光
ドクン、ドクン、と大きな音が聞こえる。その音は私の鼓膜を通り抜けて体にまで響いていく。
私はただずっと眠っていて、いずれきたる『その時』を待つだけ。
『その時』がやってくれば、私はようやく目を覚ますことができる。
今の私にできるのは、ドクン、ドクンと波打つように鳴る大きな音を聞きながら、眠りの世界で揺られるだけ。
私は宙を漂いながら、時折、体を動かすことがある。するとどこからか『声』が聞こえてくる。
「今、動いたね」
と、優しげな高く細い声が。
外、とでも言うのだろうか。私のいる世界とは別の、どこか遠い場所で幾つもの声が聞こえる。
主に低い声と、高い声。
高い声の者は、私の世界の創造主であろう。
それどころか私を生み出した存在なのではないかとも思っている。
「名前、どっちにするか決めた?」
それから低い声の者が、その『名前』とやらの話をしていく。上手く聞き取れはしなかった。
だが、私は温かくなった。心、そんなものが存在するのならば、おそらくそこが温かさを感じているのだろう。
私は温かな気持ちを伝えるべく、体に力を込めた。体が動く。するとまた、「動いた」と高い声の者が言う。
満たされた。それだけで。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ある時、私の体に異変が生じた。
創造主との繋がりである一本の線が、ねじれてしまったのだ。
私は苦しげに体をもぞもぞと動かす。
どうすればこのねじれをなおせるのだろう。
ドクン、ドクンと相変わらず音は鳴り響いている。
体にまとう温かな水の感触。浮遊感。
私はもう一度、ねじれをなおすべく身をよじらせる。
すると、なんとかねじれはなおってくれた。
まっすぐと繋がった線の感覚に安堵しつつ、私はまた眠りに身を任せた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
また、ねじれてしまった。
この頃、私の過ごしていた世界が狭く感じてきていたから、おそらくそのせいだろう。
苦しい。
私は体を動かす。
そう簡単にねじれはなおらない。
眠れない。
私が何度も体を動かしていると、ふと、声が聞こえた。
「痛い」
そんな、声が。
私はねじれを解くのに必死だった。だからその声を無視してしまった。
大きな低い声が聞こえてくる。ガタン、と一度だけ大きく私の過ごす世界が揺れた。
創造主に何かあったのだろうか。
私は考えながら、また体を動かす。
ねじれはなおった。だが、すでにねじれる癖がついてしまっているのだろう。
体を小さく動かすだけでも、またねじれが再発しそうな気がした。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
この世界をもっと狭く感じるようになった。宙に浮かぶ浮遊感どころか、閉塞感の方が強い。
ねじれはあれから起きていない。起きていないのだが、いつかまた再発しそうな気がした。
その再発しそうだと思う考えは正しかった。
ある時、またねじれが起きた。この時はやけに世界が揺れ動いていて、私は寝返りを打つように体をよく動かした。
それがいけなかったのだろう。
ねじれはどうやら、私の体にまとわりついているようだった。
苦しい。息ができない。
私は必死に体を動かす。
動かすも、段々と力が抜けていって、意識が遠退いていく気がした。
「もうすぐだよ」
そんな声がどこからか聞こえてくる。
どうしても諦めきれなかった。私は必死に体を動かして、ねじれを解こうと、体にまとわりついたそれを引き剥がそうとした。
まだ『名前』すら与えられていないのだ。
私が諦める理由がどこにあろうか。
すると、ずるずると私はどこかへ押し流されていく。ついに『その時』がやってきたのか。
世界の果てに光が透けて見えた。段々と遠くなる意識の中、私は目を開こうと力を込める。
手を光に向かって伸ばした。
私は、生きる。
私は――。




