旅の始まり
「ジョイント音」…ガタンゴトンという擬音があてがわれる音のことで、列車の車輪とレール接続点の隙間や段差で生じる音。
「ブレーキ解除の緩解音」…プシューという空気の音で、列車の車輪に押し当てているブレーキパットを離すためにブレーキシリンダーから空気を抜く際に生じる音。
切符を手にする小さな手
鞄を手にする大きな手
指輪かがやく少女の手
切符に書かれた行き先に
鞄の閉じ具が向く先に
指輪の返す光の先に
長い道のりがあるように
確かな一歩があるように
まだ見ぬ道があるように
静かな朝のホームには
静かで冷たい風が吹き
慣れたアナウンスは空に散り
凍えたレールは無機質に
流れる風が運ぶのは
木霊響かせる山の音
タイヤと道路の擦れる音
確かな今日の始まりの音
差し込む光は穏やかな橙
点る光は合図の緑
動く光は列車の黄
小さな手は寒さに震え
大きな手には力がこもり
少女の手から母の手へ変わるとき
ジョイント音は近づいて
駅員の声は張りつめて
鼓動の音は早まって
駆ける足音は徒歩へと変わり
列車は駅へと滑り込む
車掌の笛が鳴り響き
閉まるドアと消える赤
ブレーキ解除の緩解音は
小さな手にある緊張と
胸の中の緊迫と
母の手にある心配を
同時に緩めて解き放す
そうして彼らの行く先に
列車は静かに運んでく
最後まで読んでいただきありがとうございます。今年もあっという間に過ぎてしまい、連載は何も完結させることができませんでした。来年は忙しくなってしまうためまともに書けないと思いますが、何卒、よろしくお願いいたします。
読んでくださった皆さん、よい新年を迎えられることを心から願っております。