お買い上げ頂きました
気がついたら人魚だった。
もう一度言おう、気 が つ い た ら 人 魚 だ っ た 。
しかも上半身裸。
あっれえ?!人魚さんって貝ブラとか着けてんのが普通じゃないの?!って思って周り見たけどないやー
やーん、なんて思いつつどうしたらいいかも浮かばないし途方にくれてた。いや、言うほど羞恥心もわかなかったしこの際真っ裸なのはまぁいいかと。
んでどうしてこうなったと悩んでいたら腹が減りまして。なんか食えるもの……とあっちうろうろ、こっちうろうろと探しまくってたら目の前に美味そうな二枚貝の身が出現。
なんで剥いてある身がそこに、とか考えるよりも先に美味そう!食いたい!って深く考えられもしないままにうわぁいって飛びついたまでは覚えてる。
でも貝に指先が触れた瞬間、なんかパァッと貝が光って、蛍光色のピカピカした光の檻が海底の泥の中からズァッと競り上がってきてびっくりして固まってたら檻と共にあれよあれよと引き揚げられて。
引き揚げられた先には小汚いおっちゃん数人。
なんだこのおっちゃんたち!あっ、私まっぱだった!ちくしょう見物料払えー!!って思ってたらフッと意識が途絶えて。
どれくらい時間が経ったかわかんないけど、はっ!と意識が戻って飛び起きたらゴン☆と頭をぶつけ悶絶して。
暫く痛みと戦ってから顔を恐る恐るあげたら。暗い狭い場所に押し込められてんなぁと。四方を囲む壁をトントン叩いてチェックしてたらまた視界が開けて。
……目の前にズラッと人が並んでましたわ。ちょっとした段差があるあたり、多分ステージみたいなとこにいるのかね?
興味津々って輩もいればあんまりこっちを見てないやつもいる。
なんかこれって競りみたいだな~?人魚だし、やっぱり魚扱いされてんだろうか。……いやでもそうなるとか、解体されたりとか。ノォオオオ!せめて活け作りは止めてください、お願いします!しっかり〆てからで!
なんまいだぶなんまいだぶ、なんて祈りだした私に気を良くしたのかニマニマする競り主(かは知らんが)は指を立て観客に何やらいう。やばい、競り始まっちゃった系?うわあああん、私美味しくナイヨー?無害ヨー?
嗚呼、どうか観賞目的のお客様とか。いないかなぁ…………。お?あの、ちょっと後ろに座ってる大食漢っぽいおっさん、いいんじゃね?
食うのとエロいの、どっちとるかどっこいどっこいっぽそうだけど……見るからに金は持ってそうな格好だし。おーい、おーい!おじさま~!こっち見てみ?大きすぎず、かといってまっ平らじゃないこの手のひらサイズの可愛らしい乳いかが?
おじさまの手じゃ心もとないかもだけど、でもやわこいよ!もちもちだよ?いたぶらずに食うなら好きにしていい……あ、でも腰当たりにある鰓渇くのは困るから引っ張り出さないでね?
水中だからブクブクしかできないけどとりあえず必死に見つめて、目線が合ったぽかったら前方に手を突き出して背筋を可能な限りしゃんと伸ばして美乳アピールついでに髪の毛弄ってみて、この毛艶なんてどうよとかやってみたり。
髪の毛、何だかんだ綺麗なんだよね。旋毛から肩らへんまで青の、途中から毛先に向かって緑。グラデーションみたいになっててちょっといい感じ。鱗は乳白色にちょっとピンク色がかかってるような……?触るとつるつる。うん、気持ちいいぜ。
で。結局どうなったかというと
なんとおじさま、本当に購入してくれたよ。最後明らかに解剖目的だろって感じの白衣の目いっちゃってる系のじいさんとバトってまで買ってくれて。
ありがとう。本当にありがとう、もう最後名残惜しそうにこっち見てたアイツの視線だけで、にやついてるおじさまがめちゃくちゃ愛しく、神に見えてくるっていうね。
と、そんな感じで帰りの道はただひたすらおじさまと見つめ合って、笑顔サービスしたりぷくぷく泡を吐いて動物のシルエット作ってみたり、おじさまを持てなしたりなんかしましたよ。
そんで気付いたけど、言葉通じてないっぽいね。あーって言っても水の中にいるせいか正しい発音になってるか怪しい感じで、ごはーんって言っても首傾げられたしおっちゃーん、はーげ、百貫デブって言っても通じなかった。
でも悪口言ったのはなんとなく伝わったぽくてちょっと怒った顔をしてた。やべ、捨てないで、売らないで~ってピイピイ言い訳と謝罪をしたら機嫌直してくれたけど。