ジーク 夏休みの思い出 ― 実習編 ―
今回は、ジーク視点です。
2018/04/22 魔術師を魔法使いに変更
夏休み一週間前。
夏休みに行われる実習のグループ分けが発表された。
実習は、本人の希望と能力に合わせて、『魔物討伐』『狩猟』『魔法研究所での研修(雑用)』と分けられる。
俺は『魔物討伐A-1』となっていた。
「今年の実習は、『魔物討伐』をAとBの2コース用意した。昨年までは、Eランクの冒険者が行く領域での実習だったが、BコースはDランクの冒険者が行く領域での実習。AコースはCランクの冒険者が行く領域での実習となる。今回は、前年までと違って実際に君達が戦うのは最終日だけになる。初日と二日目は、同行する冒険者、特に魔法使いの戦い方をよく見ておくように」
Aコース、第1グループは俺を含めて男子5人。俺以外は魔法での戦いを得意とする者達だ。俺は、魔法よりは剣での戦いの方を得意とする。
実習初日。
「アイリです。魔法担当です」
同行する冒険者、特にアイリと名乗った魔法使いを見て俺達は驚いた。
俺達と同じぐらいの年の黒髪に黒い瞳の少女だ。
担任の言っていた言葉を思い出す。
『魔法使いの戦い方をよく見ておくように』
実際、彼女の戦い方は想像を超えていた。
「派手なのお願いね」
引率のエレーナ先生が彼女に言った。
「森の中なので、火系の魔法が使えないのが残念です」
そう言いながら彼女は、最初に現れた体長2メートルほどの爬虫類系の魔物に、魔法で多くの小石を高速でぶつけ穴だらけにしていた。不思議なことに魔物から血は出ていない・・・。
「あれは、小石ではなくて氷の粒ね。傷口を凍らせて、血が飛び散らないようにしているの。血の匂いで他の魔物が寄ってくることもあるからね」
同行していた女性の冒険者が説明してくれた。
その後も、少女は一人で次々と魔物を倒していった。それも、変わった方法で。
魔物を氷柱の中に閉じ込めたり、魔物の足元に大きな穴を開け、穴に落ちた魔物の上に大きな石を落としたり、竜巻を起こして魔物を遠くに飛ばしたり・・・。
学園で習ったことが無い魔法の数々に、日が暮れる頃には俺達(特に他の4人)はすっかり自信を失っていた。一応、学年で魔法の腕前は上位なだけに・・・。
「全く、まだ初日よ。何へばっているの。野営の見張りもあるのに・・・」
エレーナ先生が呆れながら俺達に回復魔法をかけてくれた。疲れた身体が楽になった。
例の少女は、元気に夕食の準備の手伝いをしている。
今日は、ほぼすべての魔物を彼女一人で倒していた。あれだけの魔法を使っていたのに・・・。
「あなた達が彼女と同じ魔法を使用したら、すぐに魔力切れになるでしょうね。学園で習った実戦魔法は、冒険者からすれば入門編。初歩の初歩。今日出た魔物も倒せるかどうか・・・。明日は、もっと強い魔物のいる領域に行くからね。楽しみだわぁ」
今日の魔法もすごいと思ったが、明日はもっとすごい魔法を見ることが出来るかもしれない。
二日目。
今日は、昨日とは違い、冒険者が協力して魔物を倒すことになっていた・・・が、
「魔物が弱すぎるっ!!」
エレーナ先生が怒っていた。
俺から言わせると、魔物が弱いんじゃなくて、冒険者が強すぎるのでは・・・。
昨日よりもランクが上の魔物なのだが、それを一撃で倒している。それも各人が・・・。
「これじゃあ、お手本にもならないわ。ヒルダ、何とかして」
「じゃあ、こうしましょう。アイリ、ヴィクター達には必要ないけど、強化や援護などの魔法をお願い」
「了解!じゃあ、次からそうします」
すぐに、魔物が現れた。
「金色ウサギ、発見!」
金色の毛で覆われている、ありえない大きさのウサギがいた。
「停止!」
アイリが何故か残念そうに魔法をかけていた。
そこに、ジムさんの一撃。
あっけなく、黄金ウサギは倒された。
次の魔物は大型の熊がさらに大きくなった物だ。
「結構傷だらけだわね。素材としての価値は無いわね」
ヒルダさんの言葉どおり、魔物にはたくさんの傷跡があった。
「じゃあ遠慮なく、属性付加、火」
アイリの呪文に、ヴィクターさんの剣が赤色に輝き出した。
「それっっ!!」
剣を一振りすると、剣の先から炎の球が飛び出した。それも、かなり大きな・・・。魔物とほぼ同じ大きさだよ・・・。
魔物は火達磨になって、あっけなく・・・。
「アイリ、解体するから冷却してくれ。肉は今日の夕食だな」
「は~い」
呆気にとられている俺達の横で、エレーナ先生が楽しそうだった。
その夜、俺はアイリに『属性付加』の魔法を教えてもらった。
会話の中で、彼女が年下と知った時は、軽くショックを受けた。
彼女の教え方は、丁寧で解りやすかった。
実習三日目。
今日は、俺達が魔物を倒すことになっていた。
早速、昨夜教えてもらった『属性付加』の魔法を使用する。
始めのうちは、魔法の効果をイマイチ実感できなかったが、次第に目に見えて効果が分かるようになっていった。氷を付加すると、魔物が凍っていくようになったのだ。
自信がついてきた頃、Dランクの魔物をヴィクターさんが発見した。
本来なら、冒険者が相手をするのだが、
「ジーク、俺達がサポートするから、やってみないか?」
と、ヴィクターさんが言った。
「はい!!お願いします!」
敵がコチラに気付いて無いので、ヒルダさんから魔物の説明を受け、自分なりの作戦を立てる。
作戦を聞いたヴィクターさんが頷いてくれた。
ただ、後ろから近付いて気付かれた時、本能で攻撃してくるので少々危険らしい。それよりは、わざとコチラに気付かせて、相手が驚いている隙を突いて攻撃したほうがいいらしい。
先ずは小石を敵に投げてみる。
コチラに気付いた敵は、驚いているのか、動きが止まっている。
氷属性を付加した剣で、両腕を攻撃する。
傷つけた部分から氷が広がっていき、両腕の動きを封じ込めることに成功した。
「脚も攻撃して!!」
ヒルダさんから指示がでる。
確実に敵の動きを封じ込めることを考えて、足首を攻撃する。
狙いどおり、地面に氷で固定された。
両腕への攻撃と、足首への攻撃で、敵の身体が徐徐に氷に覆われていく。
「属性を火に変えて、心臓を狙って!」
ヒルダさんの指示で、剣の属性を火に変える。
たぶん、属性を付けなくても敵は倒せる。
しかし、あえて属性を付けたのは、火属性の経験を増やしたかったことと、試したいことがあったから。
昨夜の彼女の教えを思い出しながら、敵の心臓に剣を突き立てる。
敵は絶命したが、燃えることは無かった。表面は。
ただ、肉の焼ける匂いと、手足を覆っていた氷が解けていく様子から、内部には熱が伝わったのが解った。
周囲に被害が出ない様に火属性の魔法を使うには、どうすれば良いのか?内部だけ焼くことは可能か?
それを試してみたかった。
後ろを振り向くと、アイリと目が合った。
早く、彼女にお礼が言いたい。
俺は彼女に近付いて行った。
「すごいですね、ジークさん!」
「君のおかげだよ。ありがとう」
Dランクの魔物を、作戦どおりに倒せたことが嬉しくて、思わず彼女の両手をしっかりと握ってしまった。
彼女の驚いている顔を見て、「しまった」と思ったが、手を離すことができなかった。
彼女から、学園では学べない魔法を教えてもらいたい。それをお願いしよう・・・。
「それで・・・、あの・・・」
手を握ってしまった照れから、言葉が出ない・・・。
「おーい!!アイリ、ジーク。珍しい物が出てきたぞ!!」
ジムさんの呼ぶ声に、握っていた手を離してしまった。
ジムさんが見せてくれたのは、ハート型の魔石だった。
「これは、ジークが倒した魔物から出た物だから、ジークの好きなようにするといい」
そう言って、ジムさんが俺に手渡してきた。
ヒルダさんが言うには、大きさから魔石としての値は低いが、アクセサリー用としては高値が付くらしい。アクセサリー用か・・・。それなら・・・。
「アイリ、この魔石を受け取ってくれ!」
記念として持っておくには可愛すぎるし、かと言って、売るのは寂しいし、それならば、魔物を倒すことを可能にした魔法を教えてくれた彼女に貰ってほしい。そう思ったのだが、
「はぁ?!だって、これ、ジークさんの記念の魔石でしょ。何で私が?」
そう言って、なかなか受け取ってくれない。
「いいじゃない。貰っておけば」
「そうね、魔法を教えた報酬と思えばいいのよ」
ヒルダさんとエレーナ先生が、俺の言い分の味方をしてくれる。
それでも遠慮するアイリにエレーナ先生が一言、
「諦めなさい・・・」
笑顔(目は笑っていない)で言った。
「はい・・・」
やっと彼女が受け取ることを了承してくれた。
魔石は、一旦ヒルダさんに預けて、後日、ヒルダさんとアクセサリー職人のところに持ち込むことにした。
その後、魔物が出てくることも無く、実習は無事に終了した。
次回、『ジーク 夏休みの思い出 ― 冒険者見習い編 ― 』の予定です。