ウィルさんに相談する
言い訳のため、適当に“予習”と言ってしまったことを少し後悔した。
まさか、王子に興味を持たれるとは・・・。
「この下線と“?”マークは?」
「・・・疑問に思った部分で、授業で聞き逃さないための印です・・・」
王子が私の隣に座って、私の教科書を覗き込む。
自然と肩が触れあい、顔も近くなる。
熱心に質問してくるのはいいのだけれど・・・、顔が近い所為か、ほぼ耳元で声がする・・・。
これは、故意なの?それとも無意識なの?
「アーサー、近い。それではアイリスが上手く説明できないだろ」
カーティスが王子の肩を掴み、引き離してくれた。
「あ、ああ・・・・・・」
心の中でカーティスに感謝しながら、教科書が見えやすいように、机の上に広げ、さらに王子の方へと寄せる。
先ほどのような接近は無くなったものの、隣にいることには変わりがなく、昼休みの終了を切実に願う。
時間にして十分ぐらいだったと思うが、私にはそれ以上に感じてしまった。
授業が始まる前に、かなり疲れてしまった。
午後の授業は気力で乗り切った。
「アイリス、良ければ今から他の教科の予習の方法も教えて貰えないだろうか?」
放課後、王子からまさかのお誘い。
予習が気に入ったらしい。
「放課後は予定があるとか言っていなかった?」
言ってはいないけど、カーティスの助け舟にありがたく乗せてもらうことにした。
「ええ・・・、ちょっと・・・。魔術師棟の方に・・・」
魔術師棟とは、魔術講師の先生方個人の研究室がある建物のことで、職員室に先生が居ない時は大体この棟の研究室に篭っている。
「そうか、残念だ・・・。では、明日は?」
「明日は、食材の買出しをする日なので・・・、後日、日を改めてとのことで・・・。では、ごきげんよう」
王子に日程を決められる前に、どうにか教室を抜け出すことが出来た。
そして、魔術師棟の奥にあるウィルさんの図書室にへと急いだ。
放課後の魔術師棟の付近には、生徒の姿は見当たらない。
教室のある建物を間に、寮とは最も離れた反対側の敷地に建っているからだろう。
それ以外にも、他の建物より薄暗かったり、先生の実験用の怪しい薬草園があったり、壊れた噴水のある寂れた小庭園があったりと、建物とその周囲の雰囲気が少々不気味なのだ。日の落ちるのが早いこの時期は尚更だろう。
私はこの雰囲気が前世で大好きだったテーマパークの洋風お化け屋敷に似ているから、何とも思わないけどね。
「ウィルさん。こんにちは」
図書室のドアを開けると、本と紅茶の香りがした。
「アイリス、いらっしゃい。ちょうどお茶を入れたところなんだ。君も飲む?」
「あ、はい。いただきます」
図書室の一角にある応接セットのソファーに座ると、紅茶とお菓子が出された。
「そのお菓子。今日の昼休みにハーマン先生からいただいた物なんだよ。・・・・・・今回は結構派手に魔法を使ったそうだね?」
先輩との魔法勝負については、すでに伝わっていたようだ。
「他の生徒達のいい刺激になったと、先生は喜んでいたよ。昔に比べて、生徒達の実力が低下していることに悩んでいるみたいだからね」
実力低下の理由、気になるなぁ。
「それで、今日は何についての本を探しに来たの?」
「今日は本ではなく、ウィルさんに相談があって・・・」
相談内容は王子達のこと。
卒業まで避けられないと諦めた。
それならば、上手く付き合っていく方法を考えるしかない。
ジークがかなり親しそうだから、ジークに聞くのが一番かもしれないけれど、そうなると相談場所は保健室になってしまう・・・。
エレーナ先生のいる場所で相談するには危険な内容だ。
そこで、大人の男性であるウィルさんなら、客観的なアドバイスをしてくれるのではと思ったのだ。
試験休みから、ここに来る直前までの事を簡単にまとめて話をした。
「・・・・・・まさか、君から異性関係について相談をされるとは思わなかった・・・・・・」
ウィルさんが苦笑していた。
「・・・私もです。自分には縁の無いことだと思っていたので」
正確には、“縁なんて作りたくなかった”のだけど。
「アイリスの話から、対応に困っているのはアーサー君かな?」
「はい。ブライアン様はあまり話さない方で、必要以上に会話することもないです。カーティスは・・・、話し合ったこともあって、何とかなりそうです」
さりげなく助けてくれたしね。
「ただ、アーサー様は・・・、どこまで親しく話していいのかも分からないですし、あと、話すときの距離が近いのがちょっと・・・」
向かい合って話す時は他の人達と変わりないのだが、教室内では何故か私の横で話すことが多く、その時が他の人達よりちょっと近かったりする。
「君と親しくなるための、彼なりのアピールだと思うよ」
「・・・友人としてのですよね?」
ここは大事。他人からは王子の態度がどう見えるのか?
「多分ね。君の才能に興味があってのことだと思うよ。魔法の能力もそうだけど、成績も。一学期は『今年の一年のA組は彼ら三人だけだろう』と考えられていたぐらい、同学年に学業で彼らと競い合える人材がいなかったんだよ。他の学年にはいるのだけどね。君も知っているジークフリード君とか・・・・・・。ある程度親しくなれば、一般的な距離に戻ると思うよ・・・。多分・・・」
最後が少し自信がなさそうに答えていたのが気にはなったけど、失礼にならない程度の砕けた対応の仕方を教わることが出来たので、ウィルさんに相談したことは正解だと思った。




