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真っ白な世界を、ソフィアは歩いていた。
白一色の、何も無い世界。
「ここ、どこ?」
止まっていても仕方がない。
とりあえず歩いてみる。
「え?もしかして私、死んじゃったの?」
まずい。
だとしたら大問題だ。
「やだぁ、どうしよう…」
まずいまずい。
アルフォンスにトラウマを植え付けてしまう。
「死んじゃうなんて、聞いてない…」
「死んではいない」
「え!?」
誰かの声が聞こえて周りを見渡すが誰も居ない。
「…お化け?」
「お化けではない」
声がする方を振り返ると、真っ白い人のようなものがいる。
「うわぁ!」
思わず後退る。
「理を外れた者よ」
「え?」
理を外れた?
魔力回路の治癒の事だろうか?
「そうだ」
「!」
(思った事が分かるって事?)
「そうだ」
「え、すごい。あ、神様、ですか?」
「違う。私は観測する者」
「観測?」
「人の営みに干渉せず、ただ観察する。理から外れた者には罰を。それが私の役割だ」
「あー…じゃあ私は罰を?」
「そうだ」
(罰かぁ)
話している人物が眩しくて、表情がよく見えない。
「えっと…お名前とかありますか?神様的な、あの、白い方?」
「…好きに呼べ」
「じゃあ神様、ここは…どこなんですか?天国?」
「ここは理を外れた者が訪れる場所だ」
とりあえず、魔力回路の治癒をした者が来る場所という事か。
(母さんも来たって事?)
「そうだ。お前の母親も以前ここに呼ばれた」
「そんな事、一度も聞いた事無いんですが…」
(私は今とんでもない話を聞いてるんじゃない?)
「目を覚ませば、ここでの事は全て忘れる」
「そう、ですか」
だから誰もこの事を教えてくれなかったのか。
ここに来た人は皆、聞いた事を忘れるから。
「人は愚かだ。同じ種族で殺し合い、一方で助ける為に自分を犠牲にする。お前の母親よりもずっと前、何度もここに呼ばれた者達は望まぬ犠牲を払い続け、泣きながらここを去り、また戻って来た。対価を取られ生活もままならぬ中、魔力を無くして欲しいと頼んだ者もいた」
「それは…」
ローウェン王国の過去の歴史だろうか。
「そうだ。愚かな王が人を人とも思わぬ所業を繰り返して来た。私は観察し、罰を与えた」
神様(仮)は、ずっと見るだけしか出来なかったのだろうか。
だとしたらひどく歯痒い思いをしていたのでは。
「…(仮)はやめろ。私は観察するだけ。人は人の理の中で生きている」
ならば神様でいいか。
「それで良い。さて人の子よ。お前の対価はもう決まっている」
「え?」
「対価は自分が一番大事に思っているもの。子を抱きしめたい者からは腕の力を、愛する者の声を聞きたい者からは聴力を、愛する者と話したい者からは声を、愛する者を忘れたく無い者からは記憶を、母になる者からは腹の子を。無意識に大事に思っているものを取られる」
「!」
恐ろしい。
ガタガタと震えが止まらない。
私の対価とは。
「お前の母は愛する者を忘れたくなかった。だから記憶を取られた。お前は命拾いしたのに、ここに来てしまった」
母が妊娠に気づかなかったから私は取られなかっただけだ。
「ああ。本当に愚かだ。自分以外の者の為に自分を犠牲にするのだから」
(怖い、怖い…)
「怖いか、人の子よ。しかしお前はここに来た。対価を払わねばここらからは戻れぬ」
なんて恐ろしいのだ。
しかしなぜだろう。同時に、神様?からは悲しげな様に見えるのは。
(なんか…少し寂しそう)
「…?を付けるな。私は寂しくは無い。未来永劫、人が消えるまでここでただ観察する。それが私の役割だ」
「…ずっと…一人で…?」
「そうだ。それが私に課せられた役割。ただ人の営みを見続け、争いを繰り返す様を観察する。人は変わらぬ。過去も、未来も」
なおも白い人物は続ける。
「ずっと見てきた。長い時間ずっと。親兄弟で殺し合う様も、他人の為に泣いて喜ぶ姿も。人は愚かだ、そして可愛い」
「そう…ですか」
愚かで可愛い。
ソフィアに分かるような分からないような内容だ。
「人の子は理解せずとも良い」
(あれ?考えただけで会話出来るとか、ちょっと便利だな)
この状況に不釣り合いな考えがよぎる。
「…そんな事を考えたのは、お前の母親ぐらいだ。ここに来る者は、みな一様に絶望していた。それなのにお前も母親も、愛する者を救える喜びと共に来た。私には理解出来ぬ」
母も同じ事を思ったのか。
何だか同じ血を感じて少し嬉しい。
「戻れ人の子。目を覚ました時、お前は対価を払い終わっている。そして二度とここに来てはいけない」
神様の周りが急に光出した。
「きゃっ!」
強い風が吹いて目を開けていられない。
下に落ちるような浮遊感に襲われる。
内臓が浮き上がるような気持ちの悪さ。
目を瞑っていても分かる強烈な光を感じた瞬間、ソフィアの意識は途切れた。




