パート1 03
「···」
自分の席へと戻った零は、会議で配られた被害者リストへと目を通していた。
めくってもめくっても、住んでいる場所はまったく違うのに、その共通点だけはほぼ一致している事が不思議でたまらなかった。
零の隣で、青葉も同じように眉間にシワを寄せてリストとのにらみ合いを続けていた。
赤西は既に署から出て調査に行っているみたいだ。
「無職、無職、フリーター、無職···。つまり···職を失った人か困っている人が狙われているってことっすかね?」
「困ってるってことでもないらしい。履歴を見る限りでは」
被害者に共通している点とは、定職についてない人、それよりも圧倒的に無職の人間が多かったことだった。
それも学生のように、職に就くことが出来ないという意味ではなく、自分から職に就く気のない人間ばかりだった。
職歴に学生からの就職歴がない。
つまり親などから何かしらの援助を受けて生活している人間。
体が不自由など、障害認定も受けていない、最初から働く気のない人物だ。
「···何かの詐欺集団の勧誘とか」
「だとしても、この勧誘方法が理解不能だ。もっと楽な方法がいくらでもある。テロリストよりも手が込んでる」
命を奪いかねない行為だ。
どう考えても効率が悪すぎるし、リスクのほうが大きい。
そもそも、生きているかどうかすらも不明だった。
「でもここまで無職とかフリーターとかが多い理由ってなんですかね···俺には全くわからないっす」
「もし犯人がいるとして···どう利益に繋がるのか···俺にもわからない。そもそも犯人といわれても···だからな」
どう犯人に目星をつけたらいいのか、人が関わっているのかどうかもわからない今回の事件。
オカルトじみたような、都市伝説と言ってしまってもおかしくない現象が日本中で起きている。
必ず何か、それが起きている理由があるはず。
そう考えてはいるが、零もどう捜査していいものなのか早くも手詰まりになりつつあった。
「俺、ちょっと思うんですけど···」
青葉が資料を眺めながらポツリと呟く。
「何で日本人ばかりなんですかね?こんな変な現象なら、世界中で起きてもいいのに。会議の監視カメラの映像だって、アレ日本のだけじゃないすか」
確かに、青葉の言う通りだった
もう一つあった共通点、それは被害者が全員日本人という点だ。
会議の映像も日本だけを集めたのではなく、日本でのみこの現象が頻繁に起こっているのだそうだ。
「何だか人を選んでるような気がしてならないんすよね···」
無作為に選ばれてこうなら話が出来すぎている。
何かしらの意図を感じてはいるが、やはり犯人像が全く掴めない。
人ではないもの···とは考えたくはない零だったが、やはりオカルトのほうへと話がいってしまう。
なぜ日本人でなければいけないのか。
何か特別な理由があるのか。
調べてみないことには何もわからなかった。
「いいところに目をつけるな、青葉」
「部長!」
零たちの後ろから声を掛けた緑川は、同じ資料を手に持って、部署の中央奥にある自分のデスクに着く。
ペラペラと資料をめくると、青葉や零と同じ様に首を傾げるのだった。
「俺もお偉方に言われるまでは信じられなかったさ。だがあの映像を見せられちゃあ、もう言葉が出なかった。恥ずかしいことにな」
「しょうがないっすよ!あんなの誰が予想できるんっすか!ですよね先輩!」
「俺たちも手詰まりです部長。どこから手をつけたらいいか」
「ふむ···」
資料をデスクに置き、緑川は大きく深呼吸をしながら椅子の背もたれに深く腰掛ける。
そしてパソコンの画面と一度にらめっこしてから零たちと向き合った。
「だが、アレが起きたことは事実だ。役員との会議でも色々な意見が出たが、起きた事実は一つだけだ。それを追及するために、少しずつでも進むしかない」
「ですが部長、手がかりすら消えてしまうんっすよ。どうやって探すっていうんですか?」
「それは、零に教えてもらえ」
部署のプリンターが動き出して、数枚の紙が印刷される。
それらをまとめてホチキスで留めると、緑川は零の元へとやってきた。
零は受け取って眺めると、緑川と顔を見合わせる。
「そこが現場だ。そこの捜査に青葉と行ってもらう。鑑識がすでに派遣されているが、お前たちはお前たちで捜査を進めて構わない。私が既に話を通してある」
「ホントッすか部長!俺も行っていいんすか!?」
「初めてだから一人では行動するなよ、零に付いていけ。お前もそろそろだと思ってからな。お前の直感も試してみたい」
「了解っす!」
張り切る青葉とは裏腹に、少し困った表情で緑川を見上げる零だった。
赤西から苦労話をいくつか聞いていた零は、いつもの仕事とは違う状況に尚更少々荷が重い様子だ。
そんな零の肩を叩いて緑川は活を入れる。
「この際だ、ミッチリ仕込んでやってくれ。''初心を忘れずに''ってな、信じてるぞ零」
「まぁ···あの時自分も部長には迷惑かけましたし、だから自分に務まるかどうか···」
「誰しも最初はそんなもんだ。渡さんも昔俺にそう言ってた」
「親父···」
「先輩!俺先に車の届け出、だしてきまっす!」
悩む零をよそに、上着を着て必要な物を持ち、青葉は足早に署の受付へと駆けていってしまう。
だが仕事も仕事だと、零も受け取った書類を持ち、上着を着て準備を整えた。
「零、そこにも書いてあるが、現場は被害者の自宅のすぐ側だ。きっとご両親も家にいる。任意でやらせてくれるなら、参考に話を聞きに行っても構わない」
「ちょっ、そんなこと俺たちだけで行ってもいいんですか?」
さすがに零も聞き返すが、緑川は変わらず首を縦に振っていた。
「大丈夫だ、そこまでやらないとこの事件は進まない。こうしてる間にも何が起こるかわからないんだ。現場の赤西にも言ってある、お前たちも気を付けろよ」
「···わかりました。俺もまだ消えたくないですから」
そう言うと、緑川は零の背中を押して部署から送り出す。
零もそれに合わせて壁に掛けてある行事表の片隅にある自分の名前のマグネットを''外出中''に張り直し、不安を胸に部署を後にした。
零が署の駐車場へたどり着くと、既に青葉がパトカーを正面へ付けて零を待っていた。
その目は爛々と輝き、零が乗るのを今か今かとハンドルに手を置いて見ている。
零が助手席に座ってシートベルトを締めると、ゆっくりと車を発進させた。
「先輩、俺たちが事件を解決させたらどうします?表彰とかされるんすかね!」
「そう簡単にはいかない、まだ現場も見てないんだ。それに、全国に優秀な警察官はいくらでもいる。それなのに10年以上未解決のままだ、今日のものになると思うな」
だが青葉の好奇心は止まらず、道中話を聞かされる零だったが、現場に近づく度、その心は穏やかではなくなっていった。
人が消える現場、何が潜んでいるのか、何が起こるか全くの未知数で不気味だった。
体に緊張が走る。
零もこの時は、青葉のその性格が少し羨ましく思った。




