30 SIDEアルフォンス①
その日、魔の森近くの街から小型の魔獣の調査要請が入り、アルフォンスの部隊は朝から街に向かっていた。
目撃されたのは狼型の小型の魔獣の群れで、討伐となっても対応できるだろう。
しかし、群れと共に現れたのは見たことない魔獣だった。
「キリル、何だあれ?」
剣を構え、同じ部隊のキリルに声を掛ける。
「俺にも分からない。アルフォンスも知らないのか?」
上半身が女性のようで、下半身は鳥。
キーキーと、嫌な声を出している。
笑っているようにも怒っているようにも見えるその顔は、ひどく不気味だった。
「見た事ないな…厄災が迫っているからか?」
突然飛びかかってきた狼型を躱して切り付ける。
一匹ならば脅威ではないが、とにかく数が多い。
見た事もない魔獣から目を離さないように、ジリジリと距離を詰める。
「アルフォンス、あれはデモンズハーピーだ!」
横から飛びかかってきた狼型を薙ぎ払いながら、レギスが答えた。
「レギスさん、知ってるですか!?」
狼型にやられたのか、遠くで大きな声が上がる。
(あれは…ビルか?)
助けに行きたいが魔獣の数が多くて近づけない。
(クソッ!)
「アルフォンス!あいつは厄災の前触れだ!詳しい事は俺も知らん!」
騎士歴が長いレギスが詳しく知らないならば、珍しい魔獣だろう。
相変わらずキーキーとうるさいデモンズハーピーの鳴き声が耳障りだ。
「何なんだアイツは!」
狼型を倒しながら、アルフォンスはデモンズハーピーに近づいた。
途中狼型に爪で傷付けられたが、気にしている余裕は無い。
奴の弱点は分からないが、下半身は鳥型だ。とりあえず剣に炎を纏わせる。
半分とは言え人のような魔獣を斬るのは良い気分ではないが、今はやるしかない。
袈裟懸けに斬ろうとしたが、アルフォンスの剣が弾かれた。
咄嗟に飛び退いて間合いを取る。
ジリジリと近づいてくるデモンズハーピーに冷や汗が流れる。
(魔導騎士は俺しか居ないか。こんな時に!)
小型の調査だから魔導騎士はアルフォンスしか来なかった。
どのみち魔導騎士は少ないのだから、来れたかどうかも分からないが。
(火がダメなら水か?)
アルフォンスは水を纏わせた剣で切り掛かるが躱される。
相変わらずキーキーとうるさい。
(笑っているのか!)
気味が悪い。
飛びかかってきた狼型を切ろうとした時、デモンズハーピーが手を振り上げた。鳩尾に強い衝撃を感じて、一瞬息が止まる。
(風魔法…か?)
肋骨が折れたかもしれない。
呼吸をすると痛みが強くなる。
(弱点は何だ?二属性で同時攻撃か?)
だとしたら、倒す事は無理だ。
他に魔導騎士はいない。
アルフォンスの魔力量では剣に纏わせる事が出来るのは一属性だけだ。
二属性を纏わせるような事が出来るは、北の英雄くらいだろう。
アルフォンスは属性を変えて切り付けるが、硬い羽の様なものに弾かれる。
狼型はかなり少なくなっている。そちらはキリル達に任せておけば大丈夫だろう。
「キリル!狼を倒し切ったら一度引くぞ!こいつは魔法が通らない!」
アルフォンスがそう叫んだ時だった。
ニイッと笑う様に口を横に開くと、鳴いていたデモンズハーピーが一際大きな声を上げた。
「なっ!」
突然目の前が真っ白になる。
(魔法か!)
「大丈夫か!アルフォンス!!」
キリルの声がする。
デモンズハーピーから距離を取らなければやられる。そう思って後ろに下がろうとしたアルフォンスは、そのまま地面に崩れ落ちた。
体の中を直接探られるような気持ちの悪さ。
内臓を掴まれるような感触。
(何…だ…これ…)
意識を失う寸前、ふと誰かの笑顔が浮かぶ。
「ソ…フ……」
名前を呼ぼうとしたが、最後まで言えない。
「アルフォンス!!!」
キリルの声か、と思った時にはアルフォンスの意識が途絶えた。
次にアルフォンスが目を覚したのは、ベッドの上だった。
「…ん…」
声を上げたアルフォンスを、誰かが覗き込んだ。
「…ここ、は?」
(俺は…あれから気を失った…?)
「…ここは、治癒室、です」
(治癒師の誰か、か?)
「…そう、か」
あれから部隊がどうなったか、彼女は知っているのだろうか。
「…俺の部隊は?無事、か?」
「怪我をされた方も、いましたが、もう治療は終わって、いま、す」
「そうか…良かった」
(皆無事だったのか…良かった)
「君は…」
アルフォンスは、自分を覗き込む女性に尋ねる。
「…私のこと、分かります、か?」
(…誰だ?新しく入った、治癒師か?)
アルフォンスをしばらく女性を見つめたが、分からない。
「君は…誰、だろう。分からない…ごめん」
(何だ…泣きそうになって)
彼女の泣きそうな顔を見ると、やたらと苦しい気持ちになる。
「まだ夜、です。休んでください」
「…ありがとう」
(あぁ、何だろう。すごく眠い…)
目を閉じると、アルフォンスはすぐに眠りについた。




