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きっかけ

 はるか後方から聞こえてきた悲鳴と叫び声が近づいてくると共に、地響きとガラガラガラという大きな音が次第に大きくなっていく。

 これは危険だ!!

 後ろを振り向くと、暴走した馬車が間近に迫ってきた。

 とっさに避けたはずだが、私の意識はそこで途切れた・・・・・。




 それにしても・・・・、今回は暴走馬車か・・・・。

 前回は、自動車だったよなぁ・・・・・。

 友人の家からの帰り道、大通りの交差点で信号待ちをしていた時、車が突っ込んできたんだよなぁ。

 あれはすごく痛かった。「痛い!!」と思った直後、体が軽くなって、「あぁ、私死んだんだ」って気付いた。

 相馬愛理、享年16歳。高校入学して半年もたっていなかった。

 そして、今回のアイリスは15歳。短い人生だった。

 孤児の私を本当の娘のようにかわいがってくれた教会の皆さん、冒険者街の皆さん、ありがとうございました。皆さんの幸せを天国から・・・・・・。


「ちょっと、アイリス、起きなさい!」

「ほぇっ?」

「何、縁起でもないこと寝言でいってるのよ!!」

 冒険者ギルド職員のヒルダ姉さんに叩き起こされました。

「え?私、何か言ってました?」

「『短い間でしたがお世話になりました。天国から見守っています』って、どういうこと?」

「いやぁ、私死んじゃったのかなぁって思ってました」

「死んでないし、ついでにすごい事になってるのよっ!!」

「何がですか?」

「あなた、暴走馬車を魔法で止めたのよ!」

「え~~?私、簡単な治癒魔法しか使えないことぐらい、ヒルダ姉さんだって知っているじゃないですか」

 擦り傷、切り傷、打ち身などの、前世では絆創膏やシップを貼っておけば治るような軽度の傷しか治療できないほどのしょぼい能力だ。

「だから、驚いているんじゃないのっ!あれから・・・・・」


 ぐきゅるるるる~~~~。


 ヒルダ姉さんのセリフを私の豪快なお腹の音が遮った。

「まったく。まあ、二日近く寝てりゃあお腹も空くわね。何か持ってくるから。話はその後」

 ヒルダ姉さんが部屋から出て行った後、気が付いた。

 ここは、教会の施設にある私の部屋ではなく、冒険者ギルド近くのヒルダ姉さんの部屋だ。


「どうして私ヒルダ姉さんの部屋にいるの?」

 食事を持って戻ってきたヒルダ姉さんに尋ねる。

「現場に駆けつけた衛兵が隣の酒場の常連で、酒場に連絡がきたのよ。それに、教会よりも(うち)が近かったし、こちらのほうが人手があるから看やすいしね」

 確かに、教会は病院も兼ねているから忙しい。

「食べながらでいいから、これまでの状況を話してあげるから、聞きなさい」


 まず、馬車のことだが、乗っていた人は無事らしい。

 高貴な身分ということだが、お忍び中のことだったらしく、はっきりとは明かしてもらえなかったそうだ。

 周囲にも被害は無かったらしい。


「でも、本当に私が止めたんですか?他の人の間違いじゃないんですか?」

「私も初めはそう思ったんだけどね」


 現場にも魔法が使える人はいたらしいが、魔力は中級程度の人たちばかりで、自分の周りの人たちに結界を張るのが精一杯だったらしい。私のところまでは無理な距離にいたとの事。


「その人たちがね、アイリスから魔力が流れているのを感じたって言うのよ」


 魔法が使える人は、ある程度、他人の魔力を感じることが出来る。

 その人たちの発言だ。間違いは無いとの事。


「それにね、私も感じるんだけど、今のアイリスと以前のアイリスとでは魔力の“質”が違うのよ」

「魔力の“質”ですか?」

「うまくは言えないんだけどね、魔力の大きさは以前から大きかったけれど、簡単な治癒魔法しか使えなかったでしょう。魔力の大きさと使える魔法の能力のバランスが悪かったのよ。私とカール神父様からすると不思議だったのよ。何か制限をかけられているようで」


 カール神父様とは、私がお世話になっている教会の神父様のことだ。神父様は、かなりの魔力持ちで、高度な治癒魔法や浄化魔法などが使用できるため、この冒険者ギルドがある地区の教会を任されている。


「制限ですか?封印とかではなく?」

「そう、封印ではないの。封印された気配が無いの」


 ヒルダ姉さんは、かけられた魔法の種類を感じとることが出来る。もちろん神父様も。


「それが今は違うの。今のアイリスからは、はっきりと、かなり高度の魔法が使える気配がするの。魔力の大きさも以前よりも大きくなって、バランスが取れたって感じ。魔力の量も増加しているし。ためしに何か使ってみる?例えばこのコップに水を溜めるとか・・・・・」

「こうですか?」


 私がコップの縁を触ると、今まで空だったコップに水が満たされた。


「・・・・・・何、コレ・・・・・」

「えっと、水、溜めてみました」

「いや、そういうことでなくて、どうやったの?」

「なんとなく・・・・?」

 コップの中に水が溜まったらいいなと思いながら触っただけだ。

「・・・・ちょっと、神父様に報告してくる。その間、これでも読んでなさい!」

 ヒルダ姉さんは、慌てて出て行った。


 ヒルダ姉さんから渡された本。

 ジャンルは冒険恋愛小説だろうか?

 ヒロインがイケメン勇者と共に魔物に取り付かれた敵と戦う、といった内容だ。

 結構濃いキスシーンがありますよ。アイリスには刺激が強いかも。今の愛理つきのアイリスは平気ですよ。

 物語の最後は、勇者は新たな敵と戦うため、ヒロインの元を去っていくのだが、ヒロイン、止めないのかい!

 最後のページには、丁寧に次回予告が。

 え?続くのコレ。

『次回、新たなヒロイン登場!』

 前世で父が大好きだったスパイ映画を思い出した。




「アイリス。大丈夫かい?」

 神父様がヒルダ姉さんに連れられてきました。40代半ばのイケメンです。

「診察をしようか」

 ベッド脇のイスに座り、脈を測ったり、熱を測ったりした後、私の目をじっとのぞきこみました。濃いブラウンの瞳で見つめられると、前世で彼氏いない歴=年齢の私は照れてしまいます。

「・・・・・。そうか、そういう事か」

 神父様が何か納得したようです。

「どうしましたか?」

 ヒルダ姉さんが心配そうに尋ねた。

「いや、馬車に驚いたことで魔力が開放されたようだね。ついでに、アイリス自身も解放されたみたいだね」

「アイリス自身の解放・・・ですか?」

 ヒルダ姉さんは不思議そうだ。

「ああ、魔力の大きさと使える魔法のバランスが悪かったろう。それが、アイリスの性格にも影響して、本来のアイリスではなかったようだ。今のアイリスからは、以前のような不安そうな気配は見られない。本来のアイリスは活動的な性格のようだね」

「ソウカモシレナイデスネ」

 神父様は気づかれているようだ。

「目が覚めたばかりだから、大事をとって今日までは、こちらでお世話になりなさい。ヒルダさんにもそうお願いしてあるから。明日、これからのことについて話そう。それでは、ヒルダさん、アイリスをよろしくお願いします」


「神父様がおっしゃった事はよく分からないけれど、今はゆっくり休んで、落ち着いてから一緒に考えましょう」

 神父様を見送った後、ヒルダ姉さんが言った。

 私はなんとなく分かってはいるけれど、うまく説明できないのと、説明できても信じてもらえないだろうから、ただ頷いた。面倒くさいというのもあるけどね。




「生まれ代わりをどう思うかい?」

 神父様とこれからの事を話し合うために、神父様の部屋を訪ねた。その、第一声がこれだった。

「どう思うというのは・・・・?」

「生まれ変わった感想は?と、言ったほうがいいのかな?」

 完全に気づいていらっしゃいます。

「まだ、実感がわきません」

「まあ、前世の記憶を覚えているのは、幼い子供が多く、成長するにつれ忘れるものだが、意識の奥深くに誰もが残っているのは確かだ。君の場合は、その記憶が微妙なところにあった。何かをきっかけにして、思い出されるようになっていたと考えられる」

「何故、そう思われるのですか?」

「魔力のこともあるが、アイリスが以前、私に言ったのだよ。『何か大切なことを忘れている。とても大切な事なのに思い出せない。今の私は本当の私ではない』とね。その時は、こちらに引き取られる前の幼少期の記憶のことだと思っていたのだがね」

「では、私は成長してから思い出すことを前提としていたということでしょうか?何故なのでしょう」

「大げさかもしれないが、君が“選ばれた者”だという可能性がある。この国、またはこの世界に何等かの影響を与える存在かもしれない」

「それ、責任重大すぎて、私には無理です」

 国や世界に影響なんて・・・・・重い。

「影響と言っても、ほんのわずかかもしれないよ」

「かなり大きな影響の可能性もありますよね」

「そうとも、受け取れるね」

 神父様は心配しなくても大丈夫と微笑んだ。正に、聖職者の微笑み。癒されます。

「とりあえず、君が前世の記憶を思い出したことは、私達だけの秘密として、これからどうするかを決めなければいけないね」

「そのことなのですが、魔法を使えるようになったので、冒険者になりたいのですが」

 前世ではRPGが好きだった。だからだろうか、冒険者ギルドのお手伝いをして、冒険者さん達から話を聞くのがすごく楽しい。簡単な治癒魔法しか使えなかったから、冒険には行けないけれど、ギルドに戻ってきた冒険者さん達の傷を治療するのが楽しかった。冒険者さん達にとっては、ほっといても治るかすり傷だけど、「お話を聞かせてもらったお礼」と言って治療した。

「冒険者になるのは反対しないが、まだ魔法が使えるようになったばかりだ。もっと訓練してからのほうがいい」

「どうすればいいのでしょうか?」

 訓練といわれても、方法が分からない。

「実は、君が助けた馬車の持ち主が、魔法学園に君を通わせたいと申し出があった」

「私を、学園にですか?」

 王宮専属の魔術師が講師を勤める、かなり高度な魔法を学べる学園で、主に貴族や裕福な人が通う、授業料お高めな学校だったはず。

「授業料、生活費、月々の小遣い、すべて出してくれるそうだ!」

「宜しくお願いします!」

 即答。学べる機会を逃してはいけない。

「それでは、その支援者の方に連絡しておこう。入学まではまだ数ヶ月ある。私が教えられる魔法も限られている。その他の魔法は冒険者ギルドにお願いしておくから、ヒルダさんや冒険者の方達に教えて頂きなさい」


 冒険者になるための、私の魔法修行が始まった。



 

他の作品の合間に書いてます。なので、更新の間隔が空くことになると思いますが、宜しくお願いします。

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