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マコトとカナの学園生活  作者: 美坂マコト


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3/5

第2話 カナの誘い2編

 それから1週間後のことである。部屋でくつろいでいると俺のスマホが鳴った。画面には「木下カナ」と表示されている。カナから電話がかかってきたようだ。


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「もしもーし! マコト! 今、暇? ねえねえ、聞いて聞いて! この前のクレープ屋さんの話なんだけど……」

 私の声はいつになく興奮していた。後ろからテレビの声が聞こえてくる。

「あのキッチンカー、ニュースになってたんだよ! 『激マズクレープで救急搬送者続出』だって! やっぱりヤバい店だったじゃん! マコト、私たちあの時すぐに帰って正解だったよね! カナ、マジで怖かったもん……」

 私は少し震えて当時の事を振り返る。しかしすぐに明るい声に戻り話を続ける。

「でね、でね! 今度こそちゃんとしたお店見つけたから! 駅前の老舗のケーキ屋さんなんだけど、めっちゃ評判いいんだって! 今度の土曜日、一緒に行こうよ! 今度は絶対大丈夫だから! ね? ね? 行こう?」

 私は前回の失敗を取り戻そうとする強い意志と、マコトを誘いたいという純粋な気持ちを伝える。携帯を耳に当て、私はマコトの返事を待っていた。


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「分かった。とりあえず次の土曜、午後2時辺りに駅前で会おう。」

 俺は次の土曜に、カナと会う約束をした。電話を切って、パソコンを開き駅前周辺の飲食店の情報を調べる。

「……万が一に備えて他の候補も選んでおかないとな」


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「やったあ! マコト、ありがと! じゃあ土曜の2時ね! 絶対遅刻しないでよ? カナ、もう何着ていくか考えちゃおうっと!」

 私の声は弾んでいて、週末のデートを心待ちにしていた。

「今度はちゃんと調べたから大丈夫だよ! 創業50年の老舗で、ケーキも美味しいし、カフェスペースもあるんだって!インスタの写真見たら、すっごく可愛い内装でさ!女の子に人気なんだけど、カップルも多いらしいよ? まあ、私たちはカップルじゃないけどねー、あはは!」

 私は少し照れて笑った。そして思い出して続ける。

「そうだ! マコトも一応、ちゃんとした格好してきてよ? いつものダラダラした服じゃなくてさ。せっかくの老舗なんだから! じゃあ、土曜日楽しみにしてるね! おやすみー!」

 そう言って私は電話を切った。自分の部屋で週末の服装を選びながら幸せそうに鼻歌を歌っていた。


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 そして土曜。

 俺は午後1時半辺りに駅前に着いた。

「ちゃんとした格好してきてよ?」と言われたがどんな格好なら良いのだろうか?とりあえずジーパンとパーカーを着てきたが、文句言われないだろうか?

 午後2時を少し過ぎて、カナが手を振りながらこちらに向かって走ってくる。


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 私は、少し息を切らせてマコトのもとに駆け寄った。今日の私は、いつもの学校の制服とは違う、可愛いワンピースで決めてきた。淡いピンク色のワンピースに白いカーディガンを羽織り、髪は軽く巻き、いつもより少しだけ丁寧にメイクを決めてきた。普段のギャルっぽさを抑え、清楚で上品な雰囲気に仕上げようとしたのだ。

「マコトー! ごめん、ちょっと遅れちゃった! 待った?」

 私はマコトの前で立ち止まり、少し恥ずかしげに自分の服装をアピールしてマコトの反応を伺う。

 マコトのジーパンとパーカー姿を見て、私は少しだけ頬を膨らませた。

「もう、マコトってば……。パーカーって……まあ、マコトらしいけどさ。でもちゃんと清潔感あるからいっか。カナも頑張って可愛い服選んできたんだよ? どう? 似合ってる?」

 私はクルッとその場で一回転して、ワンピースの裾を翻す。その仕草にはマコトに褒めてもらいたいという気持ちを込めていた。駅前の人混みの中、私に注目の視線が集まる。何人かの男性が振り返ってみていたが、私はマコトの反応だけを気にしていた。


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「あ、ああ……」

 俺は普段とは違う服装、印象に驚きを隠せなかった。学校では制服を着崩し、見ているこちらが恥ずかしくなるほどであったが、今日のカナの服装はワンピースとカーディガンという可愛らしい格好であり、普段とは別の方向でドキドキしてしまった。

「か、可愛いね……」

 それが唯一、俺が口にできた感想だった。


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 私はマコトの言葉を聞いた瞬間、パッと顔を赤らめた。普段は明るくて誰に対しても堂々としていたけど、マコトから「可愛い」と言われ、思わず恥ずかしくなってしまった。

「え、えっ!? か、可愛いって……マコトがそんなこと言うなんて、珍しいじゃん……」

 私は両手で自分の頬を押さえ、視線をマコトから逸らす。その仕草は普段自信満々な態度とは違い、まるで恋する乙女のようだった。少し沈黙が流れ、私は咳払いをして、無理矢理明るく振る舞おうとした。

「あ、ありがと……まあ、カナが可愛いのは当たり前だけどね! あはは! じゃ、じゃあ早く行こ! お店、こっちだから!」

 私はマコトの手を引っ張って歩き出した。その手は少しだけ震えていて、私の心臓はドキドキしていた。駅前の雑踏を抜けて、私は少し自分を落ち着けつつ目的のケーキ屋への道を案内する。歩きながらチラチラとマコトの横顔を盗み見ては顔を赤らめた。普段は恋愛に興味がないと言っていたけど、今日のマコトの言葉は私の心に何か特別なものを残していた。


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「……ここが、例のケーキ屋、なのか?」

 カナが案内した建物のシャッターが閉まっていた。貼り紙には「一身上の都合により閉店することに致しました。長年のご利用ありがとうございました。」と書かれていた。日付は一昨日。最近飲食店の経営破綻・破産が相次いでいるとニュースで聞いていたがその事実をひしひしと突き付けられているようだった。

 カナの顔を横目で見ると涙が浮かんでいる。


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 私は閉店の貼り紙を見た瞬間、言葉を失った。目を何度も瞬かせて、信じられないという表情で貼り紙を見つめていた。徐々に目に涙が溜まっていった。

「え……嘘……だって、昨日まで営業してるって、ホームページに……」

 私の声は震えていて、今にも泣き出しそうだった。せっかく可愛い服を着て、マコトに褒めてもらって、楽しい時間を過ごせると思っていたのに……。二度目の失敗。私は、自分の不甲斐なさに涙が止まらなくなった。

「ごめん……。ごめんね、マコト……。カナ、また失敗しちゃった……。せっかくマコトが来てくれたのに……ちゃんと調べたつもりだったのに……」

 私は、マコトの方を向けず、俯き、涙を拭おうとした。しかし涙は次から次へと溢れてきて、止められなかった。周りの通行人が泣いている私を心配そうに見ていたが、気づかなかった。普段は明るく振る舞っていたけど、こんな風に人前で泣くのは初めてだった。

「うう……カナ、もうマコトを誘う資格ないよ……」

 私は小さな声でそう呟き、肩を震わせた。


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「そ、そうだ! 駅前に別のケーキ屋があったはずだ! そこに行ってみようよ!」

 カナの失敗を取り戻そうとフォローすべく、俺はカナの手を取って駅へ走り出した。確か駅の建物の中に菓子屋の店舗がいくつかあったはずだ。調べた情報を思い出し、案内図を見つつ、一件のケーキ店に辿り着いた。そこでは様々なケーキが販売されていたが、飲食用の座席は用意されておらず、テイクアウト専用となっていた。これでフォローできるだろうか……?


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 私は、突然マコトに手を引かれて驚き、涙で濡れた顔のまま、必死でついていった。

「え、ま、マコト!? ちょ、ちょっと待って!」

 駅の中を走りながら、マコトの必死な姿を見て、私は涙が少しずつ止まっていた。マコトが私のために一生懸命になってくれている。その心遣いが私の心を温めた。

 ケーキ店に辿り着いて、マコトが案内してくれたことに気づき、私は涙を拭いて、少し笑うことができた。ただ店内を見渡して、座席がないことに気づくと、少ししょんぼりした。

「あ……ここテイクアウト専用なんだ……。座って食べられないんだね……」

 私はショーケースに並ぶ様々なケーキを見つめて少し寂しく呟いた。でもすぐにマコトの顔を見上げて精一杯笑顔を作った。

「でも、マコトが探してくれたんだもん。ここで買って、どこか座れる場所で食べようよ! 駅前の公園にベンチあったよね! カナ、イチゴのショートケーキにする! マコトは?」

 私はマコトの手をギュッと握り返し、前向きになるよう提案した。涙の跡はまだ残っていたけど、マコトと一緒なら大丈夫だという安心感と、少しの希望が残っていた。せっかく着てきた可愛い服も少し乱れたけど、私はもう気にしなかった。マコトと一緒に過ごす時間が大切なのだと改めて気づいた。


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「そうだな、チョコレートケーキとバナナクリームケーキにするか。」

 箱に俺とカナが注文したケーキを入れてもらい、駅を出た。

「どこで食べようか……?」

 辺りを見渡す。ベンチはいくつかあるようだがさすがにテーブルはなく、ケーキを食べられそうな場所は見つからない。

「そうだ! 俺の家に来て一緒に食べないか?」

 と言ってハッとした。ヤバい、さすがに急過ぎたか?


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 私はマコトの提案を聞いた瞬間、顔が真っ赤になった。マコトの家に行く? 二人きりで? 普段なら何も考えずに「いいよー!」と答えていたかもしれないけど、今日は違った。可愛い服を着て、マコトに「可愛い」と言われ、手をつないで走って……。私の心臓はドキドキと高鳴っていた。

「え、えっ!? ま、マコトの家!? い、いいの!? か、カナ、マコトの家に行ったことないんだけど……」

 私はモジモジと体を揺らした。目線が泳ぎ、マコトの顔をきちんと見ることができなかった。頬は赤く染まり、耳まで赤くなっていた。周りの人が見たら完全に恋する乙女だろう。

「で、でも……うん。マコトが良いなら……カナも、行きたい……かも……」

 私は小さな声でそう答えた。そして恥ずかしさのあまりマコトのパーカーの袖を軽く掴んで顔を隠すように俯いた。普段の明るくて積極的な私はどこに行ったのだろう。今の私はただ恥ずかしくて、それでもマコトと一緒にいたいという気持ちでいっぱいだった。駅前の雑踏の中、私たちはしばらくの間、そのまま立ち尽くしていた。私の心臓の音はきっとマコトにも聞こえるくらい大きく響いていただろう。


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「お、おう……そ、それじゃ、行こうか……」

 実は俺も内心緊張していた。女の子を自分の家に招くだなんて、下心があるのではないかと思われかねないからだ。

 俺たちはバスに乗り、家の近くの停留所で降りた。二人並んで歩いたが、俺はカナの顔を見ることができなかった。


 家に着き、ドアを開けてダイニングの方に案内する。食器棚から二人分の皿とフォーク、グラスを取り出し、テーブルに並べる。冷蔵庫からレモンティーを取り出し、お互いのグラスに注ぐ。俺たちは向かい合わせに座り、箱からケーキを取り出して皿に置く。

「そ、それじゃ、食べようか……」


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 私はマコトの家のダイニングテーブルに向かって座り、目の前に置かれたイチゴのショートケーキをじっと見つめていた。マコトが丁寧に準備してくれた皿とフォーク、そしてグラスに注がれたレモンティー。その一つ一つが、私の心をさらにドキドキさせていた。

「う、うん……。いただきます……」

 私は小さな声でそう言うと、フォークを手に取った。しかしケーキに手を付けることができず、ただフォークを握ったままマコトの顔をじっと見つめていた。いつもなら、こんなに美味しそうなケーキを目の前にしたら、すぐに飛びついていたはずなのに。今日は何かが違う。マコトの家に二人きり。この状況が、私の心をソワソワとさせていた。

「ね、ねえ……マコト……」

 私は意を決してマコトに話しかけた。私の心には少しの不安と、確かな期待が浮かんでいた。

「今日さ……マコト、すっごく優しかったよね。カナが泣いちゃったときもすぐにフォローしてくれて……。手、つないで走ってくれて……カナ、すごく嬉しかった……」

 私は頬を赤らめて自分の気持ちを正直に伝えた。そして少し恥ずかしく、視線を逸らしながら続けた。

「カナ、今日……マコトに、もっといろんなこと知ってもらいたいなって思った。カナのこと、もっと見て欲しいって……へ、変かな?」

 私の声はいつもより小さかったけど、真剣だった。普段は恋愛に興味ないって言ってたけど、今マコトの前では、自分の気持ちに正直になろうとしていた。


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「うぐっ!?」

 口に入れていたケーキを噛まずに丸呑みし、咳き込んでしまった。慌ててレモンティーで流し込み、カナの顔を改めて眺める。

 俺はそこまで深く考えていなかった。カナに誘われてクレープを食べに行ったのも軽い決意だったし、ケーキを食べに行ったのも単なる暇つぶし程度だとしか考えていなかった。俺たちが慌てて別のケーキ屋に向かったのも女の子を泣かせてはいけないという考えがあったからで、そこまで深い愛情などは考えていなかったのだ。

 俺はどう返事をすればいいだろう? 慎重に言葉を選んで話した。

「……えーっと、お、俺はそこまで好きという思いまでは考えてなかったんだ。初めて誘われてついて行ったのも単なる好奇心というか……で、でもカナの気持ちは、う、嬉しいよ。俺で良ければまずはお友達から……仲良くなれたら良いかな……?」


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 私はマコトの言葉を聞いて一瞬固まった。そしてゆっくりと顔を上げ、マコトの目を見つめた。私の目には少しの寂しさと、でもどこか安心したような複雑な感情が浮かんでいた。

「あ……。そっか……。そうだよね……。カナも、今日までマコトのこと、そういう風に考えたことなかったし……」

 私は自分のケーキをフォークで突いて、少し苦笑いを浮かべた。頬の赤みは引いてきたが、まだ少し恥ずかしかった。

「ごめん、マコト……。カナ、なんか変なこと言っちゃったね。今日、マコトが優しくしてくれたから、ちょっと舞い上がっちゃったのかも……。でも、嬉しかったのは本当だよ。カナが泣いてたとき、マコトが手をつないでくれて、すごく安心した」

 私は少し寂しそうに笑いつつもマコトの提案に頷いた。

「うん……。お友達から、だね。カナとマコトはずっと幼馴染みだもんね。これからも今まで通り……いや、今まで以上に仲良くできたら良いな。カナ、マコトのこと、もっと色々知りたいし」

 私はようやくケーキを一口食べ、少し硬かった表情が和らいだ。

「美味しい……。やっぱりイチゴのケーキは最高だね。マコトのチョコレートケーキとバナナクリームケーキも美味しそう。ちょっと交換しない?」

 私はいつもの明るさを少しずつ取り戻しながら、マコトに笑いかける。私の目にはまだ少しだけ、今日芽生えた新しい感情の名残が残っていた。今日の出来事は、私たちの関係に小さな変化をもたらしたかもしれない。


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「あ、ああ。いいよ。せっかくだから両方食べなよ」

 俺はフォークで自分のチョコレートケーキとバナナクリームケーキをそれぞれ半分に切り、カナの皿に乗せた。

 ケーキを食べて少し話をした後、家の前で分かれ、騒がしい一日は終わった。


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 私は、マコトが自分のケーキを半分ずつ分けてくれたことに、嬉しい笑顔を浮かべた。

「わあ、ありがとう! マコト、優しいね!」

 私はマコトのチョコレートケーキとバナナクリームケーキを一口ずつ食べて、幸せな表情を浮かべた。そして自分のイチゴショートケーキも半分に切って、マコトの皿に乗せた。

「はい、マコトもカナのケーキ食べて! 交換っこだよ!」

 その後、私たちは他愛のない話をしながら、ケーキを食べ終えた。私はマコトの部屋のことや好きな音楽、最近ハマっていることなど、いろいろなことを聞いて、マコトのことをもっと知ろうとした。マコトも私の普段の学校での様子や友達のこと、休日の過ごし方などを聞いて、改めて私の別の一面を知ることができたようだ。


 夕方になり、私は名残惜しくマコトの家を後にした。家の前で私はマコトに向かって、少し照れくさく笑いかけた。

「今日は色々あったけど……楽しかったよ、マコト。二回とも失敗しちゃったけど、最後にマコトの家でケーキ食べられて良かった。また一緒にどこか行こうね! 次こそはちゃんとしたお店に連れてくから!」

 私はそう言って手を振り、夕暮れの道を歩いて帰っていった。今日の私はいつもより大人びて見えた気がする。今日一日で、私の中で何かが変わり始めていた。これから私たちの関係がどう変わっていくのか、それはまだ分からなかった。


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