試験休み (3)
試験休み三日目。
当初の予定では、ジークと素材採取の依頼を受けるはずだった・・・。
なのに・・・。
「いらっしゃいませ」
ライアン商会で仕事をしている。
たった今、訪れた客は、ヴィクターさんとジーク。そして、アーサー、ブライアン、カーティス。
本日受けた依頼は“王子達の護衛”だった。
遡る事、数時間前。
まだギルドの受付窓口も開いていない、午前7時半。
ギルド長に呼び出され、ギルドの2階にある応接室に行くと、ギルド長、ヴィクターさん、そしてジークがいた。
ジークは、昨日のような冒険者の服ではなく、白のシャツに黒のズボン、濃紺のジャケット姿だった。
「朝早く呼び出してゴメン」
空いている席を勧められ、そこに座る。テーブルの上には、サンドイッチや果物が並べられている。
「よければ、これ食べて。公爵家から持ってきた」
「じゃ、遠慮なく」
朝食がまだだったので、丁度良かった。
「で、どうしたの?こんな朝早く」
昨日、朝イチで連絡するとは言っていたけど。
「今日は“依頼”に来たんだ。代理だけど」
「そうなんだ~。って、ギルド長に直接?」
「ちょっと、ワケ有りでね。表に出せないんだ」
ジークが苦笑する。
「そんな依頼、私が聞いてもいいの?」
「ああ。ヴィクターさんとアイリにしかお願いできない依頼だから。ちゃんとギルド長の許可も貰ったよ」
冒険者を名指しする“指名依頼”は、色々な条件がある。その条件を全て満たしていてもギルド長がダメと言えば出来ないし、条件を満たしていなくてもギルド長が許可すれば受けることが出来る。
ギルド長の判断次第なのだ。
「で、どんな依頼なの?」
「『アーサー殿下たちの護衛』だよ」
「は?」
あまり関わりたくない人物の名前が聞こえたような・・・。
「昨日、家に帰ったら、アーサーがいた」
昨日の手紙はそのことだったのか。
「『お忍びで、冒険者街を見たいから案内してくれ』だってさ」
「え?それをわざわざ言うためにジークの家に来ていたの?」
ジークが頷く。
「特に行きたいのが、『ライアン商会』だってさ。アイリ、一昨日、アイツに何か話した?」
「え~と、カーティスの家でだよね?ドレスの話題がでたけど・・・」
一昨日の昼食会での事を思い出す。
ダンスパーティのときのドレスはどこで作ったのか尋ねられて、『ライアン商会』の事を話たけど・・・。
「そういえば、カーティスに『ジークさんがアイリスを見かけたっていうお店?』って聞かれたから、『そうだよ』って答えたけど」
ついでに、『今回の休みもそこで働くの?』って聞かれて、冒険者活動するって訂正するのも面倒だったから、『その予定』って答えたっけ・・・。
「それが原因か・・・」
私を見てため息つくのは止めて欲しい。
「でもさ、お忍びでも護衛ってお城から付くんじゃないの?」
「想像してみろよ。あの三人と護衛の騎士が普段着とはいえ、街を歩いている姿を・・・」
あの三人とは、アーサー、ブライアン、カーティス事だろう。
三人とも美形だからな・・・。普段着姿を一昨日見たけど、デザインは一般人が着ているものと大して変わりは無かったけれど、質の違いはすぐに分かるし・・・。護衛の人も似たようなものだろうな・・・。
「周囲からかなり浮く。目立つ」
「だろ。だから、今からライアン商会に行って、冒険者用の服を買って、アイツらに着せる。そして、俺とヴィクターさんが一緒に行動すれば、新人冒険者とその指導役と見えるだろ?」
想像してみる。
「あ、それなら、何かしっくりくる。でも、それなら、私は関係ないんじゃない?」
街中には、普段着の護衛が何人か立つことにもなっているらしいし。
「アイリはライアン商会で仕事していることになっているんだろ。店にいなきゃマズイだろ」
適当に返事するんじゃなかった・・・。次からは、『冒険者ギルドで仕事』って事にしよう。
正午過ぎに彼らはやって来た。
この時間帯、店を訪れるお客はめったにいない。
訪れる者は、
「ユリウスさん。依頼の物、持って来たわよ~!あら、ヴィクター、それにジークも。久しぶり。元気にしていた?あら?そちらの三人は?私、ギルド職員のヒルダです。よろしくね」
商会が、ギルドに依頼していた品を届ける配達の職員。
普段は新人職員の仕事なのだが、今日は、依頼のことを知ってか、ヒルダ姉さんがわざわざ届けに来てくれた。
「へ~~。あの子達がアイリスの同級生なのね~」
ジークに店内を案内されている三人を見て、ヒルダ姉さんが小声で言ってきた。
「髪を染めているようですが、あの緑のベストを着ていらっしゃるのがアーサー殿下ですね。お顔を間近で拝見する機会に恵まれるなんて・・・。雇ってくださったミライさんに感謝です」
ライアン商会の従業員で、結婚前はお城で騎士をしていたキャサリンさんが小声で返す。
私達がいるのは、店全体が見渡せる奥のカウンター。カウンターの奥は、ちょっとした事務スペースとなっている。
商会での私の仕事は事務なので、ヒルダ姉さんが持ってきた品を、備品管理ノートの材料の項目に記入した。
「あら?こっちを見ているわ」
ヒルダ姉さんの言葉に、三人がいる方向を見る。
王子と目が合ったと思ったら、逸らされた。
「アイリスの事が気になるのかしら~?」
「あ~っと、多分、前髪を上げているからかな?それが珍しくて見ていたのかも」
「ふ~~ん。何で、彼らは『ライアン商会』に来たのかしら?」
「ミライさんに作ってもらったドレス。あれの所為だと思う」
「ああ~。エレーナから聞いた。『異国のドレス』って噂?」
ヒルダ姉さんの表情から、噂の内容は聞いているようだ。
エレーナ先生とヒルダ姉さんが友人だったことを忘れていた。
「え?何ですか?その『異国のドレス』って?」
「それはね~」
ヒルダ姉さん。こっちをチラ見しながら小声でキャサリンさんに噂を話すのを止めて・・・。
キャサリンさんも、その、哀れむような視線でこっちを見ないで・・・。
「アイリスちゃんも大変だったわね・・・。“幻の~”とか“王族”とか・・・」
キャサリンさんに同情された。
店内を一通り見て回った三人を、ジークと共に奥のミライさんの応接室に案内した。
ジークがいるから、私はいいよね。と、思って、お茶を出す時と、ミライさんからデザイン画を持って来るように頼まれた時以外は応接室に近寄らなかった。
デザイン画については、描いたのが私だって事はナイショにしてもらった。
色々と聞かれるの面倒だからね。
三人が応接室から出てきたのは、来店から3時間ほどたったころだった。
「ありがとうございました~」
客の相手をキャサリンさんと、なぜかギルドに帰らず残っているヒルダ姉さんがしているので、入口で三人を見送ることになった。
やっと終わった・・・。開放感から自然と笑顔になる。
そんな私を見て、ヴィクターさんとジークが苦笑する。私の心の声が聞こえているのかな?
王子達三人は、ユリウスさんとミライさんに、
「それでは、また来ます」
と、挨拶していた。
ジークに手招きされたので、三人から少し離れた場所に移動する。
「じゃ、アイリ。夕方、ギルドで」
王子達に聞かれないように、小声だ。
ジークとヴィクターさんは、これから三人を城まで送ることになっているらしい。
「分かった」
私も小声で返事をした。
簡単に夕方までの事を打ち合わせして、王子達のほうを見ると、何故か王子睨まれているような気がする。
急いでいるのを邪魔してしまったのかな?
「すまない。ちょっと必要な素材の確認をしていただけ」
そう、ジークが誤魔化してくれた。
「それじゃあ、アイリス。また、明日」
「え?あ、うん」
いつもと同じカーティスの言葉に、いつもと同じ返事をした。




