番外編 北方騎士団の例のアレ6
アル、大丈夫?」
「…うん」
完全に酔い潰れたアルフォンスは結局そのままライオネルとリビングで眠り、完全に二日酔いだ。
北方に来るために取った休暇はあと一日。ゆっくりと休暇を楽しみながら西方に帰る予定だったのに、朝から顔色の悪いアルフォンスを見てソフィアは心配そうに言う。
「別に今日も休んでいっていいのよ」
「あ、大丈夫です。俺達は明日も休みなのでゆっくり帰ります」
荷物を纏めた二人を見送るために玄関に出てきたジュリアに、アルフォンスはなんとか笑顔を見せる。
「あ、それじゃあ俺が送ってあげるよ。最近気づいた事があるんだよね~」
ヒューがひょいと顔を覗かせる。
その言い方に、ソフィアは何となく嫌な予感がした。
子供の頃からヒューがそう言う事を言う時には、碌なことがない。
父と母も不審げな顔でヒューを見ている。
「なんか怖いんだけど」
「大丈夫、俺に任せて!アルフォンスさん二日酔いだからさ、二人とも西方に送ってあげるよ!」
「「は!?」」
その場にいた全員の声が揃った。
ヒューは一体何を言っているのか。
「じゃあ父さん母さん、二人を送ってくるね!」
「え!ちょっーー」
ヒューはソフィアとアルフォンスの腕を掴むと、三人の姿が消えた。
「…ヒューのやつ、二人連れて転移出来るのか」
ライオネルは消えた息子に驚きながら呟く。
魔力回路の治癒を受けた人間も、それを受け継いだ子も、転移自体は転移陣の力を借りずに出来るようになる。しかし他人と一緒に転移出来る事自体は稀なのだ。その上二人も連れて消えるとは。
底知れぬ末っ子の魔力量の高さに呆然とする。
「まぁ、なんて便利なのかしら。うちの子は本当に規格外だわ」
「ジュリア…」
ケラケラと笑う妻こそ規格外だとライオネルは思う。
便利なんて言葉で片付ける彼女は、昔から細かい事は気にしない。大らかで思い切りが良く、何とかなるさの辺境気質だ。
「これでジョシュアの彼女もヒューに連れてきてもらえるわ。二人で一緒に来られるじゃない。ふふ、楽しみだわぁ」
ウキウキと嬉しそうに家に戻っていく妻を見てライオネルは頭を抱えた。
「…ゼルク様の悩みの種が増えそうだな」
娘の恋人が新しい力を手に入れた事を知ったら、上司は何を思うのだろうか。
ただでさえ六歳の頃からマーガレットに執着しているのだ。
次の北方騎士団の例のアレは相当荒れそうだなと、ライオネルは大きなため息を吐いた。
「ーーっと、待ちなさ…」
ソフィアが言い終わらないうちに、三人は見慣れた部屋の中に立っていた。
「やった!やっぱり二人連れて転移出来たよ!」
「…いや、どういうことよこれ。帰りは二人でゆっくりのんびり帰るつもりだったのに」
温泉でも寄って旅行気分で西方に戻ろうと思っていたのに、気づいたら自分の部屋にいる。
さっぱり意味が分からない。
「何かさ、二人連れて転移出来そうだなって思ってたんだよね~。成功して良かったよ、これでマーガレットと結婚しても家族でどこでも行けちゃうね!」
ヘラヘラと笑っているヒューを、ソフィアはジトッとした目で見る。
「よし、マーガレットに教えてあげないと!じゃあ俺帰るから!」
「ちょっとヒュー!待ちなさーー」
ソフィアが言い終わる前に、ヒューは姿を消してしまった。
「もう、ヒューのやつ!」
「まぁまぁ、とりあえず帰って来られたから良かったとしようよ。本当に彼は天才だな」
「そういう問題じゃないわよ!もう、アルと一緒に旅行出来るって楽しみにしてたのに…」
ドサリと荷物を置いて、ソフィアはソファーに座り込んだ。
厄災が終わってようやく手にした長い休みだったのに、ヒューの余計なお節介で旅行の計画が無くなってしまった。
「旅行はまた行けばいいよ。これからも二人でいられるんだからさ」
「そうだけど…」
ブスッとしたままのソフィアの隣にアルフォンスが座る。
「お義父さんと戦ったり色々話したり、俺は楽しかったよ。こうやって家族が増えていくんだなって思うと嬉しいよ」
「アル…」
優しいソフィアの恋人は、ニッコリと笑顔を見せた。
まるで大きな犬のようだ。
自分よりも年上でよっぽど大きな体の彼を可愛いと思う。
「思いがけずゆっくり休める日が出来たんだからさ、今日も明日ものんびり過ごそうよ」
「そうね。ありがとう、アル」
ソフィアがそう言うと、アルフォンスにギュッと抱きしめられた。
ああ、幸せだ。
抱きしめられた温もりも、耳に感じる少し速い彼の鼓動も、全て愛おしい。
彼がクルクルとソフィアの髪を指に巻き付けているのが分かる。
少しだけこそばゆい。
髪に、耳に、首筋に、ゆっくりとアルフォンスの唇が触れていく。
ソフィアの唇に優しく口付けが落とされる。
だんだんと深くなる口付けに、ソフィアが心地よさを感じていたその時。
「ソフィア!忘れ物だよ!」
部屋に響いたヒューの声に、ソフィアもアルフォンスも思わず声の方を振り返った。
「あ~…」
ソファーで抱き合っている二人と目が合うと、ヒューは気まずそうに視線を逸らす。
「「ヒュー!!」」
ソフィアとアルフォンスの声が思わずハモった。
「な、な…!」
「うわ、お取り込み中だったね、ごめん!」
頭を掻きながら申し訳無さそうに言うと、持ってきた荷物を床に落としてまた消えてしまった。
デリカシーというものをどこかにぶん投げて来た弟の行動に、ソフィアの顔は真っ赤だ。
「マジか…」
アルフォンスは頭を抱えている。
そんな彼の肩をソフィアは両手で掴みブンブンと揺さぶった。
「この部屋にヒューが入って来られない結界張って!」
こんなの恥ずかしすぎる。
昨日ジョシュアの話を聞いたばかりだ。
「い、いや、無理だよっ!俺の魔力で何とかなるとは…」
「お願い!」
ソフィアに揺さぶられながらアルフォンスを苦笑いを浮かべる。
アルフォンスは思う。
多分自分の力ではヒューが入ってくるのを止められない気がする。
可愛い恋人の願いを叶えてあげたいが、まだまだこの力を使いこなせていない。
「あ、あの、もう少しこの力を上手く使えるようになるまで待って」
「じゃあそれまではアルの部屋で会う事にしましょう!行ったことがない場所には飛べないから!」
アルフォンスには何としても対ヒュー用の結界を身につけてもらわなければならない。
いつか子供が生まれたら、勝手に他人の部屋に転移してはいけないと言って育てよう。
確実に転移ができる魔力量を手に生まれてくるのだから。
自分の生活はこれからもきっと驚く事ばかりなのだろう。
ヒューの行動は頭が痛いが、なかなか体験出来ない事だらけだと、ソフィアは少しだけ笑った。




