イベント発生(裏)
前回の話のカーティス視点です。
2018/3/6 加筆・修正しました。
新しいクラスには、彼女がいた。
能力テスト以来、魔術の授業で見かけなかった彼女。
いつしか、僕とアーサー、ブライアンの間では、彼女の事を“幻の少女”と呼んでいた。
「やはり、“幻の少女”だったな」
アーサーが嬉しそうに言った。
A組でただ一人の女子生徒。
魔力だけでなく、成績も優秀だった。
魔術の実技の授業で、それとなくE組の3人の近くに座り、会話を聞いていた。
彼らは、僕達よりも先に詠唱魔法を理解し、使えるようになっていた。
会話の内容から、この場にいない“彼女”から詠唱魔法の呪文の作り方を教わったらしい。今、僕達がやっている儀式魔法の呪文を詠唱魔法の呪文に作りかえる方法も“彼女”の案らしい。
「今頃アイリスはどうしているんだろう?」
サラと呼ばれている少女が呟いた。
「何か、講義が中心らしいよ。たまに、思いついた魔法を試しているそうだけど・・・」
能力テストでAグループだった、クリフと呼ばれている少年が言った。
「へ~~。アイリスらしいね」
“彼女”の名前はアイリスって言うんだ・・・。って、会話の内容がおかしくないか?
そもそも、魔法って思いつくモノなのか?
彼らの会話に、ますます“幻の少女”に興味を持った。
自己紹介の後、彼女は気分が悪いと保健室に行ってしまった。
僕達、特にアーサーが彼女に話しかけたがっていただけに残念だ。
次の日も、昼休みや放課後になると、すぐに教室から出て行ってしまったため、話しかける機会を逃してしまって。
同じクラスになって四日目。
何としてでも、ダンスパーティの前に話しかけたいというアーサーの希望をかなえるため、昼休み、彼女の後をつけることにした。そして、何処かで偶然を装って話しかけるのだ。
彼女がどこで昼食を取っているかも気になっていたし。
教室から出てしばらく、食堂の手前あたりで彼女は数名の女子生徒に話しかけられていた。
僕が知る限り、全く面識が無いはずだ。
無理やり何処かに連れて行こうとしている。
「追いかけよう!」
アーサーが焦っているようだ。
『え~と、どこに行くんでしょうか?』
『貴女は、黙って来なさい』
“彼女”の声が鮮明に聞こえてきた。アーサーがいることで周囲は騒がしいはずなのに、近くにいるかのように、はっきりと聞こえてくる。
不思議に思いながらも、彼女達の後を付いて行く。
やって来たのは、裏庭。
僕達は、彼女達から見えないよう、建物の陰に隠れた。
彼女の前に、8人の女子生徒が立ちはだかる。
『貴女、自分の立場ってものを解っているの?』
たぶん、女子生徒たちのリーダー格らしき少女の声が聞こえてきた。
その後のセリフは、まぁ、家柄自慢のようなものが半分ほど。
アーサーを見ると、かなりお怒りのようだ。
『能力の無いヤツに限って、家柄を自慢したがる』
と、アーサーが時々ぼやく。
目の前の光景は正にソレだ。アーサーが怒るのも無理はない。
「アーサー、落ち着け。君が行ったら逆効果だ。僕が止めてくるから」
女子生徒たちが、彼女に言掛りをつけている原因がアーサーなんだから、ここで、彼が出て行くとさらに騒ぎが大きくなるような気がする。先ずは、僕がこの場を落ち着けてから、彼に登場してもらったほうが効果があるんじゃないだろうか?
『そんなに殿下と同じクラスになりたいのでしたら、私に構っていないで、勉強したほうがよろしいのでは?』
僕もそう思うよ。成績が良ければ、平等に同じクラスになれる訳だから。どうしてソレが解らないのかな?
パチーーン。
しまった・・・。彼女の正論に反応した生徒が手を上げたようだ。
「アイツら・・・」
アーサーの発言から、女生徒たちはすでに貴族令嬢とは思われていない。
「僕が止めに入るから、ブライアンはアーサーをよろしく」
興奮するアーサーの世話を頼み、さて、どうやって登場しようかと考えていると、
「あのー。そろそろいいですか?私、約束があるんで、さっさと終わらせたいんですけど?」
彼女、アイリスから声がかかってきた。
「あれ?気付いてた?」
僕は、さりげなさを装って、彼女達の前に出て行った。
「ひっ・・・。カーティス様・・・」
女生徒達が僕の顔を見て驚いた。
「いつからそこに・・・?」
女生徒の中の一人が尋ねた。
「結構、初めのほうからいらっしゃいませんでした?」
「そうだね。君達が彼女に声をかけた頃からかな?」
アイリスに質問され、答える。
「でしたら、止めてくださればよかったのに・・・」
恨みがましく言っているが、表情は楽しそうだ。
「いや、初めはそうしようかと思ったんだけどね、君があまりにも平然としていたから面白くって」
アーサーが珍しく怒っていたのもね。
「ディルモア伯爵家のセフィーラ嬢だよね」
アイリスの正面に立っていた生徒の名前を呼んだ。
「そして・・・」
そこにいた全員の家名と名前を言っていく。
C・D組の生徒達だ。
「君達は『自分の立場』を理解しているのかな?」
さり気なく、アイリスの横に立つ。
「学園の基本方針は【成果主義】。“各々の実力や成果を評価し、それに見合った権限を与える。生家の階級は関係ない”と、入学式で説明されたはずだが、聞いていなかったのか?」
生徒達、一人一人の顔を見る。何人かの顔色が青褪めた。思い出したのかな?
「聞いていなかった?または、理解できていないのかな?」
彼女達は何も言い返せない。
「君達に分かりやすく説明してあげるよ。学園では身分ではなく、実力試験等の上位の者が立場が上だってことだよ。A組の彼女のほうが君達よりも上だって事。君達の憧れの“アーサー様”と同等の立場って言ったほうが分かりやすいかな?アーサーもそのことを認めているよ」
アーサーは精進する人物が好きなんだよね。だから、アイリスはもちろんだけど、クリフのことも認めていて、彼とも仲良くなろうと努力している。
「それに、1対8って卑怯じゃないかな?アーサーってそういうの嫌いなんだよね」
彼女達の顔が益々青ざめていく。
「彼女の言うとおり、まじめに勉強して来年同じクラスになるように努力したほうがいいんじゃない?かなり・・・努力しないと、君達じゃ無理か・・・。あ、ちなみに彼女は、アーサーと同率で一位だったから。もしかして、正々堂々と勝負を挑むのが無理だったから、こんな事をしたのかな?」
これぐらいの嫌味、言ってもいいよね。
「それから、僕が一人でここにいると思う?」
そろそろ出番を作ってやらないと、ブライアンが大変だ。
「私達も、話は初めから聞かせてもらった」
アーサーとブライアンが現れた。
「大勢で一人の人間を攻撃するなど、君達の言う“立場”に相応しい行動なのか?それとも、それが許されるとでも思っているのか?将来、人の上に立つことになるかもしれない者のすることではない。私の君達に対する評価は地に落ちた」
アーサーの言いたいことを要約すると、
『私のお妃候補のリストから除外。将来の王妃としての資質ナシ!』
だろう。彼女達が理解できているかは疑問だが。
アーサーに嫌われたことは理解できたようで、彼女達は絶望的な表情で座りこんでしまった。
「ねぇ、カーティス様。そろそろ、私、行っていいかしら?」
アイリスが僕の名前を呼んでくれた。
「ん?聞きたい事があるんだけど?」
いつから僕達のことを気付いていたのかなど、色々と。
「後でいいかしら?人を待たせてしまっているから」
手にしているお弁当を見せられた。食べる約束をしているのだろう。誰と?
「分かった。頬、腫れているけど大丈夫か?」
赤くなっている頬が気になった。
「ああ、これぐらいなら・・・」
彼女が赤くなっている頬に手を当てた。
ほんの数秒、彼女が手を当てただけで、すっかり腫れは治まっていた。
「ほらね。じゃあ、話は放課後。それから、ありがとう」
「・・・ああ。じゃあ、放課後・・・」
今のは、治癒魔法?僕には初めて見る魔法だった。
「何があったんだ?彼女は確か、アイリス嬢だよな?」
いつの間にか、アーサーの元へジークさんが来ていた。そして、何故か彼女の名前を言う。
「そうです。同じクラスのアイリス嬢です。何故、彼女の事を?」
アーサーが不思議そうに訪ねた。
「ああ、先日、保健室で世話になった。で、いったい何が?」
簡単に説明する。
それを聞いたジークさんは、女生徒たちに冷たい視線を投げつける。
「最低だな・・・。正々堂々と勝負を挑めばアーサーの評価も上がったのに」
「そうですね。例え負けたとしても、努力と潔さは評価の対象となったんですけどね」
放課後。
教室は使用できないので、食堂で話しをすることにした。
「それで、話は何でしょう?カーティス様。“防音・結界”」
僕達の近くに人が近付かないように、そして、話を聞かれないように、彼女が結界魔法を使用した。
彼女は何気なくかけたようだが、これって“実戦魔法”の“二重がけ”だよね?
彼女の実力は、僕達の遥か上のようだ。
アーサーがこの事を知ったら・・・。今は考えないようにしよう。
「・・・ああ、カーティスと呼んでくれて構わない。かしこまった話し方もしなくていい」
「じゃあ、私の事もアイリスで」
彼女の名前を敬称無しで呼ぶ許可をもらえた。
先ずは、アーサーからのお詫びの言葉を口にする。言掛りを付けられたこと、怪我をさせてしまったこと。
彼女は、驚いていた。謝られるとは思っていなかったらしい。
もう少し早く止めに入っていたら、彼女に怪我をさせてしまうことは無かっただろう。
だが、彼女はどちらのことも気にはしていなかった。
それから、聞きたい事を聞いていった。
いつから、僕達が彼女の跡をつけていたことに気付いていたか?
僕達に魔法をかけて、会話を聞きやすいようにしたのか?
ジークさんと知り合いなのか?
「えーと、先日、保健室に行った時に、会ったと思う・・・。エレーナ先生に頼まれて、ちょっと怪我の手当てを手伝ったかな・・・?」
「魔法で?」
「ええ。骨折とかしていないか確認したけど・・・」
「なるほど、それでか・・・」
ジークさんも、彼女の魔法が特殊なのに驚いて覚えていたのだろう。
「あの、私からお願いがあるんだけど、いいかな?」
アイリスが遠慮がちに言ってきた。
「出来る範囲のことならいいけど」
「今回の件もあるから、出来れば教室以外では話かけないで欲しいの。ほら、三人って目立つでしょう。今だって、睨まれているし・・・。挨拶程度の関係でお願いできないかな・・・?」
周囲を見回した。
明らかに、アイリスを睨んでいる女生徒たち。アイリスの代わりに僕が睨み返すと、慌てて目を逸らした。
「・・・分かった。アーサー達にもそう言っておく・・・。また、言掛りをつけられた時は、伝えて欲しい。何とかするから・・・」
彼女とこれから食堂で話すことは出来ないのか・・・。残念だが、今日の様な事が再び起こる可能性があるのだから、仕方がない。アーサー、残念がるだろうな・・・。でも、教室では話しかけることが出来るのは良かった。
「ありがとう。じゃあ、私はこれで“解除”」
食堂ってこんなににぎやかだったんだ。彼女の防音結界のすごさを思い知る。
「寮まで送っていこうか・・・?」
「職員室に寄らなきゃいけないから。また、明日、教室で」
彼女はそう言っていたけど、アーサーから『彼女が無事に帰り着くまで見ててくれ』って頼まれてるしな・・・。
食堂の女子生徒達のことも気になるから、彼女が寮に帰りつくまでは離れた場所から見ていた。
たぶん、気付いているんだろうな・・・。




