハルトさん。
猟師またはきこりにしか見えないのは何故だろう・・・?
一応、ベルさんには確認したよ。レオンハルトさんが来ている革のベストとズボンは特別製なのか?と。
答えは、魔物素材で作られているだけで、特に魔法で加工等はしてないとのこと。
それって、Eランクぐらいの冒険者の装備だから。
その格好で、昨日魔物を素手で倒したって・・・・・・。
うん。深く考えないようにしよう。
魔の森を目の前にして、意外にも、暗く恐ろしい感じはしなかった。
森に一歩踏み込むとき、目に見えない物体をすり抜けるような感覚があった。
それは、どうも私だけが感じた感覚らしく、他の人達は何事も無い顔で歩いている。
砦からは、靄がかかっているように見えていたが、森の中はそうでもなく、視界も良好だった。
魔物などに警戒しつつ、森の中を観察しながら進んで行く。
冬の森のイメージは茶色なのだが、この森は違っていた。
葉を落としている木は無く、下草も青々としている。
山桜が咲いているし、何故かバナナが・・・。
この世界では普通の事なのかと、念の為、木に触れて鑑定してみる
【ヤマザクラ
落葉高木 春に白や薄紅色の花が咲く】
【???
一年を通して暖かい地域に生息 黄色く熟した実は甘く、栄養価も高い】
名前の部分が【???】になったのは、この世界で初めて見たからなのか、そこがちょっと気にはなるが、私の知っているバナナで間違いは無いと思う。
試しに一本、食べてみた。・・・・・・バナナだ・・・。
私が食べているのを見て、兵士さん達も食べた。
「!すごく甘いんですね!見たことも無い植物だったんで、なかなか手を付けられずにいたんです」
レオンハルトさんは、すでに5本以上食べている。
「あの、質問なんですが、ここら辺の気候ってどんなかんじですか?」
兵士さんの中で、ベテランそうな人に尋ねてみた。
「そうだな・・・。比較的温暖ではあるが、冬には雪が降ることもある。大して積もらないけどな」
その後も、季節や原産地の気候を無視したような植物を発見。
その度に鑑定し、食用となる物は収穫してアイテム袋へ。砦に残っている兵士さん達と魔術師さん達へのお土産にすることに。
「それにしても、出会わないわね」
ベルさんの一言に、当初の目的を思い出す。
実のなる植物を見つける度に、鑑定→味見→収穫を繰り返し、気付けば森に入ってすでに2時間が経過していた。その間、魔物どころか魔物化した動物にさえ一度も遭遇していない。
「こんな事は、私がここに配属されて以来初めてですよ」
ベテランの兵士さんも驚いていた。
何度か、周囲に魔物などがいないか、探索魔法で確認はしている。
私の魔法だけでは不安なので、ベルさんやクロード先生も確認するのだが、かなり離れた位置にいるか、近い場所で反応を見つけても私達が移動している間にいなくなってしまうのだ。
「もうしばらく進んで遭遇しなかった時は、引き返そう。帰り道で出会うかもしれないし」
レオンハルトさんがそう決定した時だった。
前方の茂みから物音がしたと思ったら、そこから紅と白の二羽の鳥が現れた。
二羽の鳥は、私達の方をじーっと見つめると、飾り羽を大きく広げた。・・・孔雀だ。
「ホウギョクチョウだ!紅と白だなんて、伝説でしか聞いたことがないぞ!」
珍しく、クロード先生が興奮している。
後に詳しく聞いた話では、ホウギョクチョウとはこの世界での孔雀の呼び名。多分、【宝玉鳥】じゃないかと。特徴は前世の世界での孔雀そのもので、飾り羽の模様が宝石のようだからと名前がついたようだ。
暖かい地域に生息する鳥で、滅多に人前には現れないことから、その姿を見た者には幸運が訪れると言われるほどの神聖な鳥なんだそう。
突然変異と言うか、魔物化して紅や白の孔雀は一羽だけなら、たまに『見た』と言った情報があるそうなのだが、二羽同時に現れるのはかなり古い言い伝えでしかないそうだ。
その言い伝えと言うのが、
『女神が善良な民を楽園へと導くために紅白の二羽のホウギョクチョウを使者とした』
なんだそうだ。
「じゃあ、伝説の通りだとすると、あの二羽は、私達をどこかに案内するために現れたってことですか?」
「ああ、その可能性はある・・・」
私とクロード先生の会話を聞いていたのか、二羽の鳥は私達をじっと見つめた後、まるで付いて来いと言う様に、頭をくいっと上げ、数メートル先の木の枝に止まった。
孔雀が飛ぶ姿、初めて見た・・・。なんて感動していると、二羽がせかすように羽をばっさばっさとバタつかせるので、慌てて後を付いて行くと、満足したのか優雅に私達の前を飛んで行く。
ここら辺は兵士さん達も初めて足を踏み入れる場所らしく、道らしい道が無いので、魔法で簡易な道を作りながら進んで行った。
どれくらい進んだのだろう。
今までの、わずかにしか光が届かない森の景色が一転、眩しいばかりの日の光に照らされた開けた場所が広がっていた。
そこには、上部が崩れ落ちてしまった円柱形の白い石の柱が円形に等間隔に並んでいた・・・。
森にこんな場所があったなんて・・・。砦からは靄がかかっていてよく見えなかった場所なのか・・・?
空を見上げると、靄なんてものはかかっておらず、冬にしては珍しく青空が見えた。
あの紅白の鳥は?と、辺りを見渡すと、数十メートル先の広場のほぼ中央にある白い石造りの小さな建物の上に止まっていた。
そして、その建物の横には、今まで発見することが出来なかった聖なる樹が七色に輝いていた。




