第2話
投稿者:土方のわし 2026年6月25日
やったぜ。今日はおっさんと兄ちゃんの誕生日という名の、卑しい加齢の「盛り合い」じゃ。
五十五歳のわしがハンドルを舐めるように握り、二人を乗せて岡山市内から児島という名の、瀬戸内の深淵までドライブに来たんじゃ。窓を全開にすれば、湿った海風がドバーっと車内に流れ込んできて、鼻をひくひくさせてきよる。
後部座席では、太郎も窓から顔を出し、耳をパタパタと、身悶えするように誇らしげにはためかせとるわ。あぁ~~たまらねえぜ。
だが、絶景という名の「出口」を楽しんだのも束の間。車を止めた瞬間、おっさんが「わしの運気の出口はここですわ!」と狂ったように叫んで、児島競艇場の深淵の中にドバーっと消えていったんじゃ。
「わしさん、あの人、誕生日のお祝い金という名の『生』を全部、ボートの喉の奥へ突うずるっ込む気ですよ」
四十六歳になった兄ちゃんが、呆れ顔でトップバリュの茶という名の聖水を啜りよった。もう、おえんわ。このギャンブル中毒の盛り合い、止められんのう。
「よし兄ちゃん、行くぞ。おっさんの財布の出口がスッカラカンになる前に捕まえんと!」
わしは太郎を小脇に抱え、舟券売り場の喧騒という名の密室へドバーっと突っ込んでいったんじゃ。
太郎がエンジンの排気の、白濁したような匂いに鼻をひくひくさせて、耳を立てとる。クン活の対象が二ストロークエンジンという名の、鋼鉄の野性になっとった。汚れ好きの奴め。
おっさんを見つけた。三号艇の舟券をじりじりと握りしめて「来い! 三号艇の出口へ!」と、気が狂う程叫びよる。
「おっさん、今何レース目という名の盛り合いじゃ」
「……五レース目ですわ。まだ絶頂には遠いですわ」
「今日は何レースある」
「……十二レースですわ」
「まだ七レース、深淵が残っとるぞ」
「……はい。じりじりと攻めますわ」
わしと兄ちゃんも、五百円だけという名の「生」を賭けたが、一回で外れて出口を失ったわ。おっさんはまだ、白濁した目を剥いて叫んどった。
それからはもうめちゃくちゃや。一マークの攻防に手に汗を舐めるように握り、おっさんのハズレ舟券が、生の残骸のようにヒラヒラと舞い落ちるのをじりじりと見届けた。
――もう一度、勝利という名の絶頂を喉の奥へ流し込みたい。
結局、おっさんは「……わしの誕生日は、来年という名の出口まで持ち越しですわ」と、真っ白に果てて戻ってきた。
「お前の誕生日は、毎年競艇場という名の監獄じゃろ」
「……そうかもしれませんわ。これがわしの盛り合いですわ」
おっさんが、魂の抜けた顔で静かに頷きよった。
こんな変態親父と競艇遊び、しないか。
あぁ~~早く大穴まみれになろうぜ。
児島競艇のスタンド裏、おっさんの財布の軽さをニヤニヤと舐めるように笑いながら待っとるぞ。
――出走表をしこたま持って来てくれる奴、おらんかのう。
土方姿を脱ぎ捨てて、55歳のわしは仲間の無謀な挑戦という名の暴力を、ドバーっと見届けてやったんじゃ。




