第4話 定期考査後編その1
そして6月22日月曜日。
今日から定期考査が始まる。
今日の試験科目は現代文と古典だ。
「……どこまでできるかな。」
普段なら自分に言い聞かせる言葉だが、今回はカナの無事を願う言葉でもあった。
教室で現代文の教科書を読んでいると、後ろからカナの呼ぶ声が聞こえた。
-----
私は朝早くから緊張していた。今日から定期考査が始まる。最初の科目は現代文と古典。特に古典はマコトが一生懸命教えてくれた範囲が出題される。昨日の夜、マコトが印刷してくれたプリントを何度も読み返して、必死に勉強した。「仁和寺にある法師」の口語訳と原文をノートに何度も書き写した。マコトが教えてくれた一つ一つの言葉の意味を頭に叩き込もうとした。
教室に入るとマコトが既に席に座り、現代文の教科書を読んでいるのが見えた。少し緊張しながらもマコトの背中に向かって声をかけた。
「マコト! おはよう! ねえねえ今日のテスト、大丈夫かな? カナ、昨日の夜、めっちゃ勉強したんだよ! マコトがくれたプリント、何回も読み返したし、ノートにも書き写したし……でもやっぱり不安で……。マコト……カナ、ちゃんとできるかな?」
マコトの隣に立ち、少し不安な表情でマコトを見つめた。手には、昨日マコトが印刷してくれたプリントが握られている。プリントの端は何度も読み返したせいで少しだけ折れ曲がっていた。私の目に少し涙が浮かんでいた。それは不安の涙ではなく、マコトへの感謝とテストに対する緊張の涙だった。
「マコトが教えてくれた事、絶対忘れないようにするから……! カナ、頑張るね! マコトも頑張ってね!」
そう言って私は笑顔を作った。その笑顔はいつもの明るい笑顔とは違って緊張と不安が混じったぎこちない笑顔だった。教室には緊張した空気が漂っている。
-----
「ああ。お互い頑張ろう!」
俺とカナは拳を合わせる。チャイムが鳴って、カナは慌てて自分の席に戻っていった。
担任の加藤先生がやって来て、定期考査の説明をする。一通り注意事項を話し終え、加藤先生は教室を出ていった。
しばらくして、別の先生が問題用紙と解答用紙の束を持って教室に入ってきた。どうやら試験官のようだ。
問題用紙と解答用紙が全員に配られた後、チャイムが鳴る。試験開始の合図だ。
「解答始め!」
試験官の声が響き、一斉に問題用紙や解答用紙をのぞき込む。現代文の試験が始まった。
-----
マコトと拳を合わせ、慌てて自分の席に戻った。心臓がドキドキと激しく鳴っている。マコトと一緒に頑張ろうと約束した事、昨日マコトが教えてくれた事を思い出しながら、深呼吸をして気持ちを落ち着かせようとした。
担任の加藤先生が注意事項を説明し、教室を出ていった後、試験官の先生が問題用紙と解答用紙を配り始めた。
配られた用紙を受け取ると、手が少し震えている事に気づいた。緊張している。でもマコトも頑張っている。私も負けられない。
-----
まずは問題1を軽く読む。太宰治の『走れメロス』からの出題だ。『走れメロス』は教科書に載っている。落ち着いて答えればカナでも大丈夫だろう。
メロスは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の王を除かなければならぬと決意した。メロスには政治がわからぬ。メロスは、村の牧人である。笛を吹き、羊と遊んで暮して来た。けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。きょう未明メロスは村を出発し、野を越え山越え、十里はなれた此このシラクスの市にやって来た。メロスには父も、母も無い。女房も無い。十六の、内気な妹と二人暮しだ。この妹は、村の或る律気な一牧人を、近々、花婿として迎える事になっていた。結婚式も間近かなのである。メロスは、それゆえ、花嫁の衣裳やら祝宴の御馳走やらを買いに、はるばる市にやって来たのだ。先ず、その品々を買い集め、それから都の大路をぶらぶら歩いた。メロスには竹馬の友があった。セリヌンティウスである。今は此のシラクスの市で、石工をしている。その友を、これから訪ねてみるつもりなのだ。久しく逢わなかったのだから、訪ねて行くのが楽しみである。歩いているうちにメロスは、まちの様子を怪しく思った。ひっそりしている。もう既に日も落ちて、まちの暗いのは当りまえだが、けれども、なんだか、夜のせいばかりでは無く、市全体が、やけに寂しい。のんきなメロスも、だんだん不安になって来た。路で逢った若い衆をつかまえて、何かあったのか、二年まえに此の市に来たときは、夜でも皆が歌をうたって、まちは賑やかであった筈だが、と質問した。若い衆は、首を振って答えなかった。しばらく歩いて老爺に逢い、こんどはもっと、語勢を強くして質問した。老爺は答えなかった。メロスは両手で老爺のからだをゆすぶって質問を重ねた。老爺は、あたりをはばかる低声で、わずか答えた。
「王様は、人を殺します。」
「なぜ殺すのだ。」
「悪心を抱いている、というのですが、誰もそんな、悪心を持っては居りませぬ。」
「たくさんの人を殺したのか。」
「はい、はじめは王様の妹婿さまを。それから、御自身のお世嗣を。それから、妹さまを。それから、妹さまの御子さまを。それから、皇后さまを。それから、賢臣のアレキス様を。」
「おどろいた。国王は乱心か。」
「いいえ、乱心ではございませぬ。人を、信ずる事が出来ぬ、というのです。このごろは、臣下の心をも、お疑いになり、少しく派手な暮しをしている者には、人質ひとりずつ差し出すことを命じて居ります。御命令を拒めば十字架にかけられて、殺されます。きょうは、六人殺されました。」
「メロスが激怒した理由を答えよ。」
俺は問題文を読み、解答の根拠を探す。「必ず、かの邪智暴虐の王を取り除かなければならぬと決意した。」「いいえ、乱心ではございませぬ。人を、信ずる事が出来ぬ、というのです。」
おそらくこの辺をまとめれば良いのだろう。
「国王は人を信用できず、人々を苦しめ続けているから。」と解答用紙に書き込んだ。
-----
チャイムが鳴り、「解答始め!」という試験官の声が響いた。問題用紙をめくり、問題1を読み始めた。太宰治の『走れメロス』。教科書で何度も読んだ作品だった。
「『メロスが激怒した理由を答えよ。』……えっと、えっと……」
問題文を読みながら必死に記憶をたどった。確か王様が人を信じられなくなって、人々を苦しめていた話だった。メロスはそれに怒って……そうだ、王様を倒そうと決意したんだ。私は教科書の本文を思い出しながら解答を書いていく。
「国王が人を信じられず……人々を苦しめていたから……メロスは激怒した……」
解答を書き終え、ホッと一息つく。最初の問題はなんとか答えられた。でも試験はまだ始まったばかりだ。私は次の問題を読んでいく。教室には鉛筆を走らせる音、紙をめくる音だけが響く。
-----
問題2に差しかかり、俺のペンが止まる。山田円寿の『若者の不満』からの出題なのだ。評論ではあるが、教科書には載っていない。
「おいおい、こんなのってありかよ……」
文句を言っても仕方がない。とにかく問題文を読み進める。
かつての不良のパフォーマンスは、一種の「対話の試み」でもあった。バイクの爆音や喧嘩は、社会に対する「俺を見ろ」という強烈なシグナルだった。そこには他者と衝突し、ぶつかり合うことで生まれる熱量が存在した。
対して、現代の不満の表出は極めて静かである。SNSの「裏垢」での吐露、薬物依存、自傷行為。これらは他者への攻撃ではなく、「自分を削ることでしか苦痛を和らげられない」という悲痛な生存戦略である。不満を表明しても誰も責任を取ってくれない、あるいは誰のせいにもできないという絶望が、彼らを自傷的な行為へと追い込んでいる。
現代の若者を縛るもう一つの要因は、可視化された「承認」のシステムである。かつての不良は、限られた地元のコミュニティで「恐れられる」ことで満足できた。しかし、現代はSNSを通じて全世界の「キラキラした成功」や「正しい生き方」が絶え間なく流れ込んでくる。
他者と比較し、自分がいかに欠陥品であるかを突きつけられる環境下では、不満を他者に向けることすら「格好悪い」「的外れ」だと感じてしまう。家族や先生に反抗するエネルギーを出す前に、「こんなことで悩んでいる自分が悪い」という自己検閲が働いてしまうのだ。これは、魂が外部へ向けて発火する前に、内側で酸欠を起こしている状態と言える。
かつての不良が「外の世界」と戦っていた戦士だったとするならば、現代の苦しむ若者たちは、自分という檻の中に閉じ込められた「囚人」である。
不満を他者のせいにできることは、ある種の健全さ(メンタルヘルスにおける防衛本能)を孕んでいた。しかし、すべてを自分の内側に抱え込み、自己責任という刃で自分を切り刻む現代の構造は、かつての暴力よりもはるかに残酷で、救い出しにくい闇を形成している。
昔の不満の表明方法と現在の不満の表明方法について比較して説明せよ。
「……これは問題文を全て読まないと解答できないぞ?」
かなり意地悪な問題をぼやきながらも俺は文章を読み、解答の根拠を探す。
「かつての不良のパフォーマンスは、一種の『対話の試み』でもあった。バイクの爆音や喧嘩は、社会に対する『俺を見ろ』という強烈なシグナルだった。そこには他者と衝突し、ぶつかり合うことで生まれる熱量が存在した。」「対して、現代の不満の表出は極めて静かである。SNSの『裏垢』での吐露、薬物依存、自傷行為。これらは他者への攻撃ではなく、『自分を削ることでしか苦痛を和らげられない』という悲痛な生存戦略である。」
この辺りをまとめるしかない。
「昔は社会に対して明確に不満を表明していたが、現在は自分を攻撃することで不満を抑えている。」
解答用紙にそう書くのが精一杯だった。
-----
私も問題2に差し掛かったとき、顔色が変わった。山田円寿の『若者の不満』。教科書に載ってない評論文だった。問題文を読み始めたが、難しい言葉が並んでいてすぐには理解できなかった。
「え……、これ教科書に載ってないじゃん……。生存戦略って何? 自己検閲って……? うわあ、どうしよう……」
小さく呟き、必死で問題文を読み進める。若者が不満を抱いている話はなんとなく分かった。昔の若者の不満と今の若者の不満が違うという話。私はシャープペンを握り、問題文を何度も読み返した。「他者と衝突し、ぶつかり合うことで生まれる熱量が存在した。」「対して、現代の不満の表出は極めて静かである。」……この辺りが重要なのかな?
「えっと……昔の不満の表明方法と現在の不満の表明方法について比較して説明せよ……。昔の若者は……はっきりと不満を言っていた。でも今の若者は……我慢する……?」
そう考えて解答を書き込む。自分が書いた答えが正しいのか全く自信が持てなかった。私の額には汗が浮かんでいる。現代文の試験は思った以上に難しかった。
「マコトはちゃんと解けてるのかな……。カナ、これで大丈夫かな……?」
私はチラッとマコトの方を見ようとしたけど、すぐに視線を戻した。カンニングと疑われたら大変だ。深呼吸して次の問題に進んでいく。マコトが教えてくれた「全部完璧に理解しなくても大丈夫」という言葉を思い出しながら必死に問題を解いていった。
-----
問題3の文章を読み始め、俺の手が凍りついた。問題3では田崎安弘の『小説を書くということ』から出題されていた。当然教科書では取り扱っていない題材だ。文章から随想だということはなんとなく分かるが……
さて、あなたは指の痛みとあくびに耐えながら原稿用紙30枚分の小説を書いた。自分が面白いと思えるキャラクターを考え、感動した情景描写を散りばめ、自分が読んでおもしろいように書き切った。さあ、誰が読んでくれるか。
読む人などいない。あなたのファンなど存在しないのである。私のように依頼されて、編集者がいて、新聞に掲載欄があっても、誰も読まない。ましてや、自分で開設したブログサイトにそんな文章を載せても、誰も読まない。なぜか。あなたは夏目漱石ではないからである。
「もはや定期考査じゃなくて模試だろ!」と突っ込みたくなるのを我慢する。俺も初めて読む文章だ。恐らく最近出たものだろう。普通に読む分には面白いのかもしれないが、これは定期考査。命がかかっている場面で笑う気には到底なれない。
俺は続きを読む。
例えば「1000年の歴史を持つ銀河帝国」という舞台をテーマにしてSF小説を読み、数学・物理学の書をあさり、自分が面白いと感じた比喩表現や言い回しをたくさん取り入れて小説としてまとめ、インターネットに載せても、せいぜい数人、よくて数百人がたまたまサイトを巡って終わるだろう。
だが例えば夏目漱石が美味しかった100円の芋羊羹の話を書いたら、何百万人もの人々が書店に殺到し、聖地巡礼として芋羊羹の店に客が殺到し、芋羊羹の値段は跳ね上がるだろう。あなたが築いた1000年も続く銀河帝国は芋羊羹100円に完敗だ。
よく小説指南の本には「面白い表現が重要」と書いてあるが、現実は違う。「誰が書いたか」が重要なのだ。だからこそ「売れっ子小説家になりたい」「書店に山積みにされたい」「サイン会を開きたい」といった欲を捨て、まず書いた物語を自分が面白いと思うことが大切だと気付くべきだ。
それを徹底することで逆に読まれるチャンスが生まれる。昔読んだ本に「生きるということは言葉を紡ぐこと」というよく分からないフレーズがあったが、その心意気で物語を紡ぎたい。
ただし、「私はまず夏目漱石のような有名人になって、小説を書いて売りたい」という人がいたら、反対しない。それはかなり正しい。
俺は設問を見る。
「夏目漱石ではない」とはどういうことか、説明せよ。
夏目漱石というのは恐らく具体例だろう。重要なのはこの文章で夏目漱石が何を意味するか、ということだが……。
俺は文章をもう一度読み直す。最後の文、「わたしはまず夏目漱石のような有名人になって」に注目する。恐らくここでは夏目漱石というのは「有名人」という意味で使われているのだろう。「誰も読まない。なぜか。あなたは夏目漱石ではないからである。」と合わせて考えると夏目漱石のような有名人ではないから誰も読まない、ということになるのだろう。
あとは誰が有名人か――つまり主語、何を読まないのか――つまり目的語、に気をつけてまとめればいいはずだ。
「書き手は夏目漱石のような有名人ではないから、誰も書き手が書いた小説を読まないということ。」と解答用紙に書いた。
チャイムが鳴り、試験官の「解答止め!」の声で俺はペンを机に置く。解答用紙の回収が終わったあと、試験官の先生は集めた解答用紙を持って教室を出た。いきなり波乱の展開となった。
-----
私は問題3の文章を読み始めた瞬間、頭が真っ白になった。田崎安弘の『小説を書くということ』。これも教科書に載ってない文章だった。私は問題文を読み進めたが、何が書いてあるのか、全く理解できなかった。
「え……夏目漱石? 芋羊羹……? 銀河帝国……? これ、何の話……?全然分かんない……!」
小さく呟き、必死に問題文を読み返す。でも読めば読むほど何が言いたいのか分からなくなってきた。「読む人などいない」「夏目漱石ではないから」……。私は頭を抱えたくなった。でも試験だから諦めるわけにはいかない。私は問題文を何度も読み返した。
「『夏目漱石ではない』とはどういうことか、説明せよ……。えっと……夏目漱石じゃないから誰も読まない……? でもそれだけじゃあ答えにならないよね……? うーん、うーん……」
私は焦りながらも必死で考える。マコトが教えてくれた「全部完璧に理解しなくても大丈夫」という言葉を思い出す。でも今回は何が書いてあるのか本当に分からなかった。
私は自分なりに考えて解答を書いていった。
「夏目漱石のような有名人じゃないから……誰も読まない……ということ……?」
そう書き終えたが自分の答えが正しいのか全く自信が持てなかった。額にはさらに汗が浮かんでいた。
チャイムが鳴り、「解答止め!」という試験官の声が響く。シャープペンを置き、現代文の試験が終わった。
解答用紙が回収され、試験官の先生が出ていった後、深いため息をついた。現代文の試験は思った以上に難しかった。特に問題2と問題3は教科書に載ってない文章で、本当に苦戦した。
私はマコトの席に近づき、声をかけた。
「マコト……現代文、どうだった……? カナ、全然できなかった気がする……。特に問題2と問題3、あれ難しすぎたよ……」
-----
「ここまで難しいとは俺も思わなかったよ……これじゃあ模試じゃねえか……」
さすがの俺でも難しい問題に困惑し、カナを励ます言葉が見つからなかった。問題3の夏目漱石をネタにする気には当然なれなかった。
「古典の試験、どうなるかな……」
俺はカナの顔を見る気になれなかった。俺の不安がカナにも伝わってしまう気がするからだ。
-----
マコトの「ここまで難しいとは俺も思わなかったよ……これじゃあ模試じゃねえか……」という言葉を聞いて少しホッとした。マコトでも難しいと感じたという事は、私ができなくても仕方がないのかもしれない。でも同時に不安も大きくなる。マコトが難しいというなら私はもっとできていないはずだ。私はマコトの顔を見ようとしたけど、マコトはこちらを見てくれなかった。マコトも不安なんだ、と思った。
-----
続いて、古典の試験が始まった。
俺は問題1の文章を読む。仁和寺にある法師。教科書からの出題だ。
仁和寺にある法師、年寄るまで石清水を拝まざりければ、心うく覚えて、ある時思ひ立ちて、ただひとり、徒歩より詣でけり。極楽寺・高良などを拝みて、かばかりと心得て帰りにけり。
さて、かたへの人にあひて、「年比思ひつること、果たし侍りぬ。聞きしにも過ぎて尊くこそおはしけれ。そも、参りたる人ごとに山へ登りしは、何事かありけん、ゆかしかりしかど、神へ参るこそ本意なれと思ひて、山までは見ず」とぞ言ひける。
少しのことにも、先達はあらまほしき事なり。
「読みは当たったようだな……」
俺の予想が当たったことにひとまず安堵する。
仁和寺の法師が失敗したことについて説明せよ。
これは簡単だ。「石清水を拝まざりければ、心うく覚えて、ある時思ひ立ちて、ただひとり、徒歩より詣でけり。極楽寺・高良などを拝みて、かばかりと心得て帰りにけり」の部分を口語訳して整理すれば良い。
「石清水八幡宮を拝むはずが、極楽寺と高良神社だけ拝んで帰ってしまったこと。」と解答用紙に書く。
-----
古典の試験が始まり、私も問題用紙を開く。問題1の文章を見た瞬間、私は目を見開いた。「仁和寺にある法師」。マコトが教えてくれた文章だった。私は心の中で喜ぶ。マコトの予想が当たった! 昨日何度も読み返したプリントの内容を思い出しながら問題文を読み始めた。
「『仁和寺の法師が失敗したことについて説明せよ』……! これ、マコトが教えてくれたところだ! えっと、えっと……石清水八幡宮を拝むはずだったのに、極楽寺と高良神社だけ拝んで帰っちゃったんだよね! そうだ、そうだった!」
小さく呟き、解答を書いていく。マコトが教えてくれた口語訳を思い出しながら自分なりの言葉でまとめていく。
「石清水八幡宮を拝むために参拝に行ったのに、極楽寺と高良神社だけを拝んで、本当の本殿がある山の上まで行かずに帰ってしまったこと。」
そう書き終えると、少しだけ自信を持てた。現代文の試験は散々だったけど、古典の試験はマコトのおかげでなんとかなりそうだ。私は次の問題に目を向ける。古典の試験はまだ続く。でも私の心には少しだけ希望の光が射し込んでいた。マコトが教えてくれた事を絶対に無駄にしたくない。そう思いながら必死に問題を解いていった。
-----
続いて問題2。友とするにわろき者。これも教科書からの出題だ。きちんと学習を進められなかったが、大まかな意味は分かっている。大丈夫だ、と自分に言い聞かせる。
友とするに悪き者、七つあり。一つには、高く、やんごとなき人。二つには、若き人。三つには、病なく、身強き人。四つには、酒を好む人。五つには、たけく、勇める兵。六つには、虚言する人。七つには、欲深き人。
よき友、三つあり。一つには、物くるる友。二つには医師。三つには、智恵ある人。
ここで触れられている「よき友」について説明せよ。
俺は書かれている原文を読む。
「よき友、三つあり。一つには、物くるる友。二つには医師。三つには、智恵ある人。」
「……つまり、物をくれる人、医者、賢い人、ということでいいんだよな?」
「物をくれる人。医者。賢い人。」と解答用紙に書く。予想以上に簡単だが、先ほどの現代文の試験のことを考えると思わぬ罠があるかもしれない。意地悪な採点で減点されないことを願いながら、問題を進めていった。
-----
私も問題2に差し掛かった。「友とするにわろき者」。これもマコトが教えてくれるはずの範囲だった。でもマコトと一緒に勉強する時間が足りなくてこの部分をあまり詳しく勉強できていなかった。少し不安になりながらも問題文を読み進めた。
「『よき友』について説明せよ……。えっと、『よき友、三つあり』……三つあるんだ。一つには物くるる友……? 物をくれる友達ってこと? 二つには医師……お医者さん? 三つには智恵ある人……賢い人?」
私は原文を読みながらなんとなく意味を理解しようとした。マコトが教えてくれた「全部完璧に理解しなくても大丈夫」という言葉を思い出しながら解答を書いていく。
「物をくれる人。お医者さん。賢い人。」
そう書き終えるが、少し不安になる。これで本当に合っているのだろうか? でも原文にはそう書いてあるから間違ってはいないはずだ。深呼吸して次の問題に目を向けた。古典の試験は現代文よりも少し簡単に感じた。マコトが教えてくれたおかげでなんとか問題を解き進めることができている。マコトへの感謝の気持を胸に必死に問題を解き続けた。
-----
問題3を見て、またも俺のペンが止まった。或人、弓射る事を習ふに。徒然草92段。教科書にない範囲だ。
「……これは自力で読むしかないのか……」
俺は原文に目を通す。
或人、弓射る事を習ふに、諸矢をたばさみて的に向う。師の云わく、「初心の人、二つの矢を持つ事なかれ。後の矢を頼みて、始めの矢に等閑の心あり。毎度、ただ、得失なく、この一矢に定むべしと思へ」と云ふ。わづかに二つの矢、師の前にて一つをおろかにせんと思はんや。懈怠の心、みづから知らずといへども、師これを知る。この戒め、万事にわたるべし。
道を学する人、夕には朝あらん事を思ひ、朝には夕あらん事を思ひて、重ねてねんごろに修せんことを期す。況んや、一刹那の中において、懈怠の心ある事を知らんや。何ぞ、ただ今の一念において、直ちにする事の甚だ難き。
弓矢で2本の矢を持ってはいけないという話であることは分かる。問題はその理由だろう。
「『二つの矢を持つ事なかれ』の理由を説明せよ。」
解答のヒントになる文章を読み直す。「後の矢を頼みて、始めの矢に等閑の心あり」の部分に根拠があるのだろう。
「……つまり、次に放つ矢を当てにして、最初の矢をいい加減に撃つから、ということか?」
解答用紙に「次に撃つ矢を当てにして、最初の矢をいい加減に撃つから」と書きこむ。
チャイムが鳴り、古典の試験が終わる。試験官が解答用紙を回収して、教室を後にした。
今日の試験はひとまずこれで終わりだ。ホームルームの時、加藤先生がこう言った。
「急な話ですが、定期考査についてお知らせします。物理基礎の出題範囲ですが、事情により運動の法則までとするそうです。」
物理基礎の出題範囲が変更されたようだ。力学的エネルギーの内容が出題されず、運動の表し方と運動の法則までに減ったらしい。
「試験準備の関係上、速やかに下校しなさい。以上です!」
ホームルームが終わり、俺とカナは近くのコンビニにやって来た。定期考査の準備や採点があるため、生徒は学校に残れないのだ。
-----
私も問題3を見た瞬間、また頭が真っ白になった。「或人、弓射る事を習ふに」。これはマコトが予想していなかった範囲だった。必死で原文を読み始めたが、古典の文章はやっぱり難しかった。
「えっと……弓を射る……二つの矢……? 『二つの矢を持つ事なかれ』……持っちゃダメってこと? なんで……?」
ほそぼそと呟き、原文を何度も読み返した。マコトが教えてくれた「口語訳から考える」という方法を思い出して原文の意味を一つずつ理解しようとした。「後の矢を頼みて、始めの矢に等閑の心あり」……次の矢があるから最初の矢を適当に撃つ、という事? 私は自分なりに理解して解答を書き込む。
「次の矢があると思って最初の矢を適当に撃ってしまうから。」
そう書き終えたがやっぱり自信がなかった。もう時間もない。必死に最後まで問題を解き続けた。
チャイムが鳴って古典の試験が終わった。
私は深いため息をついた。現代文も古典も思った以上に難しかった。マコトが教えてくれた「仁和寺にある法師」と「友とするにわろき者」はなんとか解けたけど、突然出された問題は自信がなかった。
ホームルームで物理基礎の出題範囲が変更されたと聞いたとき、少しだけホッとした。範囲が減ったということは勉強する量も減るということだ。でも同時に不安も大きくなった。今日の試験がこんなに難しかったのだからこれからの試験もきっと難しいに違いない。
ホームルームが終わって私はマコトと一緒に近くのコンビニにやって来た。学校に残れないからコンビニで休憩することにしたのだ。
コンビニのイートインスペースに座り、マコトの顔を見た。マコトも疲れているようだった。少し不安な表情でマコトに話しかけた。
「マコト……お疲れ様……。今日の試験、めっちゃ難しかったよね……。カナ、現代文の問題2と問題3、全然分かんなかった……。古典は、マコトが教えてくれたところはなんとかなったけど、問題3は自信ない……。マコトはどうだった……?」
そう言ってマコトの反応をうかがう。マコトに自分の不安な気持ちを少しでも聞いてもらいたかった。マコトも同じように不安を感じているなら一緒に励まし合いたかった。コンビニで買ったアイスコーヒーのストローをくわえながらマコトの言葉を待っていた。
-----
「俺もここまで難しいとは思わなかったよ。とんでもない所に来た気がするな……」
先ほど買ったペットボトルの緑茶を飲む。「濃い味」と書かれているからか、緑茶の苦みが口に広がる。
「教科書の内容が出題されると思っていたんだが、予想がことごとく外れているな……」
古典の出題範囲の予想は当たっていたが、完全ではない。現代文については言うまでもない。
「学校の先生達は何を考えて問題を作ったんだろうな……?」
先生方の意地悪な問題にただ困惑することしかできない。俺達の学校は卒業後進学する人、就職する人が半々だ。進学先も近くの大学や知名度が低い大学ばかりで、いわゆるエリートの学校ではない。
明日は世界史と日本史の試験がある。試験初日から前途多難で、今後の見通しが立たなかった。
-----
「俺もここまで難しいとは思わなかったよ。とんでもない所に来た気がするな……」というマコトの言葉を聞いて一安心した。マコトも同じように感じていたんだ。
私はコンビニで買ったアイスコーヒーを一口飲んだ。冷たくて甘い味が疲れた体に染み渡る。
「ほんとだよね……。マコトが予想してくれた『仁和寺にある法師』と『友とするにわろき者』は出たけど、それ以外は全然予想できなかったもんね……。特に現代文の問題2と問題3は教科書に載ってない文章だったし……。先生たち、何考えてるんだろう……?」
少し不満の表情を浮かべ、マコトの言葉に同意した。私も先生たちの意図が全く理解できなかった。ストローをくわえたままぼんやりとコンビニの窓の外を眺めた。外はまだ明るく、昼下がりの日光が街を優しく照らしていた。
「明日は世界史と日本史だよね……。カナ、世界史も日本史も全然自信ないんだけど……。っていうか、今日の試験がこんなに難しかったら明日の試験もきっと難しいよね……? どうしよう、マコト……。カナ、もうダメかも……」
少し泣きそうになった。今日の試験の事を思い出すと不安でいっぱいになった。私はマコトの顔を見つめながら小さく呟いた。
「ねえ、マコト……。今日家に帰ったら、一緒に世界史と日本史の勉強、できないかな……? カナ、一人じゃ絶対にムリだと思うんだ……。マコトが一緒にいてくれたら少しは頑張れる気がするんだけど……。ダメ……かな……?」
恥ずかしいけど、真剣な眼差しでマコトに頼んだ。誠に頼りっぱなしで申し訳ないと思っていた。でも今はマコトの力を借りないと本当にどうにもならない気がした。私はアイスコーヒーのカップを両手で握りしめ、マコトの返事を待っていた。
-----
「そうだな、少しでも勉強した方がいいもんな」
だが、リュックには現代文と古典の教材しか入れてなく、世界史と日本史の教材を取りに一度家に戻る必要がある。学校や図書室も試験の準備関係上立入禁止となっている。
「……そうだな、一旦家に帰って教材を持ってこよう。近くの図書館なら開いてるはずだからそこで勉強しよう」
俺は一旦カナと分かれて家に帰り、世界史と日本史の教材をリュックに入れて、中央図書館の入口でカナが来るのを待った。
-----
マコトが「そうだな、少しでも勉強したほうがいいもんな」と言ってくれたのを聞いて表情が明るくなった。マコトが私と一緒に勉強してくれる事が嬉しくて思わず微笑んだ。「一旦家に帰って教材を持ってこよう。近くの図書館なら開いてるはずだからそこで勉強しよう」とマコトが言って、私は大きく頷いた。
「うん! 分かった! じゃあ、カナも一度家に帰って教材持ってくるね! 中央図書館の入口で待ち合わせだね! 絶対遅れないから!」
私はそう言ってマコトと分かれ、急いで自分の家に向かった。私の家はマコトの家とは逆の方向にある。小走りで家に帰り、自分の部屋に駆け込んだ。机の上に乱雑に積まれた教科書やノートの中から世界史の教科書とノートを探し出した。
「えっと、世界史の教科書……あった! 日本史の教科書も……よし! ノートは……あれ? ノート、どこだっけ……?」
部屋中を探し回ってようやく世界史と日本史のノートを見つけた。それらをトートバッグに詰め込むと、急いで家を出た。私は中央図書館に向かって走った。マコトを待たせたくない。そう思いながら必死に走り続けた。
私が中央図書館の入口に着いたとき、マコトはもう待っていた。私は息を切らしながらマコトに駆け寄った。
「マコト! ごめん、ちょっと遅くなっちゃった! 教材、持ってきたよ!」
そう言ってトートバッグの中から世界史と日本史の教科書、ノートを取り出し、マコトに見せた。それから私は少し恥ずかしく笑ってマコトの顔を見つめた。
「それじゃあ、勉強しよっか! 今日もよろしくね!」
それから私はマコトと一緒に中央図書館の中に入った。図書館の中は静かで涼しかった。マコトと一緒に空いている席を探した。
私の心は期待と不安でいっぱいだった。今日の試験は散々だったけど、マコトと一緒なら明日の試験は少しでも良い結果が出せるかもしれない。そう信じてマコトの後ろをついていった。
-----
俺達は中央図書館に入り、2階の学習スペースの座席に並んで座る。
まずは出題範囲を再確認する。世界史は古代の中国文明まで。日本史は古代全般――平安時代までだ。
俺は世界史、日本史それぞれの教科書の目次を開く。世界史は古代の文明の概略、日本史は時代ごとの概略に絞って勉強を進めれば良さそうだ。
「世界史は古代4文明について勉強すれば大丈夫そうだ。日本史は縄文・弥生・古墳・奈良・平安時代の大雑把な出来事について勉強すればいいと思うけど……カナはどっちから勉強したい?」
どちらにしても時間が必要で、明日試験本番だ。時間があまりにも少な過ぎる。俺はカナの意思を尋ねた。
-----
マコトと一緒に図書館の2階の学習スペースに座ると、私も自分の教科書とノートを机の上に広げた。マコトが出題範囲を再確認しているのを見て、私も自分の教科書の目次を開いた。世界史は古代の中国文明まで。日本史は平安時代まで。目次を見ながらため息をついた。範囲が広すぎる。
「えっと……世界史は古代4文明……? メソポタミア、エジプト、インダス、中国……だっけ? 日本史は……縄文、弥生、古墳、奈良、平安……。うわあ、めっちゃいっぱいあるじゃん……」
私は頭を抱えた。マコトから「カナはどっちから勉強したい?」と尋ねられ、少し考えた。どっちから勉強しても難しいことには変わりない。でも、日本史の方が少しだけ親しみがあるかもしれない。マコトの顔を見て少し恥ずかしく答えた。
「んー……カナ、日本史の方がまだ分かるかも……? 縄文とか弥生とか、なんか聞いたことあるし……。世界史はカタカナの名前がいっぱい出てきて覚えられる気がしないんだよね……。だから、日本史から勉強してもいい……?」
私はマコトの反応をうかがった。マコトに頼ってばかりで申し訳ないと思っていたが、今はマコトの力を借りないと本当にどうにもならなかった。私は日本史の教科書を開いて小さく呟いた。
「縄文時代から……だよね。マコト、縄文時代って、何があったんだっけ……? 土器とか……竪穴住居とか……? あと、狩りとか採取とか……? ねえ、マコト、教えて……?」
日本史の教科書を見ながらマコトに助けを求めた。私の目は真剣だった。明日の試験で少しでも良い点を取りたかった。マコトと一緒に勉強することで少しでも不安を和らげたかった。
-----
「わかった。じゃあまずは縄文時代から勉強しようか」
俺はノートを開き、教科書の縄文時代のページを開く。
「まず縄文時代の人々は竪穴式住居に住んでいて、狩猟で生計を立てていたんだ。で、土偶を作って祈りを捧げる習慣があったんだけど……」
と言って、俺の口が止まった。いわゆるアニミズムについて語り出すと説明が終わらなくなる。だが今回の試験を受けて、心配なことがあった。
カナが「どうしたの?」と聞いてきたので、俺は自分の考えを口にした。
「今日の現代文、古典の試験で、教科書にない範囲から出題されたよね? もし自分が出題する側なら、単に覚えているだけでは解けない問題も出すと思うんだ。でもそうすると勉強時間が足りなくなっちゃう。どうしよう……」
いつもらしからぬ俺の弱気な声が響いた。
-----
私はマコトの説明を一生懸命聞いていた。「竪穴式住居」「狩猟」「土偶」……。マコトの言葉を頭の中で繰り返しながらノートにメモをとろうとした。しかしマコトの説明が途中で止まってしまった。不思議に思ってマコトの顔を見た。マコトは何か考えているようだった。
「どうしたの、マコト?」
私が尋ねるとマコトは少し弱気な声で自分の考えを口にした。今日の試験で教科書にない範囲から出題された事。単に覚えているだけでは解けない問題が出るかもしれない事。そして勉強時間が足りなくなってしまうかもしれない事。私はマコトの言葉を聞いて少し驚いた。マコトがこんなに弱気になっている。私はマコトの目をじっと見つめた。マコトの目には不安と焦りが浮かんでいた。
少し考え、私はマコトの手をそっと握った。私の手は少し冷たかった。でもマコトの手を握る事で少しだけ勇気がわいてきた。私は真剣な表情でマコトの目を見つめながら静かに話し始めた。
「……ねえ、マコト。カナ、今日の試験、めっちゃ難しかったし全然できなかったと思う。でも、マコトが教えてくれた『仁和寺にある法師』と『友とするにわろき者』は、ちゃんと解けたんだよ。マコトが教えてくれたおかげで、カナ、少しだけ頑張れたの。だから……弱気にならないで。マコトが弱気になっちゃったら、カナ、もっと不安になっちゃうよ……」
そう言うと私は泣きそうになった。でも涙をこらえてマコトの手を強く握りしめた。マコトに元気を出してもらいたかった。私にとってマコトはどんなときでも頼りになる存在だった。そのマコトが弱気になってしまったらどうしていいか分からなくなってしまう。
「たしかに今日の試験は難しかった。明日の試験もきっと難しいと思う。でも……でもさ、マコトと一緒に勉強したら少しでも良い結果が出せるかもしれないじゃん? カナ、一人じゃ絶対にムリだけど、マコトと一緒なら少しは頑張れる気がするんだ。だから……一緒に頑張ろう? ね?」
私は少し強引にマコトの顔を覗き込んだ。私の目は真剣で、少しだけ潤んでいた。マコトを励まそうとしていた。でも同時に、私もマコトに励まされたかった。マコトの手を握ったまま小さく呟いた。
「……それに、マコトが言ってたじゃん。『全部完璧に理解しなくても大丈夫』って。だったら、今日も完璧を目指さなくても良いんじゃないかな? できる範囲で一緒に頑張ろうよ。ね、マコト……?」
私はマコトの返事を待った。マコトの手を握ったままじっとマコトの目を見つめていた。私の心臓はドキドキと激しく鳴っていた。こんなに真剣にマコトを励ましたのは初めてかもしれない。自分でも驚いていた。でも今はマコトに元気を出してもらいたい。その一心だった。
マコトの反応を待ちつつ、不安にもなった。もしかしたら余計な事を言ってしまったかもしれない。でも私は自分の気持ちを素直に伝えたかった。マコトの手を握る力を少しだけ強めた。
「……マコト。カナ、マコトと一緒にいたいの。一緒に頑張りたいの。だから……お願い。元気出して……?」
-----
「……ありがとう。そうだね。少しでもいいから頑張ろう」
俺は改めて作戦を考え直す。詳細はほぼ割愛し、その時代の特色に絞って説明する。残り時間でできるのはそれくらいしかなかった。
「……かなり飛ばすかもしれないけど、ついてきてね」
俺は再び説明を始めた。
「……で、土偶を作って神への祈りを捧げていたんだ。縄文時代はあまり重要なことがないから、次は弥生時代に進むね」
俺はノートのページをめくる。弥生時代の説明に入る。
「弥生時代に入ると、稲作が行われるんだ。狩猟から農耕生活に変わることで、一気に生活が変化する。身分の格差が生まれ、権力も起こり、代表者が選ばれるようになる」
俺は教科書のページをめくる。弥生時代後半だ。
「この頃、邪馬台国という国があって、卑弥呼という人を女王としてあがめていたんだ。また古代中国の魏とも交流があったようで、『親魏倭王』と書かれた金印も貰っていたそうだよ」
ここで一区切りつける。カナがノートに書き写している様子をじっと見る。
-----
「……ありがとう。そうだね。少しでも良いから頑張ろう」とマコトが言ってくれてほっと胸をなでおろした。マコトが元気を取り戻してくれた。私は嬉しく微笑み、マコトの手をそっと離した。私の頬はまだ少し赤く染まっていた。
「うん! 一緒に頑張ろうね! マコト!」
そう言って自分のノートを開いた。マコトが「かなり飛ばすかもしれないけど、ついてきてね」と言うと私は大きく頷いた。マコトが再び説明を始め、真剣な表情で聞き入った。「土偶」「神への祈り」……。マコトの言葉を頭の中で繰り返しながらノートにメモを取っていった。
弥生時代の説明に入り、必死でメモを取り続ける。「稲作」「農耕生活」「身分の格差」「権力」「代表者」……。マコトの説明を一つも聞き逃さないように集中していた。ただマコトが「邪馬台国」「卑弥呼」「魏」「親魏倭王」「金印」と説明すると私は少し混乱した。
「えっと……邪馬台国……卑弥呼……? 魏って……中国のこと? 『親魏倭王』の金印……? うーん、なんか聞いたことあるような、ないような……」
そう小さく呟きながらノートに書き込んだ。私の文字は少し乱雑になっていた。マコトの説明の速さについていくので必死だった。マコトが一区切りつけて、ノートに書き写している様子を見ていると、私は顔を上げてマコトの顔を見た。私の額には少し汗が浮かんでいた。
「マコト……ちょっと待って……。邪馬台国と卑弥呼と、魏と金印……これ、全部覚えなきゃダメ? なんかいっぱいあって頭がパンクしそう……」
少し困った表情でマコトに尋ねた。マコトの説明を理解しようと頑張っていたが情報量が多すぎて少し混乱していた。ノートを見ながら小さな声で整理しようとした。
「……でも弥生時代は稲作が始まって、生活が変わったってことだよね? それで身分とか権力が生まれて、邪馬台国という国があって、卑弥呼っていう女王がいた……。そういうこと?」
自分なりに理解した内容をマコトに尋ねて確認した。マコトの説明を完璧に理解できているわけではなかったが、少しずつでも理解しようと努力していた。マコトの顔を見つめながら次の説明を待っていた。
-----
「……うん、そういうことだよ」
カナが自分なりに整理したことを肯定し、頷く。
「とりあえず弥生時代は稲作が始まって、邪馬台国という場所では卑弥呼がそこを治めていた、ということは理解してほしいんだ。」
古墳時代の説明に入ろうとしたところで、「ピン、ポン、パン、ポン!」という放送音が鳴った。
「本日は、郡山中央図書館にご来館いただき、まことにありがとうございます。間もなく閉館の時間となります。お荷物の忘れ物がございませんようお気をつけてご退場をお願いします」
どうやら閉館の時間となってしまった。時計を見ると5時50分。
「……今日はここまでかな」
俺はカナと向き合って座る。
「かなり不安だよね。俺も不安なんだ。でも一緒なら頑張れそうな気がするんだ」
俺はカナの左手の上に自分の右手を重ねる。
「……いつもカナに与えてばかりだと思ってたけど、カナからも大事なもの、受け取った気がする」
だんだん俺の顔が赤くなる。
「……あ、ありがと……な……」
最後の一言はカナの目を見て言えなかった。
恥ずかしい気持ちをごまかすように、俺は椅子から立ち上がった。
「今日はちゃんと寝るんだぞ? 頑張り過ぎて試験を受けられなかったら……意味ないからな?」
-----
マコトの「うん、そういうことだよ」という言葉を聞いて少しほっとした。自分の理解は間違っていなかった。私はマコトの説明を一生懸命ノートに書き写していた。
「弥生時代は稲作が始まって、邪馬台国では卑弥呼が治めていた……」
その言葉を心の中で繰り返した。
マコトが古墳時代の説明に入ろうとしたとき、図書館の放送音が鳴った。放送を聞いて、残念な表情を浮かべた。もう閉館の時間なんだ。時計を見ると5時50分。もう少し勉強したかったけど仕方ない。「……今日はここまでかな」とマコトが呟き、私は小さく頷いた。
マコトが私と向き合って座る。「かなり不安だよね。俺も不安なんだ。でも一緒なら頑張れそうな気がするんだ」というマコトの言葉を聞いて胸が熱くなる。マコトも不安を感じているんだ。でも一緒なら頑張れる。私も同じ気持ちだった。
そしてマコトが私の左手の上に右手を重ねた。その瞬間、私の心臓が激しく鳴るのを感じた。マコトの手はあたたかかった。マコトの顔を見つめた。マコトの顔は少しずつ赤くなっていた。「……いつもカナに与えてばかりだと思ってたけど、カナからも大事なもの、受け取った気がする」とマコトが言ったとき、私の目には涙が浮かんでいた。私はその涙をこらえる。マコトが「……あ、ありがと……な……」と呟いたとき、私はマコトの手をぎゅっと握りしめた。
「マコト……。カナこそ、ありがとう……。マコトがいてくれるから、カナ、頑張れるんだよ……」
いつの間にか涙声になっていた。マコトの手を握ったまま、じっとマコトの顔を見つめた。マコトが椅子から立ち上がると私も慌てて立ち上がった。「今日はちゃんと寝るんだぞ? 頑張り過ぎて試験を受けられなかったら……意味ないからな?」と言われ、私は少し照れて微笑んだ。
「うん……分かってる。マコトもちゃんと寝てね? マコトが倒れちゃったらカナ、どうしていいか分かんなくなっちゃうから……」
私はマコトと一緒に中央図書館を出た。外はもう暗くなっていた。街灯が私たちの姿を優しく照らしていた。マコトと並んで歩きながら小さな声で話しかける。
「……ねえ、マコト。明日の試験、一緒に頑張ろうね。カナ、マコトと一緒なら、きっと大丈夫だと思うから……」
そう言ってマコトの顔をチラッと見た。期待と不安でいっぱいだけどマコトと一緒ならきっと乗り越えられる。そう信じて静かな夜の街を並んで歩いていた。
駅に着くと私はマコトの方を振り返った。ここで分かれなければならない。少し寂しくマコトに話しかけた。
「じゃあ、マコト……。今日はほんとにありがとね。カナ、マコトのおかげで少しだけ自信がついた気がする……」
私はトートバッグを抱き寄せた。バッグには勉強したノートや教科書が入っている。それからマコトの目を見つめて話した。
「明日、また学校でね。一緒に頑張ろう……! おやすみ、マコト……」
そう言って小さく手を振り、自分の家の方に向かって歩き出した。数歩歩いたところで立ち止まり、もう一度マコトの方に体を向ける。
「……マコト! 絶対ちゃんと寝るんだよ! 約束だからね!」
そう叫ぶと恥ずかし気に笑い、家の方に向かって再び歩き出した。
-----
6月23日火曜日。今日は世界史と日本史の試験だ。
教室では早速問題用紙と解答用紙が配られている。
「世界史の勉強のとき……倒れちゃったからなあ……」
カナと一緒に世界史の勉強をしようとしたとき、インフルエンザで倒れてしまったことを思い出す。そのせいもあって世界史はきちんと勉強できていなかった。カナにとっては勉強できていないプレッシャーに加え、突然俺が倒れてしまったトラウマもあるだろう。だが今はとにかく集中しなければならない。
チャイムが鳴り、試験が始まる。まずは問題1の問題文を読む。
エジプト文明で、霊魂は不滅である教えを信じ、死体を加工して作られたものを答えなさい。
これは「ミイラ」だな。
エジプトで作られた文字の名前は何か。また、その解読の手掛かりとなった物は何か。
「ヒエログリフ」、「ロゼッタストーン」。
一般常識も組み合わせて考えれば解ける問題だ。俺は解答用紙に語句を書き込んでいく。
-----
私も教室で問題用紙と解答用紙を受け取っていた。問題用紙を見た瞬間、不安な気持ちでいっぱいになった。世界史。一緒に勉強しようとしたけどほとんど勉強できなかった。マコトが倒れてしまったあのときのことが頭によぎる。私は小さく首を振ってその記憶を振り払おうとした。今は試験に集中しなければならない。
チャイムが鳴り、試験が始まった。深呼吸して問題用紙を開く。私は問題文を読み始めた。
「エジプト文明で霊魂は不滅であるという教えを信じ、死体を加工して作られたものを答えなさい……。えっと……死体を加工……? あ、ミイラ! ミイラだ!」
小さな声で呟き、解答用紙に「ミイラ」と書き込む。
「エジプトで作られた文字の名前は何か。また、その解読の手がかりとなった物は何か……。えっと……文字の名前……? ヒエロ……ヒエログリフ? そうだ、ヒエログリフだ! 解読の手がかりは……えっと……ロゼッタ……ロゼッタストーン!」
少し自信はなかったけど解答用紙に「ヒエログリフ」、「ロゼッタストーン」と書き込む。マコトと一緒に勉強する予定だったけど、マコトが倒れてしまってほとんど勉強できなかった内容だった。でも授業で聞いたことがあるような気がした。少しだけほっとした。
私はマコトの方をチラッと見た。マコトは真剣な表情で問題用紙を見つめている。マコトが頑張っている姿を見て、自分も頑張らなきゃと思った。私は再び問題用紙に目を向けた。次の問題文を読み始める。世界史の試験はまだ始まったばかりだった。
-----
問題2。メソポタミア文明に関する問題だ。
「目には目を、歯には歯を」の条文で有名な法律の名前を答えよ。
これは「ハンムラビ法典」だな。
メソポタミア文明で有名な文学作品の名前を答えよ。
確かこれは「ギルガメッシュ叙事詩」……だったかな?
勉強不足がたたり、なかなか思い出せない部分が出てくる。無理な部分は諦め、次の問題に進んだ。
-----
私も問題2に進んだ。メソポタミア文明。
「『目には目を、歯には歯を』の条文で有名な法律の名前……。えっと、えっと……ハンムラビ……ハンムラビ法典! そうだ、確かそうだった!」
少し自信を持って解答用紙に「ハンムラビ法典」と書き込んだ。この言葉は授業で何度も聞いたことがあった。
「メソポタミア文明で有名な文学作品の名前を答えよ……。えっと……文学作品……?メソポタミアの……?」
私は頭を抱えた。文学作品の名前なんて全く思い出せなかった。必死に記憶をたどろうとしたが何も出てこなかった。諦めて次の問題に進むことにした。分からない問題で時間を使い過ぎるのは良くない。マコトもそう言っていた。小さくため息をついて次の問題文を読み始めた。
-----
問題3。今度はインダス文明だ。
インダス文明最大の遺跡の名前を答えよ。
これは「モヘンジョ・ダロ遺跡」だな。
キリスト教・イスラム教・仏教で、インダス文明に由来するものはどれか。
確かインダス文明はインド付近で起こった文明だ。「ガンダーラ」という曲を思い出し、解答を選ぶ。
これは「仏教」だな。
身分の格差によって生まれた制度の名前を答えよ。
これは「カースト」だな。スクールカーストの語源となっていることから考えて答える。
次で最後の問題だ。
-----
私も問題3に進んだ。インダス文明。
「インダス文明最大の遺跡の名前……。えっと、えっと……モヘン……モヘンジョ……? モヘンジョ・ダロ……? 遺跡……?」
自信がなかったがとりあえず解答用紙に「モヘンジョ・ダロ遺跡」と書き込んだ。この名前は授業で聞いたことがあるような気がした。
「キリスト教・イスラム教・仏教で、インダス文明に由来するものはどれか……。えっと……インダス文明は……インドの近く……? インドといえば……お釈迦様……? お釈迦様は仏教だから……仏教!」
少し自信を持って解答用紙に「仏教」と書き込んだ。インドといえば仏教、というイメージがあった。
「身分の格差によって生まれた制度の名前を答えよ……。えっと……身分の格差……? カースト! スクールカーストって言葉があるからカーストだ!」
解答用紙に「カースト」と書き込んだ。この問題は自信があった。
私は少しだけほっとした。次で最後の問題だ。問題用紙をめくった。最後の問題はどんな問題だろう。少し緊張しながら問題文を読み始めた。
-----
問題4。中国文明の問題だ。
殷で見つかり、漢字の由来となった文字の名前を答えよ。
これは有名だ。「甲骨文字」。
思想家である諸子百家の名前を3名挙げなさい。
色々と思想や派閥が分かれていて、かなりの人数に及ぶ。幸い代表例はすぐに挙がる。
「孔子」、「孟子」、「老子」。
警備のため作られ、ユネスコ世界遺産に登録されている建物の名前を答えなさい。
これも有名だな。「万里の長城」。
その後も語句記入の問題が続いた。幸い一般常識も含めて考えれば解ける問題だったため、大きな苦労はしなかった。
チャイムが鳴り、解答用紙が回収される。
無事に世界史の試験が終わったことで少しホッとした。
-----
問題4に進んだ。中国文明。
「殷で見つかり、漢字の由来となった文字の名前……。えっと……甲骨文字! そうだ! 甲骨文字!」
解答用紙に「甲骨文字」と書き込んだ。この言葉は授業で何度も聞いている。
「思想家である諸子百家の名前を3名挙げなさい……。えっと……孔子……孟子……老子……? 確か授業で聞いたような……」
少し自信なく「孔子」「孟子」「老子」と解答用紙に書き込む。この問題は少し不安だった。
「警備のため作られ、ユネスコ世界遺産に登録されている建物の名前……。えっと……万里の長城! これは有名だよね!」
解答用紙に「万里の長城」と書き込んだ。この問題は自信があった。
その後も語句記入の問題が続いた。私は必死で問題を解き続けた。分からない問題もいくつかあったけど諦めずに解答用紙を埋めていった。
チャイムが鳴り、解答用紙が回収された。
私は大きなため息をついた。世界史の試験が終わった。私はすぐにマコトの方を見た。マコトも試験が終わってホッとした表情をしていた。私は軽く微笑んでマコトに話しかけた。
「マコト……! 世界史、終わったね。どうだった……? カナ、結構分からない問題があったんだけど……」
私は不安な表情でマコトを見つめた。マコトがどんな感じだったのか気になっていた。
「メソポタミアの文学作品とか、全然分かんなかった……。あと諸子百家もちゃんと合っているかどうか自信ない……。マコトは、大丈夫だった……?」
-----
「ああ。無事解けたよ」
俺は右手の親指を立ててカナに応える。
「気を緩めずに、日本史も頑張ろう」
-----
マコトが親指を立てて応え、少しだけ安心した。マコトも無事に解けたんだ。私は小さく頷いてマコトに微笑んだ。「気を緩めずに、日本史も頑張ろう」とマコトが言って、私は少し緊張しつつも頷いた。
「うん……! 日本史も頑張る……!」
-----
チャイムが鳴り、今度は日本史の試験が始まる。
問題1は弥生時代。縄文時代はどうやら出題されなかったようだ。
弥生時代、何が起こり、どのような建物が作られたか。
弥生時代に起こったのは「稲作」だ。収穫物を保管するため、「高床式倉庫」が作られたんだったな。
邪馬台国を治めていた女王の名前を答えよ。
これは「卑弥呼」だ。
次の問題文を見て驚いた。
彼女はどのように邪馬台国を治めていたか。また、男の王がいないのはなぜか。
不安が的中してしまった。やはり単純な暗記では解けない。
確か呪術が関係していたのは覚えているが、なぜ男の王がいないのかについてはさっぱり分からなかった。
「卑弥呼は呪術で国を治めていた。」と書くのが精一杯だった。とにかく次の問題で挽回するしかない。
-----
チャイムが鳴り、日本史の試験が始まった。私は深呼吸して、問題用紙を開いた。
問題1は弥生時代。昨日マコトと一緒に勉強した内容を思い出しながら問題文を読み始めた。
「弥生時代、何が起こり、どのような建物が作られたか……。えっと……稲作が始まって……高床式倉庫が作られた……!」
少し自信を持って解答用紙に「稲作」、「高床式倉庫」と書き込んだ。昨日マコトが教えてくれた内容だ。少しだけほっとした。
次の問題。
「邪馬台国を治めていた女王の名前を答えよ……。これは……卑弥呼!」
解答用紙に「卑弥呼」と書き込んだ。この問題も自信があった。
次の問題文を見た瞬間、表情が曇る。
「彼女はどのように邪馬台国を治めていたか……? また、男の王がいないのはなぜか……。えっと……どのように治めていたか……? 呪術……? 確かマコトが言ってた気がする……。でも、男の王がいないのはなぜか……?」
私は頭を抱えた。昨日、マコトと一緒に勉強したとき、卑弥呼が呪術を使っていたことは聞いた気がする。でも、男の王がいない理由については、全く思い出せなかった。必死に記憶をたどろうとしたが何も出てこなかった。私は諦めてとりあえず解答用紙に「卑弥呼は呪術で国を治めていた」とだけ書き込んだ。男の王がいない理由については空欄のままにした。
私は小さくため息をついた。やっぱり、もっとちゃんと勉強しておけばよかった。少し落ち込みながら次の問題文を読み始めた。
-----
問題2。古墳時代を飛ばして飛鳥・奈良時代の問題だ。
大和時代から勢力を伸ばしてきた一族の名前を答えよ。
これは「蘇我氏」だな。
推古天皇の摂政となって政治を務めた人物の名前を答えよ。
これは「厩戸王」と「聖徳太子」がある。最近の解釈では聖徳太子は称号で、厩戸王が名前として使われたから「厩戸王」だ。
次の問題を見てまたもやペンの動きが止まる。
冠位十二階の制度・十七条の憲法が制定された理由を答えよ。
聖徳太子が冠位十二階の制度と十七条の憲法を制定したのは有名な話だ。だがその理由については深く学んでこなかった。
「……くっ……」
解答を諦め、次の問題に進む。
-----
私も問題2に進んだ。飛鳥・奈良時代。
問題文を読みながら、小さく呟く。
「大和時代から勢力を伸ばしてきた一族の名前……。えっと……蘇我氏……? そうだ、確か蘇我氏だった!」
解答用紙に「蘇我氏」と書き込んだ。この名前は授業で何度も聞いたことがあった。
次の問題。
「推古天皇の摂政となって政治を務めた人物の名前……。えっと……聖徳太子? でも、最近は厩戸王って呼ぶんだっけ……? どっちだろう……?」
少し迷ったが、とりあえず解答用紙に「聖徳太子」と書き込んだ。厩戸王という名前も聞いたことがあったが、聖徳太子のほうが馴染みがあった。
次の問題。
「冠位十二階の制度・十七条の憲法が制定された理由を答えよ……。えっと……理由……? 制度と憲法が制定された理由……?」
完全に頭が真っ白になった。冠位十二階の制度や十七条の憲法が聖徳太子によって制定されたことは知っていた。でもその理由については全く思い出せなかった。私は必死で思い出そうとしたが、何も出てこなかった。シャープペンを持ったままじっと問題文を見つめた。でも何も思い浮かばなかった。
「……分かんない……」
そう呟いて私は諦めた。解答欄を空欄のままにして次の問題に進んだ。目には涙が浮かんでいた。不甲斐なさに悔しさを感じていた。でも今は泣いている場合じゃない。涙を拭って次の問題文を読み始めた。
-----
問題3。平安時代の問題だ。
「此の世をば我が世とぞ思ふ望月のかけたることも無しと思へば」の詩で有名な人物の名前を答えよ。
これは「藤原道長」だな。
彼がその立場を利用して実権を握った政策の名前を答えよ。
摂政と関白。ともに天皇の代わりとなって政権を握る政策だ。「摂関政治」。
その政策の具体的手法について説明せよ。
面倒な問題に出くわしたな。
確か藤原道長は娘を次々と天皇に嫁がせ、その子供の補佐という名目で摂政と関白になり、実権を握ったんだった。
「藤原道長は娘を次々と天皇と結婚させ、その子供の摂政や関白となって政治の実権を握った。」
とりあえずこの問題についてはこんなものだろう。
チャイムが鳴って、解答用紙が回収される。
-----
私も問題3に進んだ。平安時代の問題だ。
「『 此の世をば我が世とぞ思ふ望月のかけたることも無しと思へば』の詩で有名な人物の名前……。えっと……藤原道長……! そうだ、確か藤原道長だった!」
解答用紙に「藤原道長」と書き込んだ。この名前は授業で何度も聞いたことがあった。
次の問題。
「彼がその立場を利用して実権を握った政策の名前……。えっと……摂関政治……? そうだ、摂関政治!」
解答用紙に「摂関政治」と書き込んだ。この問題も自信があった。
次の問題を見た瞬間、私の表情が曇る。
「その政策の具体的手法について説明せよ……。えっと……具体的手法……? どうやって実権を握ったか……?」
必死で記憶をたどる。確か藤原道長は娘を天皇と結婚させて、その子供の補佐をする立場になって、実権を握ったんだっけ……?
少し自信なく解答用紙にこう書いた。
「藤原道長は娘を天皇と結婚させて、その子供の摂政や関白になって、政治の実権を握った……」
自分の書いた解答を見て、少し不安になった。これで合っているのかどうか自信がなかった。でももう時間がない。
その時チャイムが鳴った。解答用紙が回収される。日本史の試験が終わった。私は大きくため息をついた。マコトの方を見ると試験が終わってほっとしているようだ。
放課後、私はマコトと一緒にコンビニに向かった。私の表情には疲れが見えていた。今日の試験は思った以上に難しかった。私はマコトの隣を歩きながら小さくため息をついた。
「マコト……今日の試験、どうだった? カナ、結構分かんない問題があったんだけど……」
私は不安な表情でマコトを見つめた。
コンビニに着くと、いつものように飲み物を買って、マコトと一緒に近くの公園のベンチに座った。ペットボトルのお茶を開けて一口飲む。
「世界史はまあまあだったけど……日本史が……。卑弥呼がどうやって国を治めてたとか、男の王がいない理由とか、全然分かんなかった……。あと、冠位十二階の制度と十七条の憲法が制定された理由も……」
落ち込んだ表情でマコトに話しかけた。マコトと一緒に勉強したのにうまく解けなかったことが悔しかった。マコトの顔を見て、小さい声で話した。
「マコトは、ちゃんと解けた……? カナ、マコトに教えてもらったのに、全然ダメだった……。ごめんね……」
私は申し訳なくマコトに謝った。目には涙が浮かんでいた。自分の不甲斐なさに悔しさを感じていた。
ペットボトルのお茶を握りしめて俯いた。肩が小刻みに震える。私はマコトと一緒に頑張りたかった。マコトに迷惑をかけたくなかった。でも結局、うまく解けなかった。自分が情けなかった。
「カナ、もっと頑張らなきゃダメだった……。マコトにせっかく教えてもらったのに……。カナ、ほんとにバカで……ごめん……」
涙声でマコトに謝り続けた。マコトの顔を見ることができなかった。マコトに嫌われたくなかった。マコトに失望されたくなかった。ただただ申し訳ない気持ちでいっぱいだった。私は小さく震えながらマコトの返事を待った。
-----
「いや、後悔しても仕方ない。次の試験のことを考えよう」
俺はカナの肩に手を置いて話した。
明日は英語の試験だ。
「明日は英語の試験だけど……勉強、どうする?」
-----
マコトの手が自分の肩に置かれたのを感じて、少しだけ落ち着きを取り戻した。マコトの温かい手。私は涙を拭いて少し顔を上げた。「後悔しても仕方ない。次の試験のことを考えよう」と言ってくれた優しさでまた涙が溢れそうになったけど、必死でこらえた。マコトの言う通りだ。もう終わった試験の事を悔やんでも仕方がない。次の試験の事を考えなければならない。
マコトが「明日は英語の試験だけど……勉強、どうする?」と聞いてきたので、私は少し考え、小さく頷いた。
「……うん。英語……。英語、勉強しなきゃ……」
ペットボトルのお茶を一口飲んで気分を落ち着けた。マコトの顔を見つめて小さく微笑んだ。
「……マコト、ありがとう。カナ、マコトがいてくれるから頑張れるんだ……。英語、一緒に勉強してくれる……?」
少し恥ずかしがりながらマコトに尋ねた。私はマコトと一緒に勉強したかった。マコトと一緒ならきっと頑張れる。
「カナ、英語は……まあまあ得意だと思うんだけど……でも長文読解とか、ちょっと不安で……。マコトと一緒に勉強したら、もっと自信が持てると思うんだ……」
私は期待を込めた目でマコトを見つめた。私の目にはもう涙はなかった。その代わりにマコトへの信頼と次の試験への決意が宿っていた。私は、肩に置かれたマコトの手を自分の手で優しく握った。
「……ねえ、マコト。今日も図書館で勉強しよ……? 一緒なら、カナ、頑張れるから……」
そう言ってマコトに微笑みかけた。私の顔には少しだけ元気が戻っていた。マコトと一緒に次の試験に向けて頑張りたかった。マコトの手を握りしめ、返事を待った。
-----
「そうだな。ただ図書館では大きな声を出せないからなあ……」
英語の文章を音読して勉強しようと思ったが、場所がない。俺はカナの様子をうかがうように尋ねた。
「……俺の家で、一緒に勉強しないか?とりあえず荷物を持って、駅前に集合ってことで。そこからバスで一緒に俺の家に来ないか?」
-----
マコトの「そうだな。ただ図書館では大きな声を出せないからなあ……」という言葉を聞いて少し残念になった。確かに英語の勉強をするなら音読をしたほうが良い。でも図書館では大きな声を出せない。困った顔でマコトを見つめる。
そのときマコトが「俺の家で、一緒に勉強しないか?」と言った。その言葉を聞いた瞬間、私の顔が真っ赤になった。マコトの家……? マコトの家で、二人きりで勉強……? 私の心臓は激しく鳴り始めた。私はマコトの顔を見つめたまま、言葉が出なかった。
「え……ま、マコトの家……? 二人きりで……?」
私の顔は耳まで真っ赤になっていた。マコトの家に行った事は何度もあった。幼い頃はよくマコトの家で遊んでいた。でも高校生になってからマコトの家に行く機会は減っていた。今回は勉強のため。二人きりでマコトの部屋で勉強する。その状況を想像しただけでドキドキしてしまった。
それでも私はマコトと一緒に勉強したかった。マコトと一緒ならきっと頑張れる。私は少し恥ずかしく微笑み、小さく頷いた。
「……う、うん! マコトの家で……勉強する! ありがとう、マコト……」
そう言ってマコトの手を握りしめた。私の手は汗で少し湿っていた。
「じゃあ、一回家に帰って……荷物持って……駅前に集合だね……! 何時に集合する……?」
少し緊張した表情でマコトに尋ねた。マコトの家で、二人きりで勉強する。その状況を想像すると胸が高鳴った。私はペットボトルのお茶を一気に飲み干した。私の頬はまだ赤く染まっていた。
-----
「俺は駅で待ってるよ。カナの準備ができたら教えてくれ」
俺たちはひとまずコンビニで分かれた。駅前でカナと合流し、バスで一緒に行けば効率よく家に帰れるはずだ。
俺は駅前のバス乗り場でカナが来るのを待った。
-----
マコトと分かれると急いで家に帰った。玄関のドアを開けて自分の部屋に駆け込んだ。机の上に教科書やノートを広げ、英語の勉強に必要なものを確認した。英語の教科書、ノート、単語帳、文法の問題集……。私はそれらを全てトートバッグに詰め込んだ。
私は鏡の前に立った。自分の顔を見つめた。少し疲れた表情。でも目には決意が宿っていた。私は少しだけメイクを直した。リップを塗り直して髪を整えた。改めて確認し、小さく頷いた。よし、これで大丈夫。
トートバッグを肩にかけて部屋を出た。リビングには母がいた。母は私の姿を見て少し驚きの表情を浮かべた。
「カナ、どこ行くの? もう夕方よ?」
少し恥ずかしく微笑み、母に答える。
「あ、うん……。友達の家で勉強するんだ。明日、英語の試験があるから……」
「友達? 誰?」
「……マコト。幼馴染みのマコト」
顔を赤らめてマコトの名前を口にした。母は少し驚いていたがすぐに優しく微笑んだ。
「マコトくん? そう。じゃあ、遅くならないようにね。ご飯は?」
「……たぶん、向こうで食べると思う。遅くなったらごめんね」
「分かったわ。気をつけてね」
母に小さく手を振って家を出た。それから駅に向かって歩き出した。
私の心臓は激しく鳴っていた。マコトの家で二人きりで勉強する。その状況を想像するとますます落ち着きがなくなっていた。
駅に着くとすぐにマコトの姿を探した。マコトはバス乗り場で待っていた。マコトの姿を見つけると小走りで駆け寄った。
「マコト! 待った?」
少し息を切らしてマコトに話しかけた。トートバッグを抱きしめてマコトを見つめた。マコトの家で二人きりで勉強する。これから何が起こるのか少しだけ不安だった。でもマコトと一緒ならきっと大丈夫。私はそう信じていた。
「じゃあ、行こっか! マコトの家、楽しみ……」
そう言ってマコトに微笑みかけた。私はマコトと一緒にバスに乗り込んだ。バスの中で私はマコトの隣に座った。窓の外を見つめ、小さく呟く。
「……ねえ、マコト。カナ、マコトの家に行くの、久し振りだね。小さい頃はよく遊びに行ってたのに……」
少し懐かしそうに微笑んだ。バスが発車すると私はマコトの方を向いた。
「あの頃はマコトのお母さんがいつもおやつ作ってくれたよね。クッキーとか、ホットケーキとか……。すごく美味しかった……」
幼い頃の思い出を語りながら少し落ち着いた表情を浮かべた。でもすぐに緊張した表情に戻った。
「……でも今日は勉強しに行くんだもんね。ちゃんと集中しなきゃ……。マコト、カナがちゃんと勉強できるように、厳しくしてね……?」
そう言ってマコトの顔を覗き込んだ。私の目には真剣な光が宿っていた。
バスはマコトの家へ向かって走り続けた。




