貴方も妹に魅かれますか?
***BL*** 僕の妹の周りには、いつも男性が集まって来る。そして、僕の婚約者まで奪って行った。破棄された後、王太子殿下と婚約した僕。ハッピーエンドです。
「ねぇ、お兄様、王太子殿下との婚約、私に譲ってくださらない?」
可憐で可愛い妹に、言われてしまった。
「僕の意思だけで、婚約をどうにか出来る訳では無いから、、、」
「それなら、ルッジェーロ様をお返しするわ。彼と結婚すれば良いじゃない」
酷いな、、、ルッジェーロ様は元々僕の婚約者だったのに、フランチェスカが我儘を言って、僕から彼を奪ったんじゃないか、、、。
それに王太子殿下との婚約を、僕達で決めるなんてあり得ないよ、、、。
「彼を愛していたんだよね?」
「勿論よ。愛していなければ、キスもその先も出来ないわ」
、、、その先、、、?
「僕達は愛し合っていたのに、、、フランチェスカの我儘で、婚約破棄したんだよ?。それを今更、、、」
「嫌ぁねぇ、、、。お兄様ったら、気付いてらっしゃらなかったの?ルッジェーロ様は、お兄様との婚約破棄を望んでいたの。私の方が何倍も何百倍も可愛いと言ってくれたわ。お兄様が思っている程、愛されて無かったわよ?」
クスクス笑われた。
嘘だ、、、。だって、彼はいつも僕の事、愛してるって言ってくれた。早く結婚したいって、プレゼントも沢山届いた。
「ルッジェーロ様も演技がお上手だから、、、」
ふふふ、と笑う。
「でも、お兄様がそんなにルッジェーロ様を愛しているなら、丁度良いじゃない。お返しするわ。だから、王太子殿下は私に頂戴。殿下は、本当は私と結婚したかったの。男のお兄様では子供が望めないでしょ?でも、私が婚約してしまったから、お兄様に白羽の矢が刺さっただけなの。分かる?」
確かに、王家は僕達と繋がりを持ちたい様だった。だから、僕よりフランチェスカと婚約するべきだと思う。
妹のフランチェスカは春の妖精と言われ、皆に好かれ、愛されているし、、、。
王太子殿下と並んだら、とても素敵だ、、、。
何故、王太子殿下が僕と婚約したのか分からない。
きっとお父様に話せば、すんなり婚約者を替えるだろう。
政略結婚で産まれた息子と、愛する女性が産んだ娘。どちらが可愛いかと聞かれたら、愛する女性が産んだ娘に決まっている。
「お父様がお決めになれば、、、僕はそれに従うだけです、、、」
僕の気持ちなんて聞いては貰えない。
「分かったわ、お兄様。お父様には、お兄様からお許しが出たとお話しするわね」
フランチェスカはウキウキしながら、お父様を探しに行った。
僕は溜息を吐く。
今更、ルッジェーロ様と婚約をしても上手くやれる自信が無い。
*****
王太子殿下と婚約をしたのは、ルッジェーロ様と婚約破棄をしてすぐだった。
翌日には書簡が届き、婚約の運びとなった。
あまりのタイミングの良さにびっくりしたのを覚えている。
フランチェスカの希望を叶えた上に、僕が王太子殿下と結婚する。お父様は今までに無く喜んだ。
婚約者のいた僕。
王太子殿下の事は、挨拶をする程度しか知らなかった。
殿下は少しずつ時間を作り、お茶会の場を設けてくれた。
ルッジェーロ様の事を忘れたかった僕は、積極的に参加した。
殿下は僕に優しかった。
会う度に小さな花束を持参して、プレゼントしてくれる。
決して大きな声を出さないし、此方が嫌悪する様な会話はしない。
いつも微笑んでいるし、最近ではそっと手を繋いでくれる。
少しの時間でも、僕に会いに来た。
僕は王太子殿下を好きになり始めていたのに。
漸くルッジェーロ様を忘れる事が出来た頃、フランチェスカが王太子殿下との婚約を替われと言った。
きっと、殿下が僕に会いに来てくれるのを見ている内に、フランチェスカは殿下の事が気に入ったんだ、、、。
**********
ダニエレが婚約破棄したと聞いて、私はすぐに書簡を送った。彼が以前から、妹のフランチェスカと上手く行っていない事は知っていたし、フランチェスカが、彼の婚約者と結婚したがっている事も、把握していた。
何故なら私の使いが、彼の屋敷に侍女として潜入しているからだ。
私はずっとダニエレが好きだった。幼い頃、一緒に遊んだ事もある。
まだ、お互い自分の立場に無関心だった頃。
彼は身体も声も小さな子供だったけど、他の令嬢令息達とは違い、本当に愛くるしかった。
遠慮がちに手を差し伸べてくれた彼。私が手を繋ぐと嬉しそうに笑った。
ただそれだけで、彼を好きになった。
私は自分が王になれないと知っていた。兄がいたからだ。あくまでも兄の予備で、王の器では無いと思っていた。
10歳を過ぎた頃から、兄と私の違いが顕著に現れて来た。王から王太子を任命されたのは、15歳になる前だった。
私は、結婚相手にダニエレを選んだ。
家門的には問題無い。
彼の父親が真っ白とは言わない、黒い噂もあった。しかし、それ以上に王は喜んだ。
ただ、ダニエレは男だし、婚約もしている。結婚するならフランチェスカにしろと言われた。
私はそれを拒んだ。
フランチェスカは王妃の器では無い。彼女は色恋事にしか興味が無いからだ。
ダニエレの様に、勉強熱心であれば私も少しは考えたかも知れない。
しかし、彼女の興味の対象は、ドレスと靴と宝石、、、、後は、異性の事だけだった。
**********
ルッジェーロ様が屋敷に来ていた。
僕は知らされていない。きっとフランチェスカが呼んだんだ。
ノックする音に、僕は自室の扉を開ける。
「ダニエレ、、、」
「ルッジェーロ様、、、」
「会いたかった」
そう言われても、フランチェスカの話しを思い出すと、彼の言葉が嘘にしか聞こえない。
「中に入れてくれないの?」
苦笑している。
「、、、二人きりはちょっと、、、」
「大丈夫だよ」
いきなり腰を抱かれ、強引に部屋に入って来た。
「あの、ルッジェーロ様?!」
殿下と婚約中なのに、こんなの困る、、、。
「フランチェスカから聞いたよ。今でも私の事を愛していると、、、私も君を愛している、、、だから」
だから?
ルッジェーロ様は僕の顎に手を掛け、上を向かせると、口付けを交わす様に顔を近付けた。
どんっ!
思わず、彼の胸を押してしまった。
「何するの、、、?」
身体が震える。
「愛しているんだ、口付け位減るもんじゃ無いだろ?」
こんなルッジェーロ様は知らない、、、。
「ぼ、僕はまだ、王太子殿下の婚約者です、、、そんな事をしたら、、、」
「私がお前を殺すだろう」
「王太子殿下っ?!」
殿下が入り口に立っていた。
「急にダニエレに会いたくなってね。突然の訪問、申し訳無い」
僕は震えながら、最上級の挨拶をした。
ルッジェーロ様は何が起きているのか分かっていない。
「君は、自分の婚約者を放って置いて大丈夫かい?」
と、にっこり笑う。ルッジェーロ様は逃げる様に部屋を出た。
殿下は扉を限界まで開き、僕の側に来る。
「大丈夫だった?」
「ありがとうございます」
深く頭を下げる。
「ダニエレ、頭を上げて?」
と言われて、背筋を真っ直ぐに伸ばす。
「君に何も無くて良かった。ルッジェーロに君を襲わせ、侍女に現場を押さえさせる計画を耳にして、、、心配になって来たんだ」
僕は真っ青になった。
そんな事になったら、僕はルッジェーロ様と結婚するしか無くなってしまう。
「間に合って良かった、、、」
そう言いながら、殿下は僕の手を取る。
「君の身に何かあったら、私は耐えられない」
殿下の表情から、僕の事を本当に心配してくれていたんだな、って伝わって来た。
「あの、、、何故、分かったのですか?」
「君の屋敷にいる侍女の内、何人かは私に支えているからね。君が婚約破棄した時もすぐに手を打てたよ」
殿下が、握った僕の手を指で撫でる。
、、、そう言えば、婚約破棄した翌日には、殿下から婚約のお話を頂いた。
「でも、王太子殿下はフランチェスカと、結婚したいって、、、」
「君と婚約してるのに?」
殿下がクスリと笑った。
フランチェスカがそう言っていたけど、、、違うのかな?
「彼女は王太子妃に向かない。自分の事にしか興味が無い様だし、勉強も苦手そうだ。可愛らしいだけでは、私の興味は引かないよ」
そうなの?
「それに、私はずっと貴方を想っていた」
「ずっと、、、ですか?」
「そう、ずっと。、、、私が貴方に再び会った時、既にあの男と婚約をしていた。だから、私は貴方を諦め無ければならなかった。しかし、貴方の妹はいつか、貴方の婚約者に手を出すと思っていたからね、前から見張らせていたんだ」
「でも、王太子殿下もフランチェスカと一緒の時間を過ごせば、きっと、僕よりもあの子を選ぶと思います」
僕は小さく笑った。
「それは無いよ」
本当に?
「ルッジェーロ様も最初は僕の事が好きでした。それなのに、フランチェスカを選んだんです」
信じたいのに、信じられない。だって、傷付きたく無い。
「ダニエレ、、、。私は「貴方」と婚約している。私が貴方を選んだ事を、忘れないでくれ」
扉をノックする音がした。
「お兄様?先程、ルッジェーロ様がいらっしゃいましたけど、、、」
僕が返事をする前に、妹が顔を覗かした。
王太子殿下に気付き、恥ずかしそうに赤くなる。
「、、、失礼しました」
半身を扉に隠し、可愛らしい女性を演じるフランチェスカ。
「王太子殿下がいらっしゃるとは思いませんでした」
「構わない、私の用事はもう済んだよ」
「あの、父もおりますし、一緒にお茶を如何ですか?」
「そうか、それなら是非」
殿下は部屋を出た。フランチェスカは振り返り、笑う。
そして、声を出さずに言った。
「来ないで」
僕は一人部屋に残された。
きっと王太子殿下もフランチェスカを好きになる。
その日を境に、殿下はフランチェスカと度々一緒にいる様になった。
、、、ほら、やっぱりね、、、。
*****
フランチェスカはいつも、殿下の話しをする。
「今日はね、殿下の髪型が少し違ったわ。いつもより男性らしくて、精悍な感じだったの」
「外国のお客様がいらして、素敵な布を頂いたそうよ。肌触りが良くて、ドレスにしたら素晴らしいだろうって。きっと私にドレスを作って下さるわ」
「お城の庭園の花が沢山咲いて、香っているって。いつか私を誘って下さらないかしら」
「あら、お兄様は最近、殿下とお会いになって無いの?殿下もお兄様の存在なんて、忘れちゃったのね。きっと私の事で、頭がいっぱいなのよ」
、、、そうかも知れない。
最近では、手紙も訪問も何も無い、、、。
もう、後は婚約破棄の書類にサインをするだけなのかも、、、。
どうして何時も、フランチェスカなんだろう。僕じゃあ、ダメなのかな、、、。
フランチェスカみたいに、可愛い仕草とかすれば良いのかな、、、。
淋しくて、悲しかった、、、。
殿下は何故僕と婚約したんだろう、、、。最初からフランチェスカと婚約してくれれば良かったのに、、、。
*****
庭の花が、春の色になった頃。
屋敷の中では、王太子殿下とフランチェスカが、お茶会をしていた。
殿下は、週に二度は必ず訪れる様になった。
僕の婚約者なのに、僕には声が掛からない。
まぁ、いつもの事だけど、、、。
ルッジェーロ様の時もそうだったな。少しずつ距離が開き、会えなくなった。
殿下も僕の事、忘れちゃったかな。
結局、王太子殿下もフランチェスカを選んだんだ。
*****
僕が庭を散歩していると、声を掛けられた。
「ダニエレ」
「、、、」
「庭にいるのが見えたから、、、」
ルッジェーロ様が静かに近寄って来た。
「フランチェスカの事、申し訳無かった、、、私の勘違いだったんだ」
今の彼は、婚約していた頃の優しい顔をしている。
フランチェスカと婚約をした後は、僕に見向きもしなかった。あんなに優しかったのに、僕の事が見えないみたいだった、、、。
「少し散歩をしないか?、君と話しがしたい」
ゆっくり歩く彼は、何から話そうか考えている様だ。
二人で庭を散歩する。
婚約中も二人でよく散歩したな、、、。
あの頃は手を繋いで歩いたっけ、、、。今は、人、一人分離れて歩く。
「あの日、フランチェスカとお茶をしたんだ。偶然会った店で、隣の席には私の友人もいたから、君を裏切る事にはならないと思った。でも、その日から、フランチェスカが気になって、次第に彼女にのめり込んで行った。、、、自分でも不思議だったけど、止められなかった」
彼はガゼボに向かう。
「、、、彼女は私の欲しい言葉をくれ、可愛らしく微笑み、悩んでいる時はそっと触れ、心配そうな顔をした。だから、彼女に好かれたいと思った、、、。その内、一分一秒でも長く彼女に会いたくなって、、、」
ルッジェーロ様は、少し辛そうだった。
僕だって、君が悩んでいたら心配したよ?
、、、フランチェスカみたいに可愛らしく微笑む事は出来なかったけど、ルッジェーロ様と一緒にいる時はいつも幸せだったよ?
彼は僕に手を差し伸べてくれた。低い階段を登り、二人で椅子に座る。
「君の事は、本当に愛していた。、、、でも、フランチェスカを好きになり、彼女に愛されていると感じると、彼女を守りたいと思い、フランチェスカの側にいたくなった。彼女の事しか考えられなくなったんだ、、、。フランチェスカも喜んでくれたし、君達の父上がすぐに婚約を差し替えた」
僕の事も守って欲しかったし、側にいて欲しかったのに、、、。
彼は掌を見ながら話してくれた。
「本当は、、、違ったんだ。彼女は親切心で私に近付いた。ただ、それだけだった、、、」
寂しそうな顔。
「私が彼女に強く思いを寄せたから、彼女は私を愛していると勘違いしたそうだ。、、、彼女に言われたよ。ダニエレの婚約者だから優しくした、私の事は好きだけど、やっぱりお兄様の婚約者を奪ってしまった罪悪感が怖い、、、ダニエレはまだ私を愛している、とね、、、。最後に、フランチェスカは「君を愛している私が好きだった」と言った、、、。フランチェスカは私に、ダニエレに対する気持ちを思い出させてくれた」
違う。
フランチェスカは本当に君が好きだった、、、。
でも、王太子殿下が欲しくなったんだ、、、。
ルッジェーロ様は僕を見つめながら
「ダニエレを愛してる」
と言った。
「一体どうしたの?ルッジェーロ様、、、」
僕との婚約を破棄する程、フランチェスカが好きだったのに、、、。
「その、、、どうしてあんなにフランチェスカに、盲信していたのか分からないんだ、、、。病に侵された様に、彼女の事しか見えなくなっていた。彼女と婚約破棄して、暫く会わなくなったら、ダニエレの事ばかり考える様になった。目が覚めたよ、、、。ダニエレ、愛してる。君ともう一度婚約を結びたい、、、お願いだ、、、はい、と言って欲しい、、、」
「でも、僕は王太子殿下と婚約を、、、」
「もう、破棄されてるんじゃないか?」
「え?」
「、、、。私の時も、気が付いたら君と婚約破棄していた、、、きっと殿下との婚約も、、、破棄されていると思うよ。殿下もフランチェスカに夢中だと聞いたからね」
、、、そう、、、なのかな?、、、。
それでも、、、
「ごめんなさい、、、。僕は、ルッジェーロ様の婚約者にはなれないよ」
「まさか、ダニエレ、、、純潔を?」
「ルッジェーロ様?!な、なんて事を!」
「ごめん、つい、、、。そうだね、ダニエレはそんな事無いよね、、、」
「まだ、殿下から婚約破棄の書簡は届いて無いから、、、」
僕は唇を噛んだ。そんな書簡、届いて欲しく無い。
婚約破棄された時の事を思い出す。
フランチェスカはルッジェーロ様を愛していると言った。彼無しでは生きて行けないと、お父様に訴えて、僕の婚約者を奪った。
その時のフランチェスカは、泣き喚き、大変だった。可哀想に思ったお父様が、ルッジェーロ様の父親と話し合い、婚約を差し替えた。
「二度も婚約を破棄されたら、君にはもう釣書は届か無いんじゃないか?、、、。それなら、もう一度私とやり直した方が良いだろう?」
「お兄様?」
フランチェスカの声。
振り向くと、王太子殿下にエスコートされながら、僕達に近付いて来る。
「ほら、二人はすごくお似合いだ、、、」
ルッジェーロ様の言葉が胸に痛い。
そんなの、僕が一番よく知ってるよ。
僕に会いに来ない王太子殿下。
また、僕は彼女に婚約者を奪われた、、、。
*****
フランチェスカは王太子殿下と腕を組んだまま僕達の側に来た。
本当は、僕が殿下の横にいる筈なのに、、、。
僕は、取り乱さない様に、拳を握る。
何処かに力を入れて置かないと、感情が流れ出てしまいそうだった。
「お兄様、ルッジェーロ様、お二人で何をなさっていたの?」
僕は視線を外した。
「ダニエレに謝罪をし、結婚して欲しいとお願いをしていました」
「ステキ、やっぱりお兄様にはルッジェーロ様がお似合いだもの」
でも、僕はまだ王太子殿下と婚約中だよね、、、。
殿下から婚約破棄のお話しも頂いて無いし、、、。
「殿下もそう思いませんか?」
フランチェスカが彼を見つめる。
「社交会でも彼等は評判が良かったね」
と殿下が笑う。
な、、、んで、、、?
僕は否定も肯定も出来ず、殿下にもして貰えなかった。
淋しくて二人を見る事がで出来ない。
少なくとも僕の気持ちは、もう、王太子殿下の物なのに、、、。
涙が溢れて来た。
もし、殿下と僕の婚約を知っていて求婚したのなら、不敬罪になると思う。
でも、殿下が何も言わないと言う事は、やっぱり僕達の婚約は、破棄されているんだ、、、。
二人は静かに散歩を続けた。僕とルッジェーロ様は、彼等を見送り、屋敷に戻った。
**********
フランチェスカはきっと、人より観察力や洞察力が優れている。
自身も気付かぬ内に、相手の欲しい言葉を瞬時に見つけるのが上手い。
それを可愛らしい仕草と表情に乗せ、伝えるのだ。
厄介な人物だと思う。
相手の欲しい言葉を使えると言う事は、相手の嫌がる言葉も分かる。だから、ダニエレは彼女に逆らえない。常に一緒に過ごし、搾取され続けた彼はいつも諦めた顔をしている。
昔はあんな顔をしなかったのに、、、。
あの女がダニエレを変えたと思うと腹が立つ。
私のダニエレ。
久しぶりに会った社交の場では、フランチェスカの噂が絶えなかった。
可愛らしい容姿、耳に心地良い声、彼女に群がる男達。
その様子は少し異様だった。
あんなに異性を引き連れて歩く女はいない。
よくよく見ていると、彼女は彼等に、彼等が欲しい言葉を与えている。天性の才能だろう。
フランチェスカの瞳の色は、何とも不思議な色だった。
薄いブラウン。一色では無いと思う。角度によって少し金色に見える時もある。
その瞳で見つめられると、惹きつけられて目が離せない。
私自身、彼女の瞳を見ると、吸い込まれる様に見入ってしまった。
「殿下、、、」
と上目遣いで見つめられると、成程、愛らしい。
少し、潤んだ瞳は今にも泣き出しそうで庇護欲を唆る。
その様な状態で願い事をされれば、何でも叶えたくなりそうだった。
だから私は彼女の瞳を見ない。
仕草や言葉の選び方も感心する。考えてやっているのでは無く、自然に出来る様だから手に負えない。
彼女の香りも良い。微かに香る、花の様な果実の様な少し甘い香り。常に香る訳では無い、極稀にフワリと香る。
彼女の周りに男が群がるのも、分かる気がする。
彼女に、王族に嫁げる程の知識や教養があれば、兄や弟達に嫁がせる事が出来たのに、、、残念だ。
外務の仕事が出来るなら、王家に必要な人材になれたのに、あの能力を自分の欲望を満たす為だけに使っている。
そして、私はフランチェスカには絶対に靡かない。
何故なら、私は女性に興味が無い。
フランチェスカがどんなに頑張っても、私にだけは彼女の魔法は効かなかった。
さて、この女をどうしたらいいか、、、。
*****
フランチェスカとダニエレ、そして彼の父親を城に呼び出した。
フランチェスカは希望に満ちた顔をし、ダニエレは絶望的な顔だった。
私はずっと、ダニエレを傷付けているのを知っていた。
彼の婚約者なのに、フランチェスカと会い続け、ダニエレとは合わない様にしたから、、、。
先日、彼の屋敷の庭園で会った時も、彼を抱き締めて愛していると言いたかった。
彼が握り拳を作り、涙を堪えているのが分かった時、私は何をしているんだろうと、泣きたくなった。
しかも、隣にはアイツ、ルッジェーロがいた。ダニエレに寄り添う様に立つ、アイツが憎くて仕方が無い。
ダニエレ達は今日、この場で、私とダニエレの婚約を破棄し、フランチェスカと婚約を交わすと思っているんだろう。
私は、窓の外を見ていた。
早く終わりにしよう。
*****
手に持っていたワイングラスを、ワザと落とす。
それが始まりの合図だった。
はっ!と部屋の中が静まり返り、私は胸を押さえながら窓枠に手を掛ける。
「王太子殿下っ!」
フランチェスカが悲痛な声を上げて私に近寄る。
「触るなっ!」
「殿下?!どうされたんですか?!」
いつもの愛らしい顔を引き攣らせながら、私に触れようとした。
「無礼者っ!」
私は大きな声を上げて、フランチェスカの手を払う。
「殿下?」
フランチェスカの不安げな顔。
「貴様、、、私に、魅了の魔法を掛けたのか、、、?」
震えながら問う。
「な、何を仰っているのですか?」
「それとも薬を盛ったのかっ?!」
「何の事か分かりませんっ!、、、」
フランチェスカは怯え、震えながら訴えた。
「私が、、、お前を選ぶ事は無い、、、」
苦しそうな演技をすると、本当に苦しくなって来た。はぁはぁと、短い息を吐き、床に跪く。
「殿下っ!」
側近の一人が駆け寄る。
「貴様っ!何をしたっ!」
もう一人がフランチェスカに詰め寄る。
「侍医を呼べっ!」
部屋の空気が、ピリリと張り詰めた。
私は側近に支えられながら
「ダニエレ、、、」
と彼を呼んだ。
「はい」
と小さく返事をして、私の元に走り寄る。
私は彼を抱き締め
「私を支えて部屋に連れて行ってくれ、、、」
と頼んだ。
彼は血の気が引いた、白い顔をしながら、私を支えてくれた。
ごめん、ダニエレ、、、演技なんだ。でも、心配してくれて嬉しい、、、。
側近とダニエレに支えられ、部屋を出て廊下の角を曲がると
「もう、大丈夫かと、、、」
と側近の一人、従兄弟のジョバンニが支えていた身体を離して言う。
ダニエレがオロオロしていた。
「あの、、、」
「取り敢えず、私の部屋へ」
と言って、ダニエレに身体を預ける。
「いけません、殿下。婚約中とは言え、結婚はまだなのですよ?」
「大切な話しがあるんだ、良いだろう?」
「執務室でお願いします」
「ちぇっ、、、」
「殿下」
ジョバンニが静かに言う。
仕方が無い、ダニエレを連れて、執務室へ向かう。
私は、ダニエレの手をしっかり繋いだ。
彼の心が私から離れて行かない様に、、、。
*****
ダニエレの肩を抱き、執務室に入ると後ろから
「何かお飲み物をお持ちしますか?」
と聞かれた。
「紅茶に、蜂蜜とブランデーを入れた物を二人分」
ジョバンニに返事をして、ダニエレに座る様促す。
「驚いたかい?」
「はい、、、まだ、手が、、、」
ダニエレの手が、小刻みに震えている。隣に座り、私の手でダニエレの手を包み込んだ。
「済まなかった」
「あの、、、フランチェスカは魔女なんですか?」
真剣な顔で、彼が聞いて来た。
可愛いな、、、。
「魔女も魔法もこの世には無いよ。お伽話か童話の中にしか存在しない」
「まさか、、、殿下に薬を、、、?」
「それも無いと思う」
「一体、何があったのですか?」
「んー、、、そうだなぁ、、、。何処から話したら良いかな、、、」
暫く、紅茶が届くのを待つ。
ジョバンニが紅茶を運んで来た。
チラリと私を見る。隣り合って座るなと、言いたいらしい。私はダニエレに紅茶を勧める。
彼は一口飲むと
「美味しい」
と呟いた。
彼の喜んだ顔を見ると、ジョバンニは気を良くして、部屋を出た。
温かい紅茶と蜂蜜、ブランデー。緊張していた彼は、ゆっくり紅茶を飲むと、幸せそうに息を漏らす。
隣にダニエレがいる、、、。
あまり見てはいけないと思いながら、つい見てしまう。
最近は彼の不安そうな顔しか見ていなかったから、私も安心した。
私が全て悪いと分かっているけど、、、。
紅茶のカップに付いている、細い取手を掴む指が華奢で綺麗だった。
カップを傾け、紅茶を口にする度に瞼が下がり、綺麗に揃った長い睫毛が見える。
私と目が合うと、恥ずかしそうにニコリと笑った。
「紅茶、冷めてしまいますよ?」
そう言う唇も綺麗な色をしている。
「蜂蜜とブランデーの入った紅茶、美味しい?」
「はい、初めて頂きました。とても美味しいです」
ああ、今、ダニエレと会話をしている、、、。
フランチェスカに魅了されているフリをしていた間、ダニエレを傷付けていると分かっていた。
何度も何度も、心の中で謝った。
「、、、ダニエレ、、、済まなかった。本当は毎日君に会いたかった、、、」
「殿下、、、」
彼は私の瞳を見ながら、うっすら涙を浮かべた。
「フランチェスカには、人を魅了するものがあった。それが、何なのか私は知りたかった。だから、彼女の側にいて観察していた」
私はそっと、ダニエレの手に触れる。
「君を不安にさせていたのは分かっていた。しかし、周りに私がフランチェスカに魅了されていると思わせたかったから、言えなかったんだ、、、。申し訳なかった」
彼は私の言葉を信じてくれるだろうか、、、。信じて欲しい。
「彼女の色素の薄い瞳や、話し方、仕草、香り、様々なものが重なって、人を魅了していた。だから、フランチェスカが魅了の薬を手に入れて、私を魅了したフリをする事にしたんだ」
「魅了の薬、、、?」
少し首を傾げる。
「そんな物は実際には無い。何処か遠い異国の物語に出て来た、作り話だよ。、、、でも、その薬を捜索する事にして、君の屋敷を調べたかった」
「僕の屋敷?」
「少し、悪い噂があってね、、、。何も無ければそれで良い。それから、フランチェスカがこれ以上君と私に関わらない様にしたかった」
紅茶を飲み、一息付いた頃、ダニエレが聞いて来た。
「殿下が急に倒れたので、びっくりしました。側近の方はご存知だったのですか?」
「ワイングラスを落とすのが、合図だった、、、」
今頃彼等は、私をどうやって魅了したか調べられているだろう。
「フランチェスカは随分と取り巻きが多かったから、私は不思議に思っていたんだ」
そっとダニエレの手に、私の手を重ねる。
「顔が可愛い女性や美しい女性はたくさんいる、話題の豊富な女性もね。だけど、何故、フランチェスカばかりが、あんなに異性に囲まれているのか気になった、、、。暫く一緒に過ごしていたら、彼女の観察力、洞察力が並外れている事に気が付いたんだ。此方の欲しい言葉を瞬時に理解して、返して来る。それに可愛い仕草や表情を足せば、無敵だ」
「ルッジェーロ様も、、、仰ってました。、、、欲しい言葉をくれるって、、、。いつの間にかフランチェスカの事しか、、、考えられ無くなったそうです、、、」
ルッジェーロの名前を聞くと、無意識の内に身体がピクリと反応して強張る。
「ルッジェーロの事、、、今も忘れられない?」
そう言えば、彼に結婚を申し込まれていたな、、、。
ダニエレは瞬きをしながら、静かに考えていた。
「僕は、、、」
また瞬きをした。
ダニエレは少しぽんやりした顔を、此方に向けた。
「殿下もフランチェスカの事、可愛いと思いましたか?」
「ん?、、、」
ダニエレの顔がほんのり赤い、、、、。
「あの子が羨ましいです、、、ルッジェーロ様も、殿下もあの子を好きになる。、、、僕は選んで貰えない、、、」
あれ?ダニエレ、酔ってる?
「僕もフランチェスカみたいにすれば良いですか?そうしたら、殿下は僕を選んでくれますか?」
彼が私の瞳を見つめて来た。
「殿下、、、」
潤んだ瞳で、隣に座る私に触れた。
「好きならキスも、その先も出来るそうです、、、」
「ダニエレ?そんな事、誰に教わったの?」
「、、、フランチェスカが、ルッジェーロ様としたそうです。、、、殿下も彼女としたんですか?。、、、僕とキス、出来ますか?」
「ダニエレ?大丈夫?」
彼の身体が少しフラフラしている。
ダニエレの両肩を掴み、少し私から離して彼を見る。すると彼は
「僕とは出来ないんだ、、、」
と言って落ち込んだ。
うーん、ジョバンニに結婚式まで手を出すなと言われているけど、、、。
「キス、したいの?」
「したくありません、、、」
あれ?したくないんだ、、、。
「殿下はフランチェスカとしたいんでしょ?」
あ、怒ってる、、、。
「、、、僕の婚約者なのに、、、」
まるで、ヤキモチだ。
「ルッジェーロ様も、、、僕と婚約してる時に、フランチェスカと、、、キスもその先もしたって言ってた、、、殿下も、、、もう、したんですか?」
あー、、、アイツの名前。、、、聞きたく無かった。
ふにっ、、、
「キスとその先って言ったね?」
ダニエレは私の瞳を見つめる。少し首を傾げて
「殿下、、、?」
もう一度キスをしようとすると、ダニエレは逃げる様に、半身を後ろに倒す。私の唇を見ながら、、、。
彼に覆い被さる様に身体をずらすと、彼は力尽きて椅子に横になる。
「その先って、、、」
と言いながら、彼のシャツを引き出す。
「あの、、、」
ダニエレが、私の身体の下から見つめて来る。
「どんな事なのか、知ってるの?」
中指でそっと肌に触れると
「ん、、、」
と声が漏れた。
すぅー、、、と撫でると、ゾワゾワするのか、身体に力を入れて横を向く。
首筋がガラ空きだ、、、。吸い寄せられる様に口付けをする。
「あっ、、、」
ダニエレの掠れた声に、私の感情が揺さぶられる。
彼に私の印を付けたい、、、。
フランチェスカと一緒に過ごさなければならなかった。不本意だった。
本当は、ダニエレと過ごしたかったのに、、、。
しかも、ルッジェーロがダニエレと結婚したがっている、、、。
ダニエレは私のモノだ。
キツく首筋を吸うと、ダニエレは
「痛っ、、、」
と言いながら、私の服を握りしめた。それが何だか、必死に私を求めている様に感じた。
彼の首筋を確認すると、私の印が微かに付いている。もっと色濃く付けたいのに、ジョバンニに見つかると何を言われるか分からない。
そっと触れる、、、。
ピクリとダニエレが反応した。
今日はこの位で良いだろう。
ダニエレが涙を流していた。
「あ、、、」
私は自身の事ばかりで、ダニエレを見ていなかった。
そっと、彼の頬に手を添え、此方を向かせる。
涙を流しながら私を見つめる彼は、世界で一番可愛かった。
「ダニエレ、、、。愛している」
そう言って、彼の唇にキスをする。柔らかい。
ダニエレの瞳から涙が溢れ落ちる。
だから、、、ダメだって、、、。
*****
柔らかい唇は、私の理性を少しずつ壊して行く。
彼にのし掛かり、抱き締める。
「ダニエレ、、、?」
無反応の彼が気になり、顔を見ると、ダニエレはすやすやと寝ていた。
こんな状況で寝ちゃうなんて、やっぱり可愛いな、、、。
*****
扉を開けて、ジョバンニを呼ぶ。
ダニエレを寝室に運ぶ様に手配をさせ、フランチェスカと父親はどうしたか確認した。
「指示通り、フランチェスカ嬢が殿下に何らかの方法で魅了を掛けた、と言う疑いで、家宅捜査を命じました。勿論、その様な薬の購入実績は無いと思いますが、何か後ろ黒いものが出て来れば、すぐに殿下に報告します」
そう、私とダニエレの結婚に伴い、彼の実家を調べたかった。
彼等には申し訳無いが、悪事や不正の芽は早い内に摘んでおきたい。
悪い噂は確かに有った。しかし噂の範疇で、今まで捜査や監査は何も出来なかった。フランチェスカを調べる名目で、全ての書類を調べる事が出来る。
何も出ないに越した事は無いが、フランチェスカにも脅しを掛けたかった。これで、私の事もダニエレの事も、関心を持たなくなれば良い。
**********
気が付いたら知らない部屋だった。
此処はどこ、、、?
部屋を見回し、記憶を辿る、、、。
カチャリ、、、と鍵が開く音がした。
僕は息を飲み、キツく目を閉じる。
誰?
どうしてもっと早くベッドから出なかったんだろう。何処かに隠れていれば良かった。
寝ているフリを気付かれ無い様に、キツく閉じた目を緩める。
心臓の音が煩い、、、。呼吸が早くなって、起きているのがバレてしまう。
ギシ、、、。ベッドが深く沈み、誰かが僕の側に座った。
そっと髪を撫でる。
怖い。
髪を掬い、触っている。
、、、。
ギシ、、、。
顔が近寄って来ている、、、。
誰か、助けて、、、。
こめかみにキスをされた。
どうしよう、どうしよう。
その人は布団を捲り、そっと入って来た。
嘘でしょう?!
後ろから抱き締められる。
どうしてこんな事をするの?!
涙が溢れて来る。
「ダニエレ、、、」
名前を呼ばれた。
「ダニエレ、、、好きだ、、、」
殿下だと分かった。
殿下は僕を抱き締め、僕の頸に顔を埋めると匂いを嗅いだ。
「愛してる、、、」
僕はそっと息を吐き、寝ているフリを続けた。
*****
遠くでノックの音がする、、、。
何度も、何度も、、、。
「ちっ、、、」
ちっ?
殿下が静かに布団から出て、扉を開けに行った。
寝たフリをして、そのままウトウトしてしまった。
カチャリ
「殿下、、、ダメだと言った筈ですが、、、」
「、、、ジョバンニ、、、」
はぁ、、、とため息を吐いている。
「お前、私がどれだけ我慢してるか分かるか?」
「分かりません」
「やっとやっと、ダニエレと二人きりになれたんだ、空気を読めよ」
「いけません。間違いが有っては困ります」
「、、、」
「一時間後に朝食になります。侍女を呼びますから着替えて下さい」
「分かったよ」
「失礼します」
ドアが閉まり、殿下がベッドに戻って来る。
「ダニエレ、、、」
どうしよう、、、起き方が分からない、、、。振り向けば良いかな?起きていたって、気付かれ無い様にしたい。
ギシ、、、。
「ダニエレ、お早よう」
髪にキス。
「一緒に朝食を食べよう」
横向きで寝ていた僕に触れ、そっと仰向けにする。
瞼にキス。
「お早ようございます」
今、起きた様に囁いた。、、、上手く出来たかな?
「キス、、、したい」
僕がゆっくり瞬きをすると、殿下の顔が近付いて来た。思わず目を閉じる。
軽く触れるキス。
**********
寝起きのダニエレは可愛かった。
一度キスをしたら、もう一度したくなる。
二度目の唇へのキスは、味わう様にゆっくりと。 ダニエレの柔らかい唇が、魅惑的で離せない。
唇で唇をそっと噛むと、ダニエレは私に手を伸ばす。
無意識に私に腕を回し、唇を開いた。
人の唇や舌が、甘い訳が無いのに、私は彼の甘い甘いキスに、自分を止める事が出来なかった、、、。
ノックの音がする。
私はダニエレの頬を包み、額を重ねる。
ふふふ、、、と、私が小さく笑うと、ダニエレもふふふと笑う。
「起きよう、ダニエレ。着替えて朝食を摂ろう」
「はい、殿下」
彼の手を取り、起こす。
侍女が入って来て、支度を始めた。
カーテンを開けると、温かい日差しが入って来る。
新しい朝を感じた。
**********
僕は、王太子殿下と一緒に、城に住む事になった。
屋敷の中は、今、色々な事で落ち着かないから。
殿下と挨拶をして、僕だけ、執事長や侍女達、色んな人達に挨拶をして回った。
ルッジェーロ様は、僕に会いに来ていた。
「ダニエレ、それ、どうしたの?」
「それ?」
「首筋になにか、、、!、、、」
ルッジェーロ様の顔が急に赤くなった。
「どうしたんですか?」
「いや、、、ちょっと、、、」
口元を押さえながら、口籠る。
「?」
「ダニエレは殿下に愛されてるんだね」
「なっ!えっ?どうしたの?急に!」
ルッジェーロ様が僕の頭をポンポンと叩いた。
「離れろ」
はぁ、、、と溜息を吐いてルッジェーロ様が後ろを振り向く。
「殿下!」
「挨拶は済んだ?ダニエレ」
「はい」
と返事をして、殿下の側に行こうとしたらルッジェーロ様に抱き寄せられた。
「???」
「ダニエレ、、、淋しくなったら、いつでも帰っておいで」
そう言って、額にキスされた。
「ちょっ!ルッジェーロ様っ?」
グイッと殿下に腕を引かれ、いきなり口付けをされる。
「んっ!んーっ!、、、!」
人前でキスなんて、僕には無理だよっ!
口を開けろと、殿下は僕の頬を包んだ親指に力を入れて、下に下げようとする、、、
「んー!んー!」
僕は必死に抵抗した。
「殿下、、、結婚前です」
あ、、、ジョバンニも来てたんだ、、、。
殿下がジョバンニを、ジロリと睨みつけてから
「私の婚約者に指一本触れてみろ、どうなるか分からないからな、、、」
とルッジェーロ様を脅した。
僕は上手く息が出来なかったから、殿下の胸に寄り掛かった。
「では、城に戻ろうか」
殿下は僕を抱き上げる。
「あの!僕、ちゃんと歩けます!」
「ダメダメ、油断してると悪い虫が付くからね」
「、、、悪い虫は殿下じゃないですか、、、」
ルッジェーロ様がポツリと言った。
**********
ダニエレの屋敷は、特に大きな問題は無かった。 少し、帳簿の記入間違えがあったものの、それ程酷いものは無く、私とダニエレの結婚式の準備は順調に進んで行った。
フランチェスカはもう、ダニエレに近寄れない。彼女は彼女で上手く結婚相手を見つけるだろう。
「ダニエレ、、、」
「はい、殿下」
「もうすぐ結婚式だね」
「そ、そうですね!」
結婚式の話しをすると、ダニエレは恥ずかしいのか少し赤くなる。
「早く、ダニエレと初夜を迎えたいな」
「あ、、、あ、あ、、、」
初夜と言う言葉だけで、赤くなるダニエレが可愛くて、ついつい構いたくなる。
可愛い私の婚約者、、、。
私が魅了されるのは、君だけだよ。
ルッジェーロ様にも、素敵な相手が見つかりますように、、、。え?ジョバンニとか?




