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私を忘れた貴方と、貴方を忘れた私の顛末  作者: コツメカワウソ


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 無言の昼食が終わり、ソフィアとアルフォンスは改めて話し合うことになった。


「とりあえず、あなたに全て知られちゃったらから、他の人には記憶が無い事がバレないようにしないといけないでしょ?ずっとは無理でもせめて治療が終わるまでは」


「そうだな」


「だからね、隊舎ではなるべく会わないように避けるからよろしく」


「え?そうなのか?」


「厄災前で忙しくて会うことはそうそう無いと思うけど、念には念を入れましょう」


 うんうんと満足気に頷いているソフィアを見て、何故だかアルフォンスは不思議な気持ちになる。


(なんか…モヤモヤするなぁ)


「それから、治療が終わったら私、少し眠ると思うの。多分一日か二日くらい」


「え?」


「だから、あなたからは会いに来なくていいからね」


「は?」


 何だ、それ。


「厄災が近いんだから、仕事優先でしょ?別に命に関わる事は無いんだから大丈夫よ」


「いや、そう言う事じゃなくて」


「え?」


「なんて言うかさ、吹っ切れすぎじゃない?団長室の時と、随分印象が違うんだけど」


 ここに来てからずっとソフィアに抱いていた印象の違和感。

 もっとか弱い女性かと思っていた。

 最も、言い合いになった時にはさすがにそうでは無いと気づいたが。


「ん~、あなたといた時もこんな感じだったけど。でも、そうね。吹っ切れたかも。あなたに色々隠したまま治療するの、良くないって分かってたし、さっきまですごく緊張していたから。分かってもらえて良かったって」


「そうか…」


「両親の事も、誓約に引っかかる事が多くて詳しく話した事無かったし。あなたが私をもう愛してないんだって分かったら、本当に心置きなく治療出来るなって。そう思ったら、結構気持ちが晴れやかなのよね」


 ニコニコと笑いながら話すソフィアを見て、アルフォンスは何ともいえない表情になる。


(俺が愛してないって分かって嬉しそうとか…何だろうな…やっぱりモヤモヤする…)


 恋人同士であったことを知って、それに気持ちが引っ張られているのだろうか。

 ふと、ジョシュアが言っていた事を思い出す。


(彼女も母親も思い切りが良すぎるって怒ってたのは、こう言うことか…)


 無理をしている訳でもなさそうだし、自分だけがこんな気持ちになっている事も何となく知られたくない。

 そんなアルフォンスの気持ちも知らず、ソフィアは続ける。


「とりあえず、みんなの前では恋人同士って事で通しましょう。何か聞かれても、頑張って誤魔化してね。私も忙しくて会ってないから分からないで通すから。多分そう遠くない時期に治療はできるだろうから、バレる事は無いと思う」


「…ねぇ、俺達がどんな風に過ごしていたのか、教えてくれないか?」


「え?」


「あー、何か聞かれた時に、少しでも情報があった方がいいだろう?」


「あ、確かにそうね。何を聞きたい?」


 コーヒーでも淹れるわね、とソフィアは立ち上がる。

 ゴリゴリと豆を引いているソフィアに、アルフォンスは尋ねる。


「俺達はどのくらい付き合ってたの?」


「んー、二年くらいかな」


「どっちから告白したの?」


「あなたからよ」


「そうなのか?」


「えぇ。もうグイグイ来てたわ」


 ケラケラとソフィアが笑う。


「ふ~ん。デートはどこに行ってたの?」


 そうねぇ、とドリッパーに湯を注ぎながらソフィアは考える。


「買い物とか植物園とか、珍しい薬草とか見たいって言ったら連れて行ってくれたの。カフェにもよく行ってたわね。あ、あとあなたが子供の頃によく行ってた湖とか」


「そうか…」


(あそこに連れて行ってたんだ…)


 子供の頃、こっそり剣の練習をしていた秘密の場所だ。まぁ子供にとっては秘密の場所だと思っていたが、ただの人の来ない広場だ。


(俺は本当に、彼女の事が好きだったんだな)


 自分の事なのにどこか他人事のように、アルフォンスは思う。


「はい、コーヒーどうぞ。あ、そういえばこのカップあなた用に買ったの。良かったら持って帰ってね」


「え?」


「他にもいくつか荷物があるから、それも一緒に渡すわね。良かった、どうやって返そうかと思ってたのよ」


 そう言いながら荷物を取りに行こうと、ソフィアはリビングに向かう。


「ほら、無いと困るものもあるでしょう?だから…」


「ちょっと待って!」


 ソフィアの腕をアルフォンスが掴んだ。


「え?何?」


「また!来る事があるかもしれないから!」


 ソフィアは驚いているが、腕を掴んだはずのアルフォンスも驚いている。


(俺は、何をしてるんだ…!)


 何故か必死になって腕をつかみ、彼女の家にまた来る事を望んでいる。


「えー…そんな事あるかしら?」


「あるから!」


 いや、必死。


「とりあえず、今日は持って帰ったら?」


「いや、また今度にする」


「えー…」


 …解せぬ。 

 ソフィアは思う。

 アルフォンスは何故こんなに必死なのか。

 彼なりの責任感だろうが、別にそんなもの感じてもらう必要などないのに。


「あなたのー」

「それ!」


 話そうとしたソフィアに、アルフォンスが被せる様に声を出す。


「え?」


「ずっと気になってた。その『あなた』って言い方、やめた方が良くないか?名前で呼び合ってたんじゃない?」


「えぇ。そうだけど」


「俺は君の事、なんて呼んでたの?ソフィア?ソフィアちゃん?」


「………ソフィ」


 言いにくそうにソフィアが下を向く。


「そっか。じゃあソフィは俺の事なんて呼んでたの?」


「………」


「ん?ソフィ?」


 何も言わないソフィアを覗き込むと、目からポロポロと涙を流している。


「え?あの、俺何かしちゃった!?ごめん!」


「違うの…」


「え?」


「もう…ソフィって呼ばれる事、無いと思ってたから…」


 愛称で呼ぶなんて、親しい者だけだ。

 二人の間はもう、そんな関係じゃない。

 吹っ切れたと思っていたのに。


「えっと…」


「…アル」


「え?」


「アルって、呼んでた」


 泣き笑いのような顔で見上げるソフィアを見て、アルフォンスは息を飲む。


(あ、これはヤバいかもしれない)


 彼女の顔を見ていたら、なんだかクラクラする。

 ヤバい、ヤバい、ヤバい。

 語彙力が死んだ。

 勉強が苦手なアルフォンスには、元よりそんなものは無かったが。


(めちゃくちゃ、抱きしめたい)


 目の前にいるソフィアが可愛くて。

 泣いてる姿を見ていられなくて。

 ガッツリ、心を掴まれた。

 アルフォンスは思わず、掴んだままだった腕をグッと引っ張り抱き寄せた。



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