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私を忘れた貴方と、貴方を忘れた私の顛末  作者: コツメカワウソ


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 日に日に魔獣の襲撃が増えて来た。

 北方では大型の魔獣の目撃が増え、厄災の本体が現れるのは時間の問題だと言われている。そのため予め住民は避難を終えた。

 魔の森に沿って作られた砦では、騎士や治癒師達が交代で対応に当たる事になった。


 そんな話が聞こえて来た頃、西方騎士団でも、魔の森に隣接している砦に魔導騎士たちが常駐する事になった。

 国からの通達で、デモンズハーピーの危険性について高魔力保持者には情報が周知された。


「なぁアルフォンス、厄災の本体ってどんな感じなんだろうな」


 あまり美味しくない遠征の食事を口にしながらキリルが言う。


「さぁな。ただあんな大型がわんさか出てくるなら、地獄絵図だな…」


 こちらに来てから半月、大型の魔獣とひたすら戦っている。

 昨日はドラゴンのような見たこともない魔獣が出た。


「北方は厄災の本体がそろそろ現れるって話だ。こっちにも来るかもしれないな」


「あぁ」


 過去の記録では、西方でこれほど大型の魔獣が目撃された事はない。

 前回の厄災では今と同じ人数の魔導騎士でギリギリだったと聞いている。

 アルフォンスが通常の魔導騎士の何人分に匹敵するのかは分からないが、油断は出来ないだろう。


「はぁ、砦の食事ももう少し美味しければいいのに」


「そう言うな。こうなってくると食べられるだけでありがたいよ」


 補給部隊が襲われるせいで、食事すらもままならない日があるのだ。


「アルフォンスは良いよなぁ。ソフィアちゃん、今この砦の担当なんだろ?はぁ、メルちゃんに会いたい…」


 キリルが大袈裟に溜息を吐く。


「全然会ってないよ。俺は最前線にいるんだぞ、怪我をしない限りは後方部隊の所には行かないから」


「いや、治癒師に治してもらう怪我をしてないって、アルフォンスは化け物かよ」


「そんな事はないけど…」


 結局ソフィアとは裏庭で会話したきり会っていない。

 あの後すぐに砦に行く事になってしまったからだ。


(ソフィに会いたいけど、今はとにかく厄災を終わらせる)


 キリルとの会話でソフィアへの気持ちに気づいてしまった。

 いや、考えてみたら記憶を無くしてから自分はずっとおかしかった。

 対価を隠して治療しようとしたら事に腹を立てソフィアと言い争った後、思わず抱きしめてしまった時にはすでに手遅れだったと思う。

 心がギュッとなって、ソフィアの顔を見て語彙力が死んで。

 どうしても認めたくなかった。

 記憶を無くして急に恋人だと言われても、彼女の事を愛していない。自分にそう言い聞かせていた。

 それなのに、ソフィアが自分を全く知らない人間として扱った時、悲しくて苦しくて出来れば叫び出したかった。

 もう認めるしかない。

 自分はソフィアの事が好きだ。

 多分、ものすごく。


(一目惚れ…ではないはず。でもなぁ、ソフィは俺の事を何とも思ってないんだよなぁ)


 考えると溜息しか出ない。

 対外的には恋人同士、でも実際はアルフォンスの片思いだ。


(なんだこの状況。おかしいだろ)


 今考えることではない。

 魔獣に集中すべきだ。

 分かってはいるが、ふとした時に過ぎるのはソフィアの事。


(気づいたらもうダメだ。めちゃくちゃ好き。あーもう、思春期か、俺は!)


 ソフィアの前にも恋人はいた。

 それでも、こんなに好きだと思う事はなかった。

 みなアルフォンスの事は、子爵令息で魔導騎士としてしか見ていなかったから、長続きもしなかった。


(俺との関係も対価の事も告げずに魔力回路の治癒をして、そのまま身を引こうとするなんて、そんな事されたらもう好きになるだろ…)


 ズブズブと思考の沼に嵌りかけたアルフォンスにの耳に、緊急討伐の司令が入った。


「北方に厄災の本体が現れた!こちらにも向かってくる。すぐに出るぞ!」


 伝令に来た騎士の声に、急いで立ち上がる。


「キリル!」


「行こう!アルフォンス!」


 剣を持って見張り台から周囲を見渡す。遠くに見たこともない程の黒い塊が線のようにこちらに向かってくるのが分かる。その黒い塊は北方に繋がる辺りまで途切れることなく続いている。


「何だ…あれ…」


「あれが…厄災の本体…」


 恐ろしい。

 見たこともない禍々しさだ。

 アルフォンスの背中を冷たいものが流れる。

 逃げ出したいほどの恐怖。

 それでも、自分達がやらなければ被害は想像もつかない。多分、国が終わる。


「行くぞ!」


 外に出ると、騎士達が集まっている。

 ここを戦場にする訳にはいかない。

 騎士団員とはいえ非戦闘員も沢山いる。


 各部隊に分かれて本体に向かっていく。

 先程見た限り、すぐには遭遇しないだろう。

 それでも時折魔獣が現れる。

 ひたすら倒しながら、本体の元へ急ぐ。


「キーーーーーーーーッ!」


 聞き覚えのある声が前方から聞こえる。


「…デモンズハーピーか!」


 高魔力保持者にはデモンズハーピーの危険性が周知された。

 デモンズハーピーを見つけたら、とにかく離れる事。

 そしてアルフォンスには、北の英雄であるライオネルから魔法紙が届いた。

 ソフィアの事には触れず、それにはデモンズハーピーを倒す方法が書かれていた。

 デモンズハーピーを倒すには、氷と火を纏わせた剣でなければ切れない事。

 二属性を纏わせなければ倒せない為、補助してくれる魔術師が居なければ厳しい魔獣だと。

 きっと前回の厄災で戦ったのだろう。自分から記憶と魔力を奪ったデモンズハーピーと。


 ライオネルからの手紙を思い出し、剣に火と氷を纏わせる。


「お前だけは…絶対に!」


 アルフォンスが高魔力保持者だと気づいたのだろう。あの時のように口元が横に広がる。

 その瞬間、アルフォンスはデモンズハーピーの元に転移した。

 急に現れたアルフォンスに驚いたデモンズハーピーを胴から真っ二つに切る。


 デモンズハーピーの顔からは不気味な笑顔が消え、驚愕の表情を浮かべている。

 そしてすぐに、黒いモヤとなって消えた。


「やった…」


 こいつが全ての元凶だ。

 そのせいでソフィアは対価を支払ってアルフォンスを助けた。

 そのおかげでこれほどの魔力を手に入れたのは皮肉な話だが。


「先に進むぞ!」


 アルフォンスは自分の部隊に声を掛け、本体の元へ急いだ。





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