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零の世界  作者: GT
パート1
14/20

パート1 14

 石造りの裏道を、二人は止まることなく駆け抜けていく。

 沈んでいく太陽、その背景に浮かんでくる白くて大きな月のような惑星。

 店仕舞い、夕飯の支度、そんな喧騒の中、その場の雰囲気には不釣り合いな格好の男女二人は走る。


「─オペレーター、どうぞ」

''─オペレーター。ゼロ、連絡ナシに今まで何してたの?''

「─説明は後、今はすぐに出口が欲しい。早く探して。彼の時間が無い」

''─わかった、ちょっと待ってて''

「おいっ、あんたっ、何の話をしてるんだ?それに···あんたがゼロ?」


 隣でうっすら会話が聞こえていた零が問い掛けるが、女はウォッチを構えたまま応答を待っていた。


 宿屋から出て以降、二人は走り続けた。

 逃げなければならなかった。

 今この瞬間も、背後から騒がしく二人を追いかける人影が迫りつつあったからだ。


「待てっ!止まれ!止まるんだ!」


 警備官の声が裏路地に響き渡り、騒動を聞き付けた住民たちが窓から扉から乗り出して観察を始める。


「どいて!どいてください!通してください!危ないです!」


 そんな住民たちに零は走りながら叫び、家に入るように誘導していくのだった。


''─ゼロ、聞こえる?''

「─聞こえてる、出口はどこ?」

''─広場の大きな噴水よ。急いで、奴らが来てる''


 ゼロと呼ばれた女は後ろを時折振り返りながら、零を誘導するように走る。


「そこを右に曲がるわ、遅れないで」


 そんな彼女に導かれながら、零もしばらくその後をついていくが、あることに気付く。

 しばらく走っているが全く疲れを感じないのだ。

 彼女のスピードも全く衰えることなく、同じように裏路地を走り続けていた。


「早く捕えろ!ええい!軟弱な奴らめ、鍛え方が足りない!」


 そんな時、後ろから女性の声がした。

 後ろを振り返ってみると、追いかけてくる甲冑姿の警備官を後ろから飛び越え、白い騎士のような防具姿の女性が先陣を切って走ってくる姿が見えた。

 人を軽々飛び越える跳躍力もさることながら、同じ距離を走ってきたのに息一つ切れていない様子だった。

 短いベージュの髪をたなびかせ、他の警備官をおいてけぼりにして同じようなスピードで後を追ってくる。


「止まれお前たち!八つ裂きにしてくれる!」

「ふんっ、あんな見た目して相変わらず物騒な奴らね」

「あんたホント一体何したんですか!」

「今度は上、ホラ」


 ゼロがそう言ったと同時に、零の体を軽く押したのだった。

 少しバランスを崩した零は建物の壁に体をぶつけながらも、転ばずに走り続ける。


「いっ、一体何し」

「っっっらぁぁぁぁっ!!」


 その瞬間、本来なら零が走っていたはずのライン上に、叫び声と共に何かが上から降ってきた。

 巨大な鉄の板、人間ほどの大きさのあるその板と同時に、人間が床に膝をつくような体勢でその板のような巨大な剣を道に突き刺さしていて、衝撃で破片が周囲に舞うと、道には大穴が空いていた。


「ちぇっ!ハズしちまった!!」

「早く!追いかけて!!」


 追い付いたベージュ髪の女がその人物の背中を叩くと、その人物は前に垂れた長い黒髪を片手でかき上げて、零たちの後を追ってくるのだった。


 零はゼロに追い付くと、後ろを気にしながら再び走る。


「何なんですかあいつら!」

「城の''お姉さん''たちの頭二人よ。仕事はデスクワークだけじゃなかったみたい」

「待てぇぇ!止まりやがれってんだぁぁぁ!!」


 冷静なゼロに対して、ベージュ髪の女よりは暴言的なその黒髪の女が、その大きな剣を背中に背負い叫びながら追いかけてくる。

 防具にしては軽装な膝と肘にプロテクターと、赤い胸当てを身に纏ったその女も相当鍛えているのか、引き離そうとしても全く距離が離れていかない。


「どうするんですか!このままじゃ追い付かれますよ!」


 零はゼロにそう言うと、ゼロは後ろを一瞬振り返って現状を確認した。

 するとゼロは、零の腕を掴んで袖を少し捲る。

 そこから見えた零のウォッチに、自分の右腕にあるウォッチを押し当てたのだった。


「一体何を···」

「黙って」


 それは少しの間だったが、零の画面の端にある赤い点滅が黄色に変わり、カウントダウンの数字が少し増えた。


「奴らを振り切る、説明している時間はない。今回だけは自分の感覚に慣れて」

「···言っている意味がわかりません」

「いいからは私の言う通りにして。ウォッチのボタンを押すの」


 ゼロは自分のウォッチを見せると、縁にあるボタンを押してみせた。

 それに習うように零も自分のウォッチのボタンを押すと、画面がみるみる変化していく。

 カウントダウンの数字が急激に減っていき、残り8分と少しを残してまた刻み始める。

 先程と違うのは、画面の端を一周囲うように赤いラインが入っていることだった。


「じゃあついてきて、遅れないで。さぁ、走るわよ」


 すると、ゼロの走るスピードがみるみるうちに上昇していき、どんどん零を突き放していくのだ。

 普通の人間では考えられない速度まで上がっていく。


「嘘だろ···」

「ほら、あなたも!」


 ゼロの様子と同時に零はその時、自分の体の感覚に違和感を感じ始めていた。

 体が妙に軽いのだ。

 腕を振るにしても、脚を動かすにしても、全ての動作が異常に軽い。

 体のあちこちから重りが取れたかのような、フワフワ体が浮いていけるような感覚だった。


 言われた通り走る速度を上げてみる。

 すると、腕や脚が次から次へと前に出ていく。

 風を切る感覚が鋭くなっていく。


 ゼロの姿が近づいていき、ついには二人並んで地を這うような姿勢で走っているのだった。

 普通の人間には到底不可能なスピードだった。


「おいなんだよアレ!!シンディ!!逃げちまうぞ!!」

「わかってる!今やるって!」


 シンディと呼ばれたベージュ髪の女は、自分の手のひらどうしを一瞬合わせ、少し離した。

 すると、その手のひらと手のひらの間にうっすらと淡く白い色の光の玉が輝き始め、その手の光を黒髪の女の足下へと向けた時、光が消えていくと同時にその黒髪の女の脚が淡く白く光りだす。


「ハッハッハッ!これだよこれ!おらぁ!待ちやがれぇ!」


 黒髪の女の走るスピードが上がり始めた。

 零たちと離れていくはずの距離が、みるみるうちに近づいていくのだ。

 シンディも右手の指を弾くと手が白く淡く輝き、それを脚に向けると光が消えていくと同時に脚が光り始め、距離を詰めていく。


「あれが···魔法···」

「少し違う。チッ、めんどくさいわね」


 その光景を見て悪態をつくゼロ。

 このままでは追い付かれてしまいかねない状況だった。


「このまま行くわよ。あの先に噴水の広場がある」

「あの先って···壁じゃないですか!」


 走っていくその先は裏路地の行き止まり。

 そこには零の身の丈の3倍はあるであろう、道と同じ石造りの大きな壁がそびえ立っていたのだった。


「もう終わりだ!観念しろ!大人しく捕まれ!!」

「···今あの黒い髪の人何て言いました?」

「···説明は後」


 声はハッキリ聞こえていたが、零には全く別の言語に聞こえ、何と言っているのか全く理解出来ていなかった。

 それだけではなく、道行く先にある看板や掲示板のポスターといったものに書いてある文字や数字も全く理解出来なかったのだった。


「そのまま走り続けて。飛び越すの」

「飛び越すって···!あんな高いの飛べるわけないじゃないですか!」


 しかしゼロは冗談で言っているわけでもなく、壁に向かって更にスピードを上げていくのだった。

 零も必死についていき、もう嫌が否が応にもやるしかない状況になっていく。


「私を信じて。飛ぶの」

「飛ぶったってどうやって!」

「これまでの常識を捨てて。飛ぶの」


 壁が迫ってくる。

 零の後ろの女二人からは怒号が飛んでくる。


「生きたいなら飛んで。さぁ、早く!」


 そう言うとゼロは、上着の中から何かを取り出して、女たちに向けた。


「うん!?何だありゃあ!?」


 黒髪の女が驚くと同時に、シンディは片手を前にかざしたのだった。

 その瞬間、裏路地に爆裂音が複数回鳴り響き、黒髪の女の足下に風穴が、シンディの手をかざした足下では弾丸が空中で何かに弾かれて道に転がる。


 ゼロの持つ銃の銃口から煙が立ち上がっていて、空の薬莢が道端にカラカラと転がっていった。


「あんた何てもん持ってるんだ!」

「いちいちうるさい!今よ、飛んで、早く!」

「くっそ···!!もうどうにでもなれ···!」


 もう壁は目前に迫っていた。

 零は意を決して、道を強く蹴り、跳んでみた。


 その瞬間、零は不思議な感覚に包まれるのだった。


「らぁぁぁぁぁ!!」


 黒髪の女の声が後ろではなく、下から聞こえてきた。


 体全体が重力から解放されたような感覚だ。

 飛び越せるかと不安に思っていた壁が下に見える。


「ふんっ」


 ゼロが体をひるがえして跳んだ瞬間に、壁に何かが突き刺さるのが見えた。

 さっきまでゼロがいた場所を突き抜けて、大きな黒い剣が壁に突き刺さっていた。

 

 紙一重で身をひるがえして跳んだゼロ。

 まるで背面跳びのような体勢で宙を舞うその最中、銃を持った手を女二人に構えて引き金を絞るのだった。


「くっ···!」


 シンディが走りながら少し前に出て、手を正面にかざす。

 女二人の足下を狙ったその数発の弾丸は正確に地面に着弾し風穴を開け、飛び散った破片でほんの少しその脚が止まった。


「シンディ!止まるな!そのままいけぇ!お前から跳べ!!逃がすなぁぁぁ!!」


 シンディはそのまま黒髪の女を追い越していくと、壁に刺さった剣の剣身を足場に壁の上へと飛び上がったのだった。


 そんな最中、零は軽々と壁を飛び越えたのも束の間、今度は経験したことのない高さからの落下に、零は戸惑う。


「おっとっと···!おぉっ···おおーっ!」


 逃げ場のない空中から地面が迫っていく、足が自然と下に向き体勢を整えるが、二階以上の高さからの落下に恐怖が止まらなかった。


「クソ黒服共がぁぁぁ!!」


 黒髪の女も剣を足場に飛び上がり、その瞬間に持ち手を持って勢いのまま壁から引き抜くと、共に宙を舞って追いかけてくる。


 ここで体勢を崩して転倒すれば零は後がない。

 黒髪の女が空中で剣を構え、その剣先が今度は零に向いている。

 落下の勢いのまま貫くつもりだ。


「ぐっ···!」


 足が地面に着く。

 どうなるかわからないが覚悟を決める零。

 足が道に降り立つ感触を、つま先から感じた。


「おおっ···!あっ···あれ?おっと···!」


 それは、驚くほど軽かった。

 着地の衝撃が、脚に殆ど伝わらない。

 上半身が沈み込まない、ちょっとした段差を飛び越えた時のような。

 そんな感覚のまま少しバランスを崩しただけだったのだ。


「上出来よ」


 隣に着地したゼロは勢いを殺さずに、零の首もとを掴んで再び加速させていく。


 その直後、その上からまた剣が降ってきて地面に突き刺さる。


「だぁぁぁぁぁっ!!当たらねぇぇぇ!!!」

「とっとと行くわよっ!!」


 女二人は、再び走り続ける零とゼロを追っていく。

 目の前の夕日が完全に山に沈み込む寸前だった、その開けた場所に噴水が見える。


「─オペレーター、どうぞ」

''─オペレーター。準備は出来てるそのまま行って''

「噴水は下だ!今度はどうすればいいんですか!?」

「どうするって?悠長に階段を降りてるヒマなんてないわ」


 目の前に噴水は見える、見えるが、それがある広場は階段を降りた先にあり、この道の行き止まりは広場が一望できる高台だった。


「···じゃあまさか」

「察しがいいじゃない。今度はあの噴水まで一気に行くわよ」


 もう時間は待ってはくれない。

 気付けば零のウォッチのカウントダウンは1分を切っている。

 ゼロは零の腕を掴んで、一気に走っていくのだった。


「ジーク!もう切れる!仕留めるなら今しかない!!」

「やってやんよ!!ちくしょうども!!!」


 その声に零が後ろを見ると、ジークと呼ばれた黒髪の女が剣を背中に納めることなく、片手に持ったまま追いかけてきていることに気付く。

 そして、その持っている剣を大きく振りかぶり始めたのだった。


「行くわよ、噴水に飛び込んで!今!」


 ゼロの声に前を向く零。

 高台の端にある柵が迫り、それを飛び越すように地面を蹴って、その遥か先の噴水に向かって飛び込むように宙を舞う。


 また体から重力が無くなる感覚。

 広場にチラホラいた人たちの姿が、次から次へと目に入ってくる。

 さっきと違うのは、ゼロが零の腕を持ったまま一緒に飛び込んだことだった。


「うらぁぁぁぁ゛ぁ゛!!!」


 その後ろからは、威勢よく叫び声をあげながら女が剣を振りかぶったまま柵を蹴り込み、二人を追って同じように飛び込んでくる。


 宙に舞い、お互いに動きが取れない中、ゼロは零の腕を掴んでいる手を離して、自分のジャケットの中へと突っ込むとそれをもう一つ取り出した。

 体を捻り噴水に背中を向けると、腕を伸ばしてその二つの銃口を女がいる方に構え、引き金に指をかける。


「ムダなんだよ!!クソアマがぁ!!!」


 女はその大きな剣を零たちに突き付けるように前に出して銃弾から身を守るようにしながらも、その剣先はゼロを確実に貫くように狙い一直線に落ちてくる。

 それでもゼロは二丁の銃の引き金を絞り、銃弾を撃ち込んでいくのだった。


 爆裂音と、宙を舞っていく薬莢。

 一直線に宙を切り裂いていく弾丸。

 だがそれは剣を避け、女を避けて後ろに飛んでいく。

 狙いを定め、ゼロのその鋭い眼光が睨む先は、その剣や女の後ろにいる存在だった。


「···っ!」


 その人物、気づいたシンディは空中で咄嗟に零たちに向けて構えていた指を引いた。

 指先からは冷気のモヤが消え、代わりに手を開いて前にかざすと、弾丸はシンディの目の前で見えない壁に弾かれて、勢いを殺され下に落ちていく。


 落ちてくる薬莢と弾丸、そして背後から聞こえてくる爆裂音。

 それに構う余裕もなく、零はみるみる迫る噴水の水面に恐怖が生まれる。

 あと数mもない、水面に叩きつけられる。

 その恐怖に眼をつむり、腕を前に出してクロスさせ、衝撃に備えるのだった。


「逃げ場なんてねぇ!!終わりだぁ!!!」


 剣がゼロの腹を目掛けて、女と共に落ちてくる。

 どう考えても貫くことの出来る体勢、状況。


 だが、女は自分に向けられているゼロの目に、一切の迷いがないことに気付くのだった。

 何かがおかしい。

 そう悟った女は叫ぶ。


「シンディ!!!」


 噴水に落ちる一歩手前、銃撃が止んだ瞬間にシンディは再び指先を真っ直ぐ揃えてゼロに向かって構えると、氷のトゲのようなものが一瞬のうちに発射され、飛んでいく。


 零とゼロが噴水に落ちた。

 途端に凄まじい水しぶきが上がり、宙に飛び散っていく。


 氷のトゲが噴水に落ちた。

 途端に噴水の水面、綺麗にアーチを描きながら噴き出す水、飛び散った水しぶきが、一瞬にして凍りつき、噴水の時が止まった。

 噴水の中に落ちたものなら、身動きはできない。


「上出来だぁ!!!」


 その上から女が落ちてくると、その氷の上から剣を体重と腕力に任せて突き刺したのだった。



──────────



 衝撃がない。

 零はクロスさせていた腕を開くと、そこはさっきとはまったく別の場所だった。

 重力を感じない、まるで水の中で漂っているかのような感覚。

 

 周りが真っ白で、この空間がどこまで続いているかわからない。

 だが光を感じ、周りが見える。

 

「ふぅ···」


 隣からため息が聞こえた。

 さっきまで銃を構えていたゼロが、流れに身を任せて零と同じようにフワフワと浮いているのだった。


「私に出来るのはここまで」


 ゼロと目が合うと、彼女はそう言う。


「帰ってからのことは、自分で何とかして。正確な座標を特定できない、なるべく来たときの場所の近くにはいると思うけど」

「···何?どういう意味ですか?」

「帰ったらわかるわ。また会える···いや、会わなければならない。あなたはもう、すでに知ってしまったから」

「知った?あの世界のことですか?一体何なんですか?あそこは何なんですか?ちょっと、ちょっ···」


 ゼロの体から光の玉のようなものが溢れ始めると、その体が光に包まれて消えていく。

 その光景に驚いていると、零は自分の体も同じように消えかけていることに気づいたのだった。


「間に合ってよかった。それじゃ、また会える」

「待ってください!俺はどうなるんですか!俺はどっ···!」


 激しい目眩と頭痛が零を襲った。

 あの世界に来たときと似ている、意識を保っていられない。

 そんな中、消えてなくなるゼロの姿を見た零は恐怖を感じた。


 自分以外誰もいない空間で一人、消えてなくなる感覚。

 死ぬ時もこんな感じなのかと、零は思った。

 限界だった、零は眼を閉じる。

 漂う感覚から、上に昇っていくような感触に変わり、零は意識を手放すのだった。

 疑問と不安と、恐怖を残して。

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