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アルフォンスは何を言っているのか。
ソフィアはそんな事望んでいない。
そうならない為に対価を告げずに治療しようとしたというのに。
「君に何があっても俺は逃げないし、君を一人には絶対にしないよ」
「え?何言ってるの。別にそんな事望んでないわ」
「どうしてだよ!」
「そうならない為にあなたに言わなかったからよ!」
アルフォンスには憂いなく魔力を取り戻して欲しい、それがソフィアの一番の願いだ。
その後自分が側にいる事は考えていなかった。無理な事だと分かっていたから。
母の治癒院を手伝って、北方で暮らしていくつもりだった。
「もう俺は知ったんだから、そんなの無理だろ!」
「無理じゃないわ!それに私は、これからもあなたの側にいるつもりはないの!」
「は?」
アルフォンスとここまで言い争いをした事はない。
ソフィア自身お淑やかでは決してないし、弟達とはいつもこんな感じだった。
しかしなぜ今、こんな不毛な言い争いをしているのだろう。
「だってそうでしょう。体の機能が取られたら、騎士団にだっていられないだろうし。それにもし私の対価が記憶だったらあなたの事なんて忘れるのよ?お互いに忘れたなら問題ないでしょ?」
「俺を忘れる?」
「えぇ。母はそうだったから。恋人である父の事を忘れたわ」
ソフィアの言葉を聞いて、アルフォンスはモヤッとした。
いなくなることが既定路線なのかと。
「じゃあ違う男と結婚するって事なのか!?」
「はぁ?あなただってたくさん見合いの話が来てたじゃない!」
「っ!何でそれを!」
「知ってるわよ!噂話くらい入ってくるし、何ならご丁寧に教えに来てくれる人だっていたわよ!大体、今のあなたは私の事を愛していないんだから、気にする事なんかないわ!」
自分で言って傷つく。
責任感の強いアルフォンスは、たとえソフィアを愛していなくても側に居ようとするだろう。
それでは駄目なのだ。
何が起こるか分からない自分がいれば、きっとアルフォンスに迷惑をかけてしまう。
「そりゃあ、愛していると言われれば違うけど」
「そうでしょう?だったら良くない!?」
お互い頭に血が上って、どんどんヒートアップしていく。
「何でそんなに強情なんだ!」
「私が希望して治療するんだから、責任なんて取ってもらう必要はないでしょう?」
「責任なら…俺の部屋に君のパジャマがあった。使いかけの化粧水も!俺の部屋に泊まってたって事だよな?」
「それは…そうだけど」
「じゃあ…えっと…そういう関係があったんだろう?」
「は?」
「か、体の関係だよ!」
自分で言っていて恥ずかしくなる。
アルフォンスは顔の温度が上がるのを感じる。
見ると、ソフィアの顔も赤い。
どんどんおかしな方向に話が向かっている。
「あ…あったけど…」
「じゃあ!責任を取る必要はちゃんとあるだろう!」
「今時貴族令嬢だって、結婚前に済ましてるわよ!メルだって男爵令嬢だけど、いつも彼氏がいるじゃない!」
メルはよくモテる。
よくデートにも行くし、彼氏も割と短いスパンで変わる。
それでもトラブルは無いらしく、本人曰く『ちゃんとお話ししてキレイに別れてますよ~』との事だった。
「彼女は騎士にも人気だからな。キリルは何度か振られてる」
「エリーさんだって、結婚前に妊娠したって言ってたわ!」
「知ってる。あんなにエリーさんのことを愛している副団長が、我慢なんか出来る訳ない」
「じゃあ別に問題ないでしょう!?」
ソフィアがそう言った時、書記官室のドアが乱暴に開けられた。




