愛おしい兄上の子ども
なんかこっちの方がプロローグっぽくなっちゃいました(笑)
光は残酷だと、幼心に植え付けられた。
『どうして?』
最近は不思議で不思議で仕方がなかった。
相手はどうしてそんな事を言うのだろう?そんな想いでいっぱいだった。
『ねぇ、どうして?だって光はやさしいし、あかるいし、それに……』
不意に頭の中に、最近仲良くなった女の子の笑顔が浮かんだ。
闇のように真っ黒な髪と瞳をしているのに、いつも光の匂いを身に纏っているあの子は、光そのもののように優しくて、温かかった。辛い時も、あの子の事を思い出すだけで心が、ほこり、と温かくなった。
『馬鹿ものっ!光に現を抜かすとは…っ!』
急に怒鳴り始めた相手の顔つきは悲しみと怒りで満ちていた。
『おまっ!お前までも私の前から消えてしまうつもりか!兄上と同じように!私を…私だけを一人残して、光の中に消えてしまうつもりなのか?』
ボロボロと泣き喚く相手がとても可哀相に思えたので、ちゃんとズボンのポケットに入れておいたハンカチで、優しく顔を拭いてあげた。
ただ、何と言葉をかけてあげればいいのかなんて分からなかったので、それしかできなかったのだが。
『ぁあ…リョウシュラ……愛おしい兄上の子どもよ』
相手は身体をぎゅっと強く抱きしめて切願した。
『お願いだ……私を一人にしないでおくれ…愛おしい兄上の子どもよ』返事は出来なかった。
相手に答えてしまったら、あの子と会えなくなってしまうような気がしたからだ。
『リョウシュラ…?お返事は?』
優しく、ひどく淋しげな声に、どうしても『うん』と言わざるをえなかった。
相手は返事を聞くなり嬉しそうに微笑んで、頬に冷たいキスをくれた。
心のなかであの子にさようならをした。
それから何年も過ぎた。
どうして光が残酷で、闇が優しいのかも、時間と経験が常識を教えるかのように教えてくれた。
それでも、それでも…
あの子の事が忘れられないでいた。
「リョウシュラよ、愛おしい兄上の子どもよ」
闇の中から囁くような声が聞こえた。
「なんですか、ウィリアム。僕は今機嫌が悪い」
カーテンを隙間なくしめてある部屋の、天涯付きベットでリョウシュラと呼ばれた青年は、身体を起こして苛々と言葉を返した。
「そういらつかないでおくれ、愛おしい兄上の子どもよ。お前に頼みがあるのだよ、リョウシュラ」
闇の中からひどくしゃがれた声が聞こえてきた。
まるで、闇そのものが喋っているかのようだ。
「お前にジパングに行って欲しいのだよ」
「…また父上の遺産探しですか?」
「あぁ…」
青年は軽くため息をついた。内心、これで何度目だ!?とキレていた。
前回はアメリカ、前々回はイギリス。中国もアフリカもエジプトもオーストラリアもロシアもイスラエルも…数え切れないほどの国を旅し、亡き父上の遺産を駆けずり回ってまで探した。
ウィリアムの、叔父の、父上に対する執着には嫌気がさしていた。
父上といっても、僕が産み落とされて、名前をつけるとすぐに光の中に消えていってしまったそうだ。
叔父は必死で捜したらしいが、結局見つからなかったそうだ。
「…怨みますよ、父上」
二重の意味で苦笑しつつ、青年はゆっくりとベットから降りたのだった。
「愛おしい兄上…愛おしい兄上…愛おしい、ラファエラン兄上」