アドバイス
「アイリス様!オレを弟子にして下さい!」
ジェイクが土下座している姿に頭痛がしてきた。
「あの~、ジェイク様、頭を上げて・・・いえ、立って下さいませんか?」
すごい注目浴びているのですが。
「いや、先日の暴言も詫びていないのに・・・・・・」
あ~、『そこの女!』発言ね・・・。
「いえ、そんな事より、こうやって目立つことの方がイヤなので、話は伺いますからこの場から移動しましょう」
“嫌”の部分を強調すると分かってもらえたようで、ジェイクは慌てて立ち上がった。
「では、食堂で」
食堂も目立つけど、晩秋の寒い中立ち話をするのも嫌なので、頷いた。
私は、彼のななめ後ろを歩くようにした。並んで歩くとネタにされること間違いなし!
ジェイクは、何度もこちらを振り返りながら歩いていく。私がちゃんと付いて来ているか心配なんだろう。逃げ出さないから、安心してほしい。
食堂は、基本セルフサービスだ。
それぞれ飲み物を購入してから、暖かそうな窓側の席に座った。
「先日は、失礼なことを言ってすまない」
ジェイクが頭を下げてきた。
「特に気にしていないので、謝ってもらうほどのことではないですよ」
「いや、しかし、女性に対しては失言だったと・・・」
「だ・か・ら、気にしていないので、この話は終了です!」
「君は、心が広いのだな・・・」
なんか感心されてしまったけど、冒険者街ではたま~にあるからね。いちいち気にしていたらキリが無い。
コレがヒルダ姉さんだったら、『教育的指導』が入るんだよね。冒険者街では“女王様降臨”と呼ばれている。
「・・・で、本題に入りたいのですが・・・。先ほど、“弟子”とかおっしゃっていませんでしたか?」
屈強な男性が、ヒルダ姉さんにしばかれている映像を頭の中から無理やり追い出し、尋ねた。
「はい!アイリス様には是非、オレを弟子に・・・・・・」
聞き間違いじゃなかった・・・。
「あの~?その“アイリス様”って呼び方、止めていただけないでしょうか?侯爵家の方であるジェイク様に“様”付けで呼ばれるのはちょっと・・・」
ブライアン情報で、ジェイクは侯爵家、それも長男らしい。未来の侯爵様が平民の私に“様”付けって、周囲からどう思われるか・・・・・・。考えただけでゾッとする。
「では、師匠と。それから、オレのことはただの“ジェイク”と・・・」
「いや、それもおかしいから。弟子にするなんて言ってないし、貴方のことを敬称なしで呼ぶ気も無いですから!」
しばらく議論した結果、敬称に関しては私は“嬢”付け、ジェイクは“様”付けで呼ぶ代わりに敬語・丁寧語は無しで。弟子は無理だけど「相談には乗るよ」と、いう事で話が着いた。
ホットのミルクティーがすっかり冷めていたよ・・・。
「ちょっと待っていてくれないか?」
ジェイクが席を立ったと思ったら、新しい飲み物を買ってきてくれた。
「ありがとう。それで、どうして“弟子”って発想になったの?」
「ああ。オレさ、魔力は有るんだけど、どうも魔法が苦手でさ・・・」
魔力の量はAグループで王子達とも仲が良く、一緒に練習していたのだが、実技テストでは残念ながら中級になってしまったと・・・。
「今のオレのやり方だと、いつまでたってもアーサー達に追いつかないと思って・・・。君だったら何かいい方法を教えてもらえるんじゃないかと考えたのだが・・・」
今日の彼の魔法を思い出す。
詠唱魔法の呪文は間違っていなかった。
「ジェイク様の詠唱魔法を見てて思ったんだけど、ただ呪文を読んでいるだけのように感じた。一語、一語を大切にすれば、上達するんじゃないかな?」
「それは、先生からも指摘を受けた。その、【一語、一語を大切に】と言うのがよく解らないのだ・・・」
儀式魔法も詠唱魔法も、魔力を込めて呪文を読み上げれば魔法は発動する。
魔力を込める時に、いかに具体的にイメージするかによって威力や成功率は変わってくる。
とりあえず、呪文の言葉のイメージを思い浮かべながら唱えると説明してみたのだが、理解してもらえなかった。
う~ん・・・。どうしたらいいのか?
「・・・ちなみに読書は好きですか?」
「・・・いや、あまり好きではない。どちらかというと、体を動かすほうが好きだ・・・」
とりあえず、彼を伴って学園内の本屋にやって来た。
「コレが、私のおススメの本です」
彼に一冊の詩集を購入させた。
『四季』という題名どおり、四季折々の風景が詩として綴られている。
それに、一篇自体が3~5行程度と短いのだ。
私の考えた方法は、こうだ。
まず、その日の気分に合わせて一篇の詩を選び、それを朗読する。
次に、その詩に出てきたモノ、例えば“水”なら池の水、噴水の水などを観察する。
そして、夜、再び同じ詩を朗読する。
一日観察することで、朝と夜では同じ詩でも感じ方は変わっているはず・・・。
「その本の、“秋の章”にある“落葉”という詩をまず読んで」
「分かった。『風により 我が手の中に 舞い落ちる 銀杏の木の 最後の一葉』」
「じゃあ、読んでみて思い浮かんだことは?」
「う~ん・・・。それより、この、銀杏の木ってどんな木だ?」
そこからか・・・。
「コレが、銀杏の木」
校門側に一本だけ銀杏の木が植えられている。
「へ~。コレが銀杏の木なのか・・・。知らなかった」
在り来たりな言葉だけど、木の根元には銀杏の葉の“黄色いじゅうたん”ができていた。
「どう?実際に銀杏の木から葉が落ちる様子を見た感想は?」
「葉っぱが落ちる様子をじっくり見たことが今までなかったな~と、思った。くるくる回りながら落ちるんだな・・・。オレの想像した“落ちる”は、一直線にストーンとだからな・・・。はは・・・」
「そうそう。そんな感じで、たくさん観察していって、想像力を豊かにしていけば・・・・・・、うわっ!」
突然の強風。
ザーッっという音と共に、かろうじて木に付いていた銀杏の葉が一斉に落ちてきた。
ペシペシと葉っぱが体に打ち付けられ、足元の落ち葉が舞い上がる。
あわててスカートを押さえた。
あまりの風の強さに思わず「うわっ!」って言っちゃったけど、女子ならここは「きゃぁ~!」とか「きゃっ!」だったかな?
「すごい風だったね~。葉っぱもけっこう落ちちゃって・・・」
体や髪に付いた葉っぱを払い落とし、乱れた髪を整える。
「あの~?ジェイク様、どうかしましたか?」
目の前で手をヒラヒラしようかと思ってしまうほど、呆然とした顔で立っていた。
「・・・ああ・・・。突然の強風で驚いただけで・・・。それから、今のような葉っぱの落ち方もあるんだなと思って・・・。君が教えたい事がなんとなくだが解った気がする」
「それは良かったです。あ、肩に葉が・・・」
ジェイクの肩に付いていた葉っぱを取ってあげる。
「きれいな葉っぱだから、しおり代わりに良いかも」
ジェイクの手から詩集を取り、“落葉”のページに挟んで渡す。
「では、コツが解ったようなので、私は失礼します。あ、進捗状況とかいちいち知らせてこなくていいからね~。では、ごきげんよう」
銀杏の木の下で立ち尽くしているジェイクに別れを告げ、私は寮への道を急いだ。
一ヵ月後、私がジェイクに教えたこの方法が1年の男子生徒の間で流行するとは、この時は思ってもみなかった。




