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私を忘れた貴方と、貴方を忘れた私の顛末  作者: コツメカワウソ


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 ソフィアは走った。


 ゼルク達が去った後、何人もの騎士団員から質問攻めにあい、『仕事があるので!』と何とか振り切って逃げた。

 治癒室に駆け込むと、急いでドアを閉める。


「どうしたのソフィア、薬草を持って走ってはいけないよ」


 書類を眺めていたらしいフェイが、息を切らしたソフィアに声をかけた。


「父が…父がいて…」


「あぁ、そういえば今日、北方騎士団の団長が来るって話だったよね。英雄殿も来てたのかぁ」


「師長!知ってたんですか!?」


「うん。私は管理責任者の一人だよ」


「何で教えてくれなかったんですか!?」


 なんて事だ。

 フェイは知っていたのか。


「ソフィアをびっくりさせようかと思って。後で団長が呼ぶつもりだったみたいだから。え?もう会ったの?」


「たまたま隊舎の入り口で。会ったどころか娘だってバラして行きましたよ。団長室に転移陣を設置してくれたら良かったのに。何故隊舎の入り口に」


「流石にそういう訳には行かないよ。これ、正式な訪問だよ。秘密裏に来なきゃいけない理由がないよ」


 フェイの言葉は正しい。


(最悪だ。北の英雄の娘がこんな魔力が低い治癒師だなんて知られたら、また面倒が増える…)


 ソフィア自身は別に魔力が低いわけではなく、むしろ魔力量としては多い部類に入る。

 しかし化け物級の魔力量を持つ家族に囲まれて育ったソフィアは、それに気づかない。


 ぐったりと床に座り込み、ソフィアは頭を抱えた。


「ん~、良かったんじゃないかな。最近の君は色んな人から絡まれていたでしょ?英雄殿の娘だって分かれば、絡んでくる馬鹿は減るよ」


 少なくとも平民だと言ってくる人間は確実に減るだろう。

 北の英雄が伯爵令息だと言う事は知られている事実だ。


「いや、だったら余計面倒ですよ。父親が伯爵家なのに何でお前は平民なんだってなりません?」


「そこはまぁ。そうかもね」


 英雄の娘のくせに魔力は普通。

 娘だけ平民なのはライオネルの実子ではないから。

 身分に寛容な北方であっても、口さがない者はいた。

 北方での自身の微妙な立ち位置に疲れて西方に来たというのに。


「師長、今日私は調薬室に篭りますので」


「そうだね。その方が良さそうだ。騎士に会ったら英雄殿の事沢山聞かれそうだもんね」


 ソフィアは荷物を持ち直し、一日中調薬室から出るものかと心に決めた。





 ソフィアは一心不乱にポーションを作る。

 ひたすら集中して、余計な事を考えないようにする。 

 途中メルが来て、『ソフィアさん!お父さんめちゃくちゃ有名人じゃないですか!』と騒いでいたが、笑って誤魔化した。

 そうして過ごしていたが、昼過ぎには団長室に呼ばれた。


「ああ、もう絶対怒られるやつだわ」


 足早に管理者フロアへ急ぐ。

 途中グレイから『ソフィア嬢、あんたの父親って…』と声をかけられそうになりダッシュで逃げた。

 こんな事、どうせ無駄だと分かっているのに、とりあえず一旦逃げてしまおう。


 暗い気持ちで団長室のドアをノックする。


 入室の許可を得て部屋に入ると、やはりゼルクとライオネルが待っていた。


「ソフィア、ゼルク殿とライオネル殿がお前を心配していてな。せっかくだから会っていただいた方がいいかと思ったんだが、あ~…さっき会ったんだよな」


 レオナールに気を遣わせてしまって申し訳ない。


「団長、ありがとうございます。私もちゃんと話さないといけないと思っていたので、このような機会をいただけてありがたいです」


 ソフィアの目の前に座るゼルクとライオネルは怒っている訳ではなさそうだ。


「ゼルク様、父さん、今回の事でご心配をおかけして申し訳ありません」 


「話はジョシュアから聞いた。納得はしていないが、そのおかげでアルフォンス殿の力を借りることができた。母上もソフィアの気持ちを汲むようにと」


 ゼルクの言葉に、祖母のように慈しんでくれたリリスを思い出す。


「リリス様はお変わりないですか?」


「あぁ。マーガレットを最後に弟子は取っていないから、今はのんびりと過ごしているよ。たまにジュリアも遊びに来る」


「そうでしたか」


「私から言う事はそのくらいだ。母上もソフィアの顔を見たがっている。たまには帰ってきなさい」


「ありがとうございます」


 眼光鋭いゼルクだが、子供の頃からいつも良くしてもらった。

 自分の母親を頼って部下の恋人が公爵家に転がり込んでも、嫌な顔をする事は無かったと聞く。

 むしろ、前王の圧力に屈し結果的に隠蔽する形で魔力回路の治癒の一件をおさめた前騎士団長、ゼルク様の父親に苦言を呈していたらしい。

 実直な人柄なのだ。


「ライオネル、お前も話があるんだろう?」


 ゼルクがライオネルに呼びかける。


「はい。ソフィア、今回の事、何故相談しなかったんだ」


「全てが終わってから話そうかなって。それに魔導騎士の魔力回路が壊されたなんて、軽々しく他の騎士団に話せないわ」


「それはそうだが、せめて母さんにくらい言っておけば良かっただろう。経験者なんだぞ」


「母さんに言ったら父さんにも伝わっちゃうじゃない。そしたら反対したでしょう?」


 裏表のない性格で嘘を付けない母が、父に隠し事なんてできる訳ない。


「当たり前だ」


「だいたい何で治癒を受けた側の人間が反対するのよ。父さんにデメリット無かったじゃない」


「父親だからだ。それにデメリットはあった。ジュリアに逃げられた。あと恋人のためにというのも気に入らない」


 それが父の本音か。


「母さんと同じよ。記憶は無いけどそれだけ助けたかったのよ、多分。厄災だって迫っていたし」


「お前が西方で嫌な思いをしている事は知っていたから、それなのに何故と思う気持ちもあった。ヒューもいるし、あの頃のようにはいかなくても父さんだって動く事はできる。だからアルフォンス殿が治癒を受けなくても何とかなると思っていた」


「父さん…」


「それなのに勝手に兄上に申請など…対価の事を考えたら娘の心配をして何が悪い。結果ジュリアと同じように記憶を取られた」


「記憶だから困ってないわよ。それよりも父さんの娘ってバレて困ったことになってるから」


 もう絡まれたくない。

 平和に暮らしたい。


「アルフォンス殿に縁談が多く舞い込んで、お前今大変なんだろ?」


「いや、何で知ってるのよ。それってここ一月の話じゃない」


「北方には北方の情報網がある」


「それってレオナール様の前で言っていい話かな!?」


 案の定、レオナールが何とも言えない顔をしている。魔力回路の治癒の一件以来、レオナールは確実に老け込んだ。


「おいライオネル、余計な事は話すな」


 ライオネルの言葉にゼルクは苦虫を潰したような顔をしている。

 もしかして西方に密偵でも置いているのか。

 北方の諜報能力怖い。


「とにかく、ソフィアが俺の娘だと分かれば実力行使をしようとする者はいなくなるだろう。お前は知られたくなかっただろうが、娘を守るためにそのくらいはさせろ」


 父は父なりにソフィアの立場をどうにかしようとしてくれたのだろう。


「…そうね、ありがとう」


「もし辛くなったら、すぐに北方に帰ってきなさい。みんな待ってるから」


「ありがとう、父さん」


 父の愛情はいつも不器用だ。

 母に対しても子供達に対しても、全力で愛情をぶつけてくる父は、上手く立ち回るような事は出来ない。どちらかというと、力でねじ伏せるタイプだ。しかもその力は圧倒的。


「レオナール団長、ありがとうございます。なかなか戻らない娘と話す機会を与えていただいた事、感謝いたします」


 ライオネルは深々と頭を下げた。


「いえ、ソフィアのおかげでアルフォンスは魔力を取り戻しました。こちらこそ感謝しています」


 騎士団上層部達の会話が始まった所で、ソフィアは団長室を辞した。 

 父と話し、行きのどんよりした気分は晴れた。


「あとは、アル本人に会えるのが一番よね」


 どうやって?


 同じ隊舎にいてもなかなか会う機会は無い。

 アルフォンスが戻ってからも、残った魔獣の討伐に度々行っている。


 やっぱり魔法紙を飛ばそうか。


 ソフィアがそんな事を考えながら歩いていると、向こうから女性文官が歩いてきた。いつもソフィアに()()()教えてくれる一人だ。


(うわぁ…今一番会いたくない人じゃない…)


 引き返した所でこの廊下を通らなければ治癒室には行けない。

 生憎曲がる通路もない。


 仕方がない。ソフィアは覚悟を決めてすれ違う事にした。


 しかし、いつもは絡んでくるはずの彼女は、ソフィアを見るとバツが悪そうにそそくさと通り過ぎていった。


「あれ?」


 思わず立ち止まり振り返るも、彼女はあっという間にいなくなってしまった。


「…北の英雄効果、すごい」


 恐ろしい速度で話が広がったのだろう。


「…何だ。そこまで気にしなくても大丈夫じゃない」


 ありがとう、父。


 ソフィアは足取り軽く治癒室に戻ることができた。


 






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