33 SIDEアルフォンス④
フェイと共に、アルフォンスは廊下を歩く。
すでに外は暗い。誰もいない廊下に二人の足音だけが響く。
「今日は本当に大変だったね。まぁゆっくり休んで。早いうちに連絡があるだろうから、その時にはもっと詳しい話があると思うよ」
「もっと詳しい話?」
「そう、多分ね。もしかしたら…ちょっと荒れるかもしれないけど」
荒れるとは?
何の事だかさっぱり分からない。
「フェイ師長、今日話をしたソフィアという治癒師は?初めて見る方のようですが」
「あー。うん、彼女は今回の事には一番の適任者だ」
「師長よりも?」
そんな事、あるだろうか。
ソフィアは明らかに師長の娘ほどの年齢だ。
「あぁ、そうだよ。私達のような師匠付きの治癒師にも、いろいろあるって事だ。現に君、さっき彼女が言ってた事、今まで誰かから聞いた事あったかい?」
そう言われると言葉に詰まる。
彼女が話していた内容は、今まで教えられたものより明らかに違った。むしろ真逆だ。
「騎士学校で魔力について授業していたのは、魔術師か魔導騎士だったろう?」
急に学生時代の話を振られて驚く。
考えてみたら、確かにそうだ。
教師は確か、魔導騎士だった。
「私達は誓約があるから教える事は出来ない。だから必ず、誓約を知らない者のはずだよ」
話しながら、気づくと隊舎の玄関まで来ていた。
「お疲れ様。今日はゆっくり休んでね。誓約の事は言えないだろうけど、隊長室で話した事は他言無用だ」
「それはもちろん…話しませんが」
「うん。何も気にせず、というのは無理だろうけど、まぁ解決策があるのは分かったんだ。ゆっくり休みなさい」
「はい。失礼します」
フェイと別れてアパートへ急ぐ。
家に食べ物がない事を思い出し、途中で惣菜を買った。
アパートに入ると、手紙が届いていた。
差出人を見てため息を吐く。
「また見合いの話か」
どれだけ断っても、懲りずに話を持ってくる両親にうんざりする。
実家は長兄が継いでいるし、甥も二人いる。三男なんだから、放っておいてくれてもいいのに。
荷物を置いてベッドに倒れ込む。
信じられないような一日だった。
朝、目が覚めたら魔力が無くなっていた。
呪いを掛けられて魔力回路を壊された事を聞いた。
魔力回路は治癒は出来る。しかしそのためには治癒師側が対価を払う。
突然の事に感情が追いつかない。
あんなに絶望を感じた事は無かった。
それなのに、聞いた話が衝撃的すぎた。
「何なんだよ、もう」
ソフィアという謎の治癒師。
なぜ彼女が魔力回路の治癒に詳しいのか。いや、呪いについてもか。
「風呂、入ろう」
昨日は一晩治癒室で過ごした。
さっぱりしてから夕飯を食べよう。
シャワーを浴びると、温かい湯が色んなものを流してくれるようだった。
髪の毛を拭きながら部屋に戻ると、何か違和感がある。
「何だ?変な感じがする」
ぐるりと部屋を見渡して、違和感の正体に気づく。
部屋の中に、女性用と思しき物が置いてある。
棚の上のシュシュ、使いかけの化粧水。
アルフォンスはハッとして手に取った。
「恋人の物?」
団長室では誰も分からないと言っていたが、確かに存在するようだ。
部屋の中を必死に探す。
女性用のパジャマらしきワンピース、自分のものではない櫛、銀細工の手鏡。
机の奥の、大切な物だけを入れてある引き出しを開けた時、見覚えのない物を見つけた。
「指輪?」
大切そうに仕舞ってある。小さなケースに入ったそれは、明らかに女性用のサイズだ。
ケースから出して指輪を眺める。
ぐるりと蔦のような模様があるが、石は付いていない。
まるで…。
「結婚指輪みたいなデザインだな。何でこんな物が」
買った覚えのない指輪。
「ん?刻印が…」
A to S
「イニシャルか。A to …S?」
自分の机から出てきた物なら、普通に考えればアルフォンス自身が誰かに贈ろうとしたんだろう。
「俺は、誰かにプロポーズをしようとしていたのかな」
では誰に?
Sのイニシャルを持つ相手。
「そう言えば、ソフィア嬢もSか…」
ふと過ぎる考えに、首を振る。
(それは無いか。彼女とは初対面だし)
恋人が記憶喪失ならば、落ち着いてなどいられないはずだ。
冷静に話していた彼女を思い出し、違うとだろうと思う。
アルフォンスが考えていると、手元が急に光った。
魔法紙だ。
封筒を開けるとカイルからだ。
明日の朝、団長室に来るようにとの内容だった。
フェイ師長が言っていた、詳しい話という事だろうか。
「さっさと夕飯食べて、もう寝よう」
アルフォンスは指輪を元に戻し、キッチンに向かった。




