魔法勝負(2)
2018/03/20 一部修正しました。
ヒューゴは中級クラスなので、使用できる実践魔法は“学園式”です。
私に声をかけてきたのは、2-Cのヒューゴ先輩とのことだった。(注:ベアトリスお姉様情報)
ベアトリスお姉様たちとヒューゴ先輩とのやり取りを横で聞いていて分かったことは、この先輩、お姉様たちにかなり嫌われているという事だった。
「なぜ、年下の、それも女性に勝負を申し込むのかしら?」
コレットお姉様の声音が・・・、普段のおっとりとした優しいものとは違って、キツイ。
「ただ純粋に彼女の能力を試したいだけなんだけどねぇ~」
ヒューゴ先輩、どこかで見たことがあるな~と思っていたら、前世の先輩だ!
軽薄そうなしゃべり方、容姿は悪くは無いけど、すごく良いとは言えない。私のランクの中ではせいぜい中の上程度。なのに、ナルシストで自意識過剰。『オレが本気だせば、この程度じゃ終わらない』が口癖のわりには、その“本気”とやらを見たことがない。成績もスポーツも中位程度。自らが頂点じゃないと我慢できない性格なのか、絡んでくるのは自分より下位の人達。
お姉様たちが嫌うのも分かる。
「どうかしたのか?」
お姉様たちとヒューゴ先輩の一触即発状態のやり取りが気になったのか、ハーマン先生が寄ってきた。
心配そうな表情をしているけど、面白そうな事を見つけたぞ!みたいな目をしている。
「先生!彼が、アイリスちゃんに魔法勝負を挑んできたんです!」
ビシッとヒューゴ先輩を指さしながら、コレットお姉様が説明した。あれ?人を指さすのは失礼じゃなかったっけ?
「ほう・・・?」
ハーマン先生の瞳がキラーンと光った気がした。
「オレはただ、興味があって・・・」
「・・・いいんじゃないか?」
簡単に許可を出す先生。
「で、君達はどう思っているんだ?」
コレットお姉様たちに聞いてきた。
「先生の立会いの元なら構わないと思います。それに・・・、ここには大勢の見届け人がおりますし・・・。ね、ベアトリス?」
「ええ。彼がどの様なつもりで彼女に勝負を挑んだかは分かりませんが・・・・・・。私たちは彼女の健闘を祈るだけですわ」
私のこと心配しているそぶりを見せているけど、口角がわずかに上がっていますよ~。
“健闘を祈る”=“叩き潰して構わないわよ”って脳内で変換されたんだけど・・・。
と、言うわけで、1、2年生全員が見守る中、“魔法比べ”と言う名の勝負が始まった。
ただ、ただ、面倒臭い。
「勝負内容は、そうだな・・・・・・、ヒューゴ、先ず、君が“最も得意”とする魔法を見せなさい。それにあわせて彼女が魔法を選ぶ。それでいいな?」
「オレは構いませんが、それで彼女は構わないんですか?」
私の方をチラッと見てきたので、
「ええ、構いません。私も先輩の“最も得意とする魔法”を是非拝見したいです」
と、おだてておいた。
「後で後悔しても知らないよ?」
本気で言っているの?この人。
ベアトリスお姉様情報では、この人の魔法の能力は中級で、お姉様たちよりも下らしい。
以前、お姉様たちにも勝負を挑んで負けたらしい・・・。
そんな先輩が選んだ魔法は、詠唱魔法での“水の壁”。
あれ?実戦魔法での勝負じゃなかったの?
「じゃあ、次は君の番だよ」
まさか詠唱魔法を使ってくるとは思ってもいなかったので、呆然としている私を見て、何を勘違いしたのか先輩はドヤ顔でコチラを見てきた。
「はぁ~。じゃあ、いきますね。“水の壁”」
思わずため息が漏れてしまったのは、仕方が無いよね。もちろん、私は実戦魔法だ。
生徒達のざわめく声が聞こえてきた。
それもそうだろう。
この“水の壁”は、先ほどの2年生の実技試験の課題なのだ。
中級の人たちが“学園式”の実戦魔法で成功させた魔法を、私が“正式”な実践魔法で成功させてしまったら驚くに決まっている。規模もさっきのヒューゴ先輩の詠唱魔法より大きいからね。
「アイリス。“氷の壁”は出来るかな?」
背後からのハーマン先生の問いかけに、
「出来ますよ。“凍結”」
目の前にある水の壁を凍らせた。
「え?“凍結”?」
先生が“氷の壁”って言ったから、目の前の“水の壁”を凍らせたのだけど、先生は『“氷の壁”の魔法は使えるか?』って意味で言ってたようだ。
「あ、凍らせた方が早いかな~と、思いまして。では、唱えなおしますね。っと、その前に“解除”、“氷の壁”」
目の前にあった氷の壁が消え、その後、地面から氷の壁が競り上がっていく。
高さが3メートルほどになったところで止めた。
「出来ました」
振り返って、先生を見ると頷いていた。
「本当に、君は頼もしいな・・・。私たちの想像の上を行く」
後で知ったのだが、2年生はまだ、“氷系”の魔法は習っていなかったそう。
「先生が勝負を止めなかった時点で気付かなかったのですか?」
いつの間にか私の横に立っていたコレットお姉様が、跪いてうな垂れているヒューゴ先輩に言った。
「初めに彼女の見せた魔法のすごさに気付いていれば、勝負を挑む気さえ起こらなかったはずですが・・・」
ベアトリスお姉様も、いつの間にか横にいた。
「「だから、私たちにさえ勝つことが出来ないのですよ!」」
二人揃って、止めの言葉。
「うるさい!!オレだって本気を出せば、もっとすごい魔法が使える!!」
うわっ、お約束ワード。『本気を出せば』が出ました。
「では、その“本気”とやらを、今お見せになってはいかがですか?」
お姉様、そこで挑発するのはヤメテ・・・。
「いい気になりやがって・・・。“ファイアーボール”!!」
先輩が放った火球がこちらに向って飛んできたが、難なく跳ね返す。
その火球は、先輩の顔、スレスレのところをかすめていった。先輩のくすんだ金髪がちょっとこげたかな?
防御も何もしていない、か弱い(?)女性に向っていきなり攻撃をしてくるのは、ダメだよね~。
本気で怒ってもいいかな?いいよね。
「学園内では攻撃系の魔法を人に向って放ってはダメなのでは?」
一応、確認ということで先生に尋ねる。
「対戦訓練や模擬戦以外では、厳重処分だな」
私が企んでいることに気付いたようで、ハーマン先生が笑顔で答えてくれた。
「ちなみに、厳重処分とは?」
これも、一応確認。
「もし、相手が障害の残るような大怪我、または死亡してしまった場合は、学園を“退学”のうえ、王国法による裁きが待っている。被害者の状況に合わせて、“留年”・“謹慎”・“奉仕活動”など色々な処罰があるが・・・、今回は、“奉仕活動”として、食堂の清掃あたりが妥当かな?」
「だっ・・・、何でオレがそんな事を!」
プライドだけは高い先輩には食堂の掃除は耐えられない様子。
「処分が嫌ならば、模擬戦ということにするか・・・。立会いの講師も二人以上いるし。アイリスはそれで構わないか?」
「ええ。では、先ほどのは、先輩からの“本気”の先制攻撃ということで。私が攻撃しても宜しいでしょうか?」
ちょっと強引だったけど、誘導完了。奉仕活動で了承しておけば良かったのにね。
「その前に、“これから1-Aのアイリスと2-Cのヒューゴの模擬戦を行う!!二人以外の生徒は全員スタンド席に避難するように!クロード先生は私と共に立会いを、その他の先生は、生徒達の安全確保を”」
先生が大声で指示を出す。
避難って大袈裟すぎでは?
「じゃあ、アイリスちゃん。私たちはスタンドで応援しているわね」
「これ以上、他人に迷惑をかけることが出来ないよう、再起不能にしちゃってね」
ベアトリスお姉様の言い方から、この先輩、結構多くの人に迷惑かけているんだ・・・。
「それでは、これから、模擬戦を始める!今回は、交互に一定時間魔法で攻撃しあう特別ルールとする。防御は各自で。先制、アイリス」
先輩が防御魔法を唱えたのを確認。
「じゃあ、いきますね。“火球”」
私が放ったのは、ピンポン球ほどの小さいもの。
先輩の横をすり抜け、後方へ。
「ふっ・・・。たいしたこと・・・・・・」
そう言いかけた先輩の背後から、大きな爆発音がする。
先輩の背後、数メートルの位置に直径1メートルほどのクレーターが出来ている。
それを見た先輩が青ざめている。
「まだ、私の時間残っているようなので、続けますね。“火球”」
右手を指鉄砲の形にして、今度はパチンコ玉程度の大きさの火球を、わざと先輩から離れた位置に次々に打ち込む。
「そこまで!!」
時間にして、1分程度だったと思う。
先輩の周囲には、私の放った火球による大小さまざまな窪みが出来ていた。
「では、ヒューゴ。始め!!」
「・・・・・・“ファイアーボール”」
“学園式”の実戦魔法。
【規模】を表す呪文は、敵に聞かれちゃマズイから小声で唱えるのが正解。
バスケットボール大かな・・・?私の真正面に向けて放ってきたが、手前50センチほどの所で消える。
その後、何度も“ファイアーボール”で攻撃してきたが、結果は変わらず。私の目の前で、スゥっと消えていくのだ。
その、消えていく火球と同じように、先輩の表情と顔色が消えていく。
「そこまで!続いて、アイリス」
「じゃあ、次は水系でいきますね。これなら濡れるだけでしょうから。“水鉄砲”」
先輩へと向けた指先から水が飛び出していく。
始めは家庭用のホースで水を飛ばすイメージで、徐々に威力を強くしていく。
最初のうちは、少し余裕を取り戻した表情だった先輩が、徐々に威力を増していく水の力に耐えられなくなり、腕をクロスして必死に防御している。
さらに威力を増していく水に、後ろへと押されていくようになった。必死に踏ん張ってはいるものの、最初の位置から数十センチ移動したところで、残念ながら時間切れ。
「ヒューゴ、続けられそうか?」
防御にかなりの魔力を使ったらしく、先輩は肩で息をしている。
「・・・大丈夫です。コレで最後にしてやる!・・・・・・“炎の床”」
あらら・・・。先生がまだ開始の合図していないのに、始めちゃったよ・・・。
それに、何ですか?その、『コレで最後にしてやる!』って?“負け犬の遠吠え”ってヤツかな?
2メートル四方の地面から炎が上がる“炎の床”って魔法、さっきの実技テストでもやっていたけど、辛うじて実戦魔法で成功していた先輩の威力では、私へのダメージは皆無。
私の体の半分を隠す高さの炎で分かり辛いかもしれないけれど、私の足元には炎などなく、ただの地面だ。それにも気付かず、時間いっぱい“炎の床”の魔法を先輩は使い続けた。
威力は大したことが無いのに、見た目を派手にした分、さぞ魔力を使っただろう。
炎の中から現れた私を見たときの絶望した先輩の表情を見て、人ってこんなにも情けない表情が出来るのねって、思ってしまった。
「アイリスは・・・、まだまだ余裕だな」
「はい、先生。でも、先輩が疲れていらっしゃるようですが、続けてもいいのでしょうか?」
体力的にも、精神的にも疲れているであろう先輩へ、チラッと視線を向けながら答えた。
「本人に聞いてみないとな。ヒューゴ、降参するか?それとも続けるか?」
「だ、誰が、降参なんかするものか!!」
往生際が悪い。
「では、アイリス。始め!」
「それでは、先輩『コレで最後にして差し上げます』」
ニッコリと微笑みながら、さっき先輩が言った言葉をそのまま返す。
「“つらら”、“底なし沼”」
先ず、先輩の周囲、直径1メートルを先輩と同じ高さのつららで檻の様に囲む。
続いて、囲まれた地面を泥に変える。
ズブズブと先輩の体はその泥の中に沈んでいく・・・。
もがけばもがくだけ沈んでいくし、何かにつかまろうとしてもあるのは氷の柱だけ。魔法を使って何とかしようと思っても、多分、先輩の使える魔法では対処できないんじゃないかな?使えたとしても、足場が安定しないから、成功率低いだろうし・・・。
気付けば、もう、腰の辺りまで沈んでいた。
「今、どれぐらい時間経ちましたか?」
とりあえず、聞いてみた。
「まだ、半分も経っていないが・・・・・・。降参するか?」
「・・・・・・」
・・・・・・頑固だなぁ。
「まだ、時間が残っているって事は、追加で魔法を使えるってことですよね?じゃぁ・・・」
「降参だ!!!降参するからっ!!だから、頼む!!これ以上は・・・」
先輩の降参宣言が場内に響きわたる。
スタンド席は騒然としている。
あちらからは、何が起こっているかよく見えないまま、先輩が『降参!』と叫んでいるわけだから・・・。
先輩が降参したので、これ以上沈まない様に泥を固め、周囲のつららを消す。
そして、先輩の周囲の土ごとせり上げ、全身が出てきたところで周囲の土を砕く。
ついでに実習着の汚れも魔法でキレイにしてあげた。
「先輩。勝負して下さり、ありがとうございました」
満面の笑顔で言ったのだが、先輩は、
「ひっ・・・」
と、声を発し、そのまま気絶してしまった。
もしかして、やりすぎた?




