20
家に帰ってもとても眠る気になどなれなかった。
シャワーを浴びてベッドに横になったが目が冴える。結局、朝早く騎士団に戻った。
治癒室に入ると、クリオが眠そうな顔でコーヒーを飲んでいる。
「早いね、ソフィア。まだ就業まで時間があるよ」
そう言うと、ソフィアの前にコーヒーを置いてくれた。
香ばしい香りに心が安らぐ。
「師長が来たらすぐに話がしたくて」
「あぁ、師長だったら師長室にいるよ。昨日は泊まったみたいだから」
「そうなんですか?」
「さっきコーヒーを持ってきてくれたよ」
今飲んでるコレね、そう言うとクリオはマグカップを指差した。
「じゃあきっと起きてますね。ちょっと行ってきます」
「はいは~い」
手を振るクリオにお礼を言ってから、師長室に向かう。
ドアをノックすると、「どうぞ~」と声がした。
「あぁおはようソフィア。眠れ…てはいないみたいだね。昨日ランセル卿と話をしたってクリオから聞いたけど」
「…はい。やっぱり、私の事は覚えていませんでした」
「そうか…」
フェイは手に持っていた書類を置くと、ソフィアに向き直った。
「さて、私は今から団長室に行ってくる。ソフィアが治療を希望していると報告しないとね。君も行くかい?」
フェイの問いかけに少し悩んでソフィアは答える。
「いえ、師長にお任せします」
「そうか。ちょっと今日は忙しくなりそうだ。ランセル卿には…彼が目を覚ましても、団長達との話が終わるまで会わない方がいいね。今日の君の仕事は師長室で私の手伝いをやってもらおうかな。みんなにも言っておくから大丈夫。この書類を処理してもらえたらとても助かるよ。提出が遅いって事務方にいつも怒られるんだ」
そう言ってフェイは部屋を出て行った。
しばらく書類と格闘していたが、治癒室が騒がしい事に気づいた。アルフォンスが目を覚ましたのかもしれない。すぐにバタバタと足音がして、静かになった。
アルフォンスの怪我はしっかりと治したから、もう歩く事は出来るだろう。
目を覚まさなかったのは呪いを掛けられたせいか、魔力回路を壊された弊害か。
父からも、デモンズハーピーに襲撃されて気を失った後、しばらく目を覚まさなかったと聞いた。
フェイが溜めまくった書類の処理が終わったのは、昼の鐘がなってしばらくしてからだった。
「ソフィア、お昼に行かない?」
エリーが誘いに来てくれて、二人で食堂に向かう。
人が来ない隅のテーブルに座り、ランチのスープを飲んだら少し気持ちが落ち着いた。
「ランセル卿が目を覚ましたの。すぐにカイルが団長室に連れて行ったわ」
「そう、ですか」
「えっと…師長から昨日の夜の事は聞いたわ。彼は…」
「はい、忘れてました」
話をすると涙が出そうだ。
「そう…」
二人とも黙々と食事をする。
こんな時でも今日のランチセットは美味しい。
(あんなに悲しかったのに、意外と図太い神経してるわね、私)
食事が終わるとエリーと別れて師長室に向かう。
「書類が片付いて助かったよ~」とフェイが嬉しそうだ。
「ランセル卿が…ちょっと荒れているみたいでね。ただ団長も君から話を聞きたいみたいなんだ。行ける?」
「はい。伺います」
「誓約に介入しないといけないから、私も一緒に行こう。誓約に縛られない彼らは自由に話が出来る事も、我々には出来ないんだから本当に不便だよね」
フェイは不満げに紅茶を飲んで立ち上がった。




