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私を忘れた貴方と、貴方を忘れた私の顛末  作者: コツメカワウソ


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 厄災の元凶である瘴気の裂け目が閉じられたと吉報が齎された砦では、治癒師達が騎士の治療に当たっていた。

 皆酷い怪我をして、重症者も多い。

 ソフィアはひたすら治療を続けた。


 太陽が大分昇った頃、アルフォンス達が戻ってきたと聞き、ソフィアは急いで砦の入り口に走った。


 アルフォンスに会いたい。

 彼は無事なのか。


 入り口に近づけと人の声が大きくなってきた。

 廊下を曲がりアルフォンスを探す。

 皆一様にボロボロで、戦いの激しさを物語っている。

 アルフォンスはどこにいるのだろうか。

 必死に探すソフィアはふと、小さい頃から見慣れた騎士服の集団がいる事に気づいた。


「北方騎士団?」


 何故ここに北方騎士団が?

 驚いて立ちすくんでいると、一人の騎士と目が合った。


「ソフィアー!!!」


 自分によく似たその騎士は、砦に響く程の大声でソフィアの名前を呼んだ。

 何事かとその場に居る者達も振り返る。


「ヒュー!」


 何故ヒューがここに?

 ソフィアが疑問に思う間もなく、ヒューはソフィアに抱きついた。


「良かった!ソフィアも無事だったんだね!」


「ちょっ!ヒュー!痛いからっ!」


「何をしているんだお前は!」


 ヒューの後ろから走り寄ってきた人物が、ヒューの頭を叩く。


「他の騎士団で騒ぐな!迷惑だろう!」


「痛ったぁ!いきなり叩くとか酷いですよ、先輩!」


 ソフィアが驚いて顔を上げると、そこには親友の兄が居た。


「セルブス様…どうしてこちらへ…?」


 何故ここにセルブスが居るのだろう。

 理解が追いつかない。


「ソフィアか、色々あってアルフォンス殿の部隊と合流して瘴気の裂け目を塞いだんだ。うちの方も怪我人が多くてな、北方に戻る前にこちらで治療してもらう事になった」


「そうでしたか。セルブス様もご無事で何よりです。無事に厄災が終わって安心しました。あの…父は…」


「親父さんは元気だよ。ヒューがやらかしてくれたからまぁご立腹のようだが…ここに転移しようとして父上が止めたらしい」


 苦虫を潰した様な顔で話すセルブスとは対照的に、隣にいるヒューはニコニコと笑顔だ。


「俺の判断が合ってたからアルフォンスさんの部隊と合流出来たじゃないですか。お陰で瘴気の裂け目も聞いてた話より随分早く塞げましたし」


「結果論だ!そもそも一人で突っ走るな!自分の力を過信するな!」


「…は~い」


 ヒューの魔力は凄まじいが、騎士団はあくまで集団で動くものだ。

 単独行動で迷惑を掛けた自覚はさすがのヒューにも少しはあるらしい。


「なんか…弟がすみません」


「いや、ヒューの行動はこれから親父さんに叱ってもらうから大丈夫だ。君の恋人に偶々会えたのは、確かにヒューのおかげでもある」


 若干不満そうだが、セルブスも何とか裂け目を塞げた事に安堵しているのだろう。


「アルフォンス殿がいたお陰で、裂け目は随分早く塞げた。流石にヒュー一人ではこうはいかなかっただろう。ソフィアも心配だっただろう、良かったな」


「…はい」


「マーガレットも会いたがっている。落ち着いたら北方においで。まぁどこぞの馬鹿が勝手に転移して遊びに来ているようだがな」


「ご存知だったんですか?」


「流石に分かる。マーガレットは隠し事が苦手だからな。うちの使用人達もヒューが勝手に転移してくることに慣れているから」


 転移が出来るようになった六歳の頃から勝手に遊びに行っていたヒューを、リリス様も使用人達も可愛がってくれている。

 父やジョシュアよりも強い魔力を持つヒューが自由人ながらも捻くれずに育ったのは、主にセルブスが教育的指導をしてくれていたお陰だ。

 なんだかんだ言いながらも、セルブスはヒューを可愛がっている。


 ソフィアがセルブスと話していると、レオナールがやって来た。


「北方騎士団のセルブス殿か。私は西方騎士団団長のレオナール・デリング」


「初めまして、レオナール団長。北方騎士団魔導騎士のセルブス・フォーセライドと申します。この度は滞在の許可をいただきありがとうございます」


「いや、こちらこそ礼を伝えたい。まさか西方に瘴気の裂け目が出来ることは想像していなかった」


「アルフォンス殿の部隊と合流出来た事で、無事に裂け目を塞げました。うちにも規格外の魔導騎士がおりますが、アルフォンス殿と二人で塞げた事は僥倖でした」


 セルブスの隣にいたヒューがちょこんと頭を下げる。


「貴殿は?」


「…ヒューと申します」


 ヒューは意図的に家名は言わなかったようだ。


「ヒュー殿、瘴気の裂け目を塞ぐとは。とてもお若いように見えるが優秀なのだな」


「ヒューは正騎士になって半年程ですが、北の英雄を凌ぐ魔力量を持っておりますので」


「ん?」


 レオナールは聞いた事がある話だと思った。

 正騎士になって半年…

 北の英雄を凌ぐ魔力量…

 バッと音がしそうな勢いでソフィアを振り返る。


「あ、弟です」


「やっぱり…君の弟達は何というか、すごいな」


 確か、他の人間も一緒に転移できると言っていたはずだ。


「ありがとうございます」


 ソフィアが言うと、何故か一緒にヒューもお辞儀をする。


「団長殿。アルフォンス殿のような魔導騎士が西方にいた事は存じ上げませんでした。それに部隊の騎士達もみな強かった。我々だけでは残った魔獣の対応に苦慮していた事でしょう。ありがとうございます」


 騎士服はボロボロだが、深々と礼をするセルブスは明らかに高位貴族の威厳が感じられた。


「治療が終わり次第、私達は北方に戻りたいと思います」


「そうか。しっかりと治して帰ってくれ」


「ご厚意、感謝いたします。ソフィア、君にお願いできるか?」


「あ、えっと…」


 セルブスに言われ、思わずソフィアはレオナールの顔を見た。


「二人は知り合いか?」


「彼女は妹の親友なのです。それにソフィアはフォーセライド家で産まれましたから、私にとっては妹のようなものです」


「あぁそうか。フォーセライド公爵家はソフィアの母君の師匠か」


「はい」


「じゃあソフィア、北方騎士団の方を治療して差し上げてくれ。セルブス殿、お父君にもよろしくお伝えください。落ち着かずに申し訳ないが失礼する」


 そう言ってレオナールは足早に戻って行った。


「じゃあソフィア、よろしく頼む。久しぶりにソフィアに治療してもらったとお祖母様に報告しないといけないからな」


「ふふ、リリス様のお話も聞かせてくださいね」


 本当に皆無事で良かった。

 ソフィアは心からそう思った。

 きっとアルフォンスも無事なのだろう。

 落ち着いたらまた探しに行こうとソフィアは思った。




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