試験休み (1)
「やっと終わった~」
三日間あった中間試験が、無事終了。
明日からは、週末も含めて4連休。
「アイリスは明日からの休み、どうするの?」
早速、カーティスが聞いてきた。
「もちろん帰るよ」
「それは分かっているよ。帰って何をするのか聞いてるの」
「ああ。え~と、明日は移動に半日かかるから、知り合いの所に挨拶に行くぐらいかな。二日目と三日目は仕事でしょ。最終日は、買い物をしてからこっちに戻ってくる予定だけど。それがどうかした?」
「え~っと、その、庶民の休みに興味があって・・・、クリフは?」
「あ、僕?僕もほぼ同じかな?親の手伝いをすると思う」
「へ~。そうなんだ。学園からどうやって帰るの?」
自家用馬車がある彼らには、疑問に思うことかもね。
「まず、麓の街まで歩いて行って、そこから乗り合い馬車に乗る」
高台にある学園から、麓の街まで徒歩30分。そこから、冒険者ギルドがある王都までは馬車で約2~3時間。郵便馬車も兼ねているので、天候以外に乗せる荷物によってかかる時間が変わってくる。
「クリフは午前と午後、どちらの便に乗るの?」
「午前の予定だけど」
午前の便は、10時に出発だ。
「私もその予定だから、一緒に帰ろう。余裕をもって、正門前で9時に待ち合わせでいい?」
「いいよ。街までの道、一人じゃつまらないしね」
学園の周辺は、田園地帯。
春なら色とりどりの草花が咲いていて楽しいのだが、今は秋。木々も色づいてきてはいるのだが、モミジやイチョウに比べたら“地味”なのである。
「私もそう思うよ。良かった。話相手が見つかって」
ゼンは、朝ゆっくりとしたいから午後の便で帰るそうだ。
サラは、お父さんが用事ついでに迎えに来ることになっていると言ってた。
この場に長居して、王子達に話しかけられるのも面倒だったので、
「ちょっと用事があるから~」
と、言って、さっさと教室を後にした。
休暇、初日。
待ち合わせの時間より、ほんのちょっとだけ早く正門に来たのだが、そこにはすでにクリフと何故かカーティスがいた。
「おはよう。アイリス。送っていくよ」
少し離れた場所に馬車が止まっていた。
「え?いや、いいよ、別に・・・」
「いいから、いいから。どうせついでだし。クリフもいいよね」
有無を言わせず、カーティスに馬車に押し込まれた。
「麓の街まででいいよ」
「え~?せっかくだから家まで送ってあげるよ。僕も一人で馬車で帰るのはつまらないから」
そう言われてしまうと、仕方がないと思ってしまう。クリフも一緒だしね。カーティスだけだったら、全力で拒否していた。あと、王子達が一緒の場合も。
馬車は快適だった。
舗装されているとはいえ、路面の凹凸は多少あるわけで、それが馬車の揺れとなるわけで、それが硬い座面の乗り合い馬車だとお尻に負担がくるのだが、カーティスの家の馬車はそれが気にならない、丁度良い硬さの座面だった。前世の車のシートぐらいかな?
心配していた会話も、魔法に関しての質問がほとんどだった。
で、気が付けば、すでに王都の入口を通過していた。
王都の入口、王族専用の入り口を除いて3箇所あるのだが、その内の1箇所、私とクリフでは絶対に利用しない、ほぼ貴族専用の入口を馬車は通過していた。ここは、貴族の邸宅が集まる地域なので、足を踏み入れたことがなく、どこら辺を走っているのか全く分からない。
家まで送ると言われたから、てっきり正面入口、入口の中で一番大きな所から入ると思っていた。
でも、カーティス達にとっては、こちらが通常使う入口なんだよなぁ。
「中央広場のあたりで下ろしてくれれば、後は歩いて帰るよ。寄りたい場所もあるから」
「あ、僕も、それで・・・」
「僕の家、すぐそこだから。昼食を食べていって」
なんか、嫌な予感はしていたんだよね・・・。
「いや、ほら、そんな急にお邪魔しても迷惑だし・・・」
「うん。馬車に乗せてもらっただけでも有難いのに、食事までは・・・」
私もクリフも普段着だ。
制服ならともかく、こんな格好で貴族のお邸訪問なんて恐れ多い。
ついでにね、食事のマナーもイマイチ自信が無いわけで・・・。
適当な理由をつけて断ろうとしたのだが、
「ああ、もう連絡はしてあるよ。服装も気にすることは無いよ。僕が急に誘ったわけだし。あ、食事のマナーなんて気にしなくていいから。学園で食べているような軽いものだから」
カーティスにはお見通しだったようだ・・・。
私もクリフも諦めるしかなかった。
「父上、母上、ただいま戻りました」
カーティスの言葉に、私とクリフはギョッとする。
使用人さんならともかく、何故、カーティスの両親にまでお出迎えされなければいけないのか?
「父上、母上、紹介しますね。同じクラスのアイリス嬢とクリフ君です」
あわてて一学期のマナーの授業で習った礼をする。使う機会は無いだろうと思っていたが、まさかこんなに早く役に立つとは・・・。マナーの先生、ありがとうございます。
「カーティスからの手紙で二人の事は知っているよ。成績も魔法の腕も素晴らしいと」
「ええ。ぜひお会いしたいと思ってましたの。機会があったら連れていらっしゃいって言ってたのよ」
なんて返事をしたら良いのか分からない私に代わって、クリフが堂々と返事をしていた。流石、執事養成科に通っていただけはある。
「食事の時間まで、もうしばらくあるから、アイリスさんはこちらでお話しましょう」
と、カーティスのお母様。
「クリフは僕の部屋においで。見せたいものがあるんだ」
と、カーティスがクリフを連れて行った。
え~~!私、どうすればいいの?こんなことなら、寮のお姉様方に指導してもらっておけばよかった・・・。
「ふふっ。緊張しなくて良いのよ」
そう、おっしゃられても・・・。
「カーティスが手紙に書いていたとおりの方ね」
「?」
カーティス、手紙に何を書いているんだ!
「ねぇ、アイリスさん。侍女のスキルアップの為に協力して下さらない?」
「え、ええ。私でよければ・・・」
私の返事を聞いたカーティスのお母様、グルグライン伯爵夫人が嬉しそうに微笑んだ。あ、この微笑み方、誰かに似ている・・・。
侍女のスキルアップ。
ヘアメイクだった・・・。
「アイリスさんぐらいの年齢の方にする機会なんて無いですからね。せっかくですから、私の若い頃に来ていた服に着替えてもらってからにしましょうか」
見るからに、高級そうなワインレッドのワンピースに着替えさせられた。
「良く似合うわぁ。サイズもほぼピッタリ」
ほぼとは、胸の辺りに少し余裕があるのだ。
「髪は、そうねぇ・・・、服と同色のリボンを編み込んで・・・、大人っぽくまとめましょう。お化粧軽くで良いわね・・・」
伯爵夫人の指示の元、侍女さん達がテキパキと動く。
編み込みって自分では出来ないから、どうやるのか知りたいのだけど、美容院みたいに目の前に鏡が無いから、侍女さんの手つきを見ることが出来ず、残念だ。
化粧だって、色々と塗られているけど、どう仕上がっているか見ることが出来ないし・・・。
不安に思う私と違い、伯爵夫人や侍女さん達は楽しそうだった。
口紅を塗ってもらった時、食事の用意が出来たと報せが来た。
「それじゃあ、行きましょうか」
結局、鏡を見ることは出来なかった。
ダイニングのドアの前でカーティスとクリフに会った。
「うわぁ。アイリス。すごい綺麗だよ。なぁ、クリフ」
「・・・う、うん・・・」
「あ、ありがとう。鏡見ていないから、自分がどんな風になっているか知らないんだよね・・・」
「あ、それ、母上がわざと見せないようにしたと思うよ。イタズラ好きなところがあるからね・・・。どうぞ・・・」
カーティスに促され、ダイニングに入る。
伯爵はすでに席に着いていて、誰かと談笑していた。
「やぁ、カーティス。お邪魔しているよ」
何故、王子がここにいる~~?!




