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夏休みの予定

「アイリス、君は夏休みどう過ごすのか?」

 生徒指導室で、担任のクレスト先生に尋ねられた。

 夏休み前の個人面談だ。

 

「冒険者ギルドで働きながら、冒険者の仕事をする予定でいますけど・・・・」


 夏の冒険者ギルドは忙しい。 

 日が長いので、活動時間が長くなるだけでなく、この時期にしか現れない魔物や、採取できる薬草などがあるからだ。期間限定のものは、貴重なので依頼が増える。買取価格も高いので、、冒険者としては稼ぎ時なのだ。

「冒険者のランクは?」

「条件付きでDプラスです」

 初級と中級の中間のD。中級程度の魔法が使えるので“プラス”が付いている。

 単独ではDランク以上の依頼は受けられない条件付きだ。年齢が主な理由だ。

「なら、問題無いな」

「・・・?」 

 先生の言った、問題無いの意味が分からない。

「3年生の夏休みの実習に、同行してほしい。冒険者として」


 3年生は、実際に魔物のいる地域に行って魔法を実践する“実習”が夏休みにあるそうだ。


「冒険者ギルドには、毎年、実習の同行の依頼を出しているのだが、その中の一人として君が同行してもらえるとありがたいのだが・・・」

「構いませんよ。元々、冒険者の仕事をする予定でしたので」

「助かる。3年の先生と冒険者ギルドには連絡を入れておく」

 先生は、安心した表情になった。


「ところで先生、私の期末テストの結果はどうだったんですか?」

 先日あった期末テスト。

 この結果によって、夏休みの課題が決まるので、がんばった。課題が多いと、仕事できないからね。

「ああ、歴史、地理、数学、すべて満点だった。なので、夏休みの課題は免除。そのかわり、実習の同行。宜しく頼む」

「はい。では、失礼します」

 学園公認で冒険者の仕事が出来る。

 先生に「ダメ!」と言われたらどうしようかと思ったけれど、安心した。


 気分がいいので、寮に帰る前に、特別な方の図書室に寄ることにした。

 ドアには鍵がかかっていなかった。ウィルさんがいる。

「こんにちは~~」

「いらっしゃい。今日はどうしたの?」

 ウィルさんが笑顔で迎えてくれた。

「ちょっと、調べたいものがありまして」

「『リュウグウ国』のこと?」

『リュウグウ国』は、日本によく似た国だ。それは時間のある時にゆっくりと調べることにして、今日の目的は、

「他国の料理です」

 先日、ここを訪れたときに見つけた。ここの図書室には、各国の料理の本があるのだ。 

 せっかく、寮に素晴らしいキッチンがあるのだから、色々な料理に挑戦したい。

 本は、共通語で書かれていないためなのか、生徒が利用する図書室には無かった。

「へえ、これはイーリア国の料理の本だね。小麦の栽培がさかんだから、小麦を使った料理が多いのが特徴だね。こっちは、フィルド国だね。豆と肉を使った料理が有名だよ」

 ウィルさんは、表紙の文字を見ただけで、どこの国か言い当てた。

「詳しいんですね。それに、文字でどこの国か分かるんですね」

「昔、短い期間だけど留学していたから」

 ウィルさんは、語学が堪能なようだ。だから、この図書室を任されているのかもしれない。

「上手に作れるようになったら、味見お願いしますね」

「ああ、僕でよかったら」

 笑顔で答えてくれた。ウィルさんの笑顔は、なんだかホッする。


「ウィルさんは、学園が夏休みの間、どう過ごすんですか?」

 約2ヶ月の夏休みだ。期間中、ずっとここに居るのだろうか?

「イーリア国に、本を探しに行く予定だよ。アイリスは?」

 生徒指導室でのクレスト先生との会話を話した。

「へ~ぇ。3年生の研修に冒険者として参加ね。アイリスってすごいんだね」

「もともと、夏休みは冒険者として依頼を受ける予定だったから、ちょうど良かったです」

「怪我しないように、がんばってね。心配ないとは思うけど」

 そう言って、ウィルさんは私の頭を優しくなでた。



***************


 ―― 職員室で ――


「アイリス・ソーマが、実習に冒険者として参加してくれるそうです」

 3年生の学年主任に報告した。

「そうか。3年生達のいい刺激になれば良いが・・・・」


 実習に同行する冒険者は、若者の育成を得意とするベテランの人達をギルドが紹介してくれる。ベテランだけあって、年齢は40代以上。

 生徒達は冒険者の指示に素直に従って行動するが、自ら考えて行動はしない。

 将来、冒険者になったり、魔物と戦う職業に就くことが無い所為だろう。

 最近の生徒は、雑魚の魔物でさえ四苦八苦している。依頼を受けて同行してくれている冒険者に申し訳ない。

 かつて、有力な魔術師達を輩出した学園のはずなのだが・・・・。


 そこで、この状況を打開するために思いついたのが、私が担任するクラスの生徒、アイリス・ソーマを実習に冒険者として参加させる事だ。

 彼女は、この学園に入学するまでの数ヶ月間で、すでに中級程度の魔法を習得していた。学園の生徒達で、在学中にこのレベルまで到達する者は、残念ながら今はいない。


 今回の実習は、今までと内容を変えてある。

 今までは、Eランクの冒険者達が活動する範囲で、生徒達の実践を中心にしてきたが、今回は、C・Dランクの冒険者達が活動するエリアまで範囲を広げることになっている。

 生徒達はもちろん戦えないから、同行する先生に結界を張ってもらって、アイリスを中心に冒険者達が活躍する姿を見学させるのだ。


 話が出たときは、自分が担任する生徒なので心配だったが、彼女の冒険者ランクを聞いて安心した。

 冒険者ギルドからも、彼女の実力はCランク並みと聞いている。ただ、まだ15歳ということと、冒険者になって1年未満と言うことで、ランクは“Dプラス”らしい。まだ、同行者無しではEクラスの依頼しか受けられないそうだ。

 

 冒険者ギルドの方では、アイリスが参加することを聞いた上級クラスの冒険者達が依頼を受けてくれたそうだ。

 今年の実習は面白い事になりそうだ。

 自分が同行できないことを残念に思った。

 

 

 

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